ようこそ「腐敗の黄金時代」へ! トランプのSNS投稿直前に謎の大規模取引、市場操作疑惑を徹底検証
昔から何も変わっていない。アメリカにはペテン師が山ほどいる。顔を見せない裏取引の達人に、言葉巧みな詐欺の名手。あるいは議員になった途端に投資で荒稼ぎし始める政治家(これは二大政党の両方にいる)。 【動画】トランプが市場が閉まっている時に戦争を仕掛ける理由 しかし今の連中は最高に厚かましく、あきれるほど恥知らずだ。既存のルールは意に介さず、さっさとゴミ箱に捨てる。大統領好みの宴会場を新設するために解体されたホワイトハウス東棟の残骸と同じだ。みんな見ているのに、誰もとがめない。 ようこそ腐敗の黄金時代へ。さあ現金を持ってこい、いや待て、今なら先物取引のほうがいいかもな……。 3月23日の月曜日、アメリカ東部時間の午前6時49分。まだ市場が開く前に何者か(たぶん正体は永遠に不明だ)が原油と株の先物におよそ5億ドル(約800億円)の注文を出した。どうやら原油価格はすぐにも下がり、株価は上がると読んだようだ。 その時点で公開されていた情報のどこを探しても、そんなふうに市場を揺さぶりそうな地政学的展開の兆しは見えなかった。 しかし、読みは当たった。 15分後の午前7時4分、アメリカ大統領ドナルド・トランプは自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、イランとの停戦協議を始めた、あの国のエネルギー関連施設への攻撃は延期すると投稿した。直後に原油価格は急落し、株価は上昇。15分前に相場を張った人物はがっぽり儲けた。民主党上院議員のクリストファー・マーフィーはこれを「衝撃の腐敗」と呼んだ。ただし異常な市場動向を見慣れている先物取引のベテラン、マイク・コウは本誌に、もっと抑制の利いた答え方をした。「株式市場が上昇し、原油価格が急激に下がることに賭ける。その数分後に大統領が投稿する。まあ、偶然というものはある。それは否定しない。しかし、めったにない」 健全な時代、つまりアメリカの民主主義がまだ機能していて世論が政治的に分断されていない時代なら、すぐにも公的機関の捜査が始まっていい話だ。米証券取引委員会(SEC)はプロの分析官を派遣し、米商品先物取引委員会(CFTC)は取引記録の提出を求めるはずだ。どちらも、市場の健全性を守るために存在する機関なのだから。 ところがSECの執行部門責任者は1週間前に、在任わずか6カ月で辞任していた。一方でCFTCの組織は骨抜きにされ、予測市場や暗号資産を扱う企業の元幹部らがずらりと並ぶ諮問委員会が新設されている。司法省の政府監査部門も空洞化している。 3月23日早朝の先物取引から見えてくるものは何か。それは今なお(たとえ甘いと言われても)公正さと誠実さに基づく「アメリカの約束」を信じる私たちが憂慮すべき1つのパターンだ。そこには疑わしい取引がいくつもあり、監視機関の中立性は失われ、重要な未公開情報と証券取引の口座を持つ者なら誰でも好き勝手に手を出せるような環境が整っている。 3月23日の取引はあまりに大胆だった。ロイター通信の報じた取引データによれば、午前6時49分から同50分までに北海ブレントとウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)の原油先物市場で5100~6200枚の取引があった。通常ならほとんど動きのない時間帯なのに、たった1分で5億ドル以上の資金が動いたことになる。 こうして約5億8000万ドル分の原油先物が売り浴びせられる一方、同時にスタンダード&プアーズ(S&P)500種株価指数に連動する先物契約でも最大20億ドル相当が取引された。直後に起きる展開を見透かした取引と言わざるを得ない。ちなみにホワイトハウスの職員には翌日、自らの地位を利用して先物取引に手を出さないようにとの警告が出たそうだ。 市場の荒波をくぐり抜けて数々の資産運用を手掛け、オプション戦略の助言も行ってきたコウによると、このような投機筋には1枚当たり2万4000~2万5000ドルの証拠金が求められる。ならばこの人物は月曜日の早朝、市場が開く前に何千万ドルかを、強い確信をもって投じたことになる。「個人投資家ではない」とコウは断言した。「疑惑を招くのは当然だ」 むろん疑惑は招いた。だが規制当局が動き、事の重大性に見合った対応をすることは(少なくとも表向きは)なかった。分刻みでニュースが更新されるような時代にあっては、市井の人々が怒りの声を上げても、すぐ次の話題にかき消されてしまう。悪質な市場操作? いやいや、もっとひどい話がある。 そう、トランプがイランとの2週間の停戦合意を発表した4月7日にも、発表の数時間前に同じようなことが起きていた。LSEG(ロンドン証券取引所グループ)のデータによれば、複数の投資家が原油価格の下落を見越し、北海ブレントとWTIの先物計8600枚(約9億5000万ドル相当)のポジションを取っていた。情勢の安定に大きく賭けた投資家が儲けたのは間違いない。 また英フィナンシャル・タイムズ紙によると、モルガン・スタンレーで国防長官ピート・ヘグセスの個人口座を担当する人物は今年2月、資産運用会社ブラックロックに接触し、防衛大手企業を組み入れたETF(上場投資信託)への数百万ドルの投資を持ちかけていた。ただしこの取引はブラックロック社内で問題視され、実行には移されなかったという。 一方、疑惑を調査するはずの公的機関が動いた気配はない。詐欺行為の追及に積極的だったSECの執行責任者マーガレット・ライアンは3月中旬、就任からわずか6カ月で突如辞任した。ロイターの報道によれば、第2次トランプ政権でSECの委員長に起用されたポール・アトキンスに煙たがられたようだ。 司法省はどうか。あそこにはウォーターゲート事件後に設置された「公的誠実性」部門がある。政府部内の腐敗をただすのが役目で、トランプがホワイトハウスに戻ってきた時点では専従の法律家が36人いた。しかし今は2人きり。身内の悪には目をつぶれ、ということだろう。 在来型のインサイダー取引なら、規制当局が取引記録などの証拠を調べて(その気になれば)摘発できる。しかし今は各種の「予測市場」で多額の資金が動いている。こちらは先物市場より透明性が低く、当局の目が届かず、ある意味、たちが悪い。 有力な運営会社は「ポリマーケット」や「カルシ」などで、そこでは現実世界で何が起こるかを予測して金を賭ける。予測どおりになれば勝ち、外れたら負けだ。「アメリカは2月28日までにイランを攻撃する」に賭けた人は勝ち。「3月中に停戦が成立する」に賭けた人は負け。「イエス・キリストは今年中に再臨する」に賭けた人もいるが、結果はまだ出ていない。 米軍によるイラン攻撃日の予測には、なんと5億ドル以上が投じられていた。そして攻撃開始の数日前に、実に興味深い動きがあった。 ブロックチェーン分析会社バブルマップスによると、この時は6つのアカウントが合計120万ドルの利益を上げていた。そのうちの1つは2月にポリマーケットに登録したばかりで、他のトピックに賭けたことは一度もなかったが、約50万ドルを稼いだ。 ※この記事は前編です。後編「規制当局を無力化し、権力者が甘い汁を吸う…トランプ政権下で進む市場操作と民主主義の危機」は関連記事リンクからご覧ください。
カーロ・ベルサノ (政治・文化担当) 、ヒュー・キャメロン (米国ニュース担当)