オーディオとモデムを普及させるのに一役買ったAMRとACR 消え去ったI/F史
先週CSAの記事を書いているときに、芋づる式に思い出したのがAMRとACRである。そういえばこちらは若干カードが出ていたと思う(秋葉原でもわずかな期間、売ってた店があったような記憶もある)。
オーディオデバイスを定義したAC'97と モデムを定義したModem 97を策定
1994年、マイクロソフトはHardware Design Guideという書籍を発売する。Windows 95を発売した1995年には改称され、Hardware Design Guide for Windows 95となった。
Hardware Design Guideの表紙。当時はまだインターネット普及以前の時代だから、こうした仕様書は書籍の形でしか流通していなかった。ちなみに日本語版もある、というかあった(すでに絶版)
この本の中でマイクロソフトとインテルは共同で、Windows 95を稼働させるために必要なハードウェアの構成について説明している。このデザインガイドはその後も改定され、以下としてリリースされた。
- PC 97 Hardware Design Guide
- PC 98 System Design Guide
- PC 99 System Design Guide
- PC 2001 System Design Guide
ところが、このPC 97がいろいろ曲者だった。PC 97では新しいデバイスの定義がいろいろなされている。例えばオーディオにはBaseline Audio for PC 97とPC 97 Advanced audioという2種類のオーディオデバイスが定義されたし、モデムに関してもPC 97 Modemという新しいモデムデバイスが定義された。
実はこのオーディオとモデム、どちらも従来PCで使われてきたものとは異なっている。オーディオではSound Blasterやその後継/互換製品のI/Fが広く利用されていたが、Windows 95ではPnP(Plug and Play)への対応が求められていたことや、出力の仕様がSound Blasterの能力を超える(Sound Blaster 16とはいい勝負)ものであり、また内部構造もまったく異なっていた。
モデムも同じである。まだインターネットの普及が本格的になる前の話であり、PCはモデムを介して電話回線経由でパソコン通信サービスや一部のインターネットプロバイダーに接続していた時代である。この時代、モデムは外付けにすることが多かった(ので、RS-232-Cポート経由で接続していた)が、一部機種はモデムを内蔵していた。
この場合CPUから見ると、新たなRS-232-Cポート(COM3:やCOM5:など)が湧いており、このCOM3なりCOM5の先にモデムがつながっていて、そこにATコマンドを発行すると通信できる、という構図だった。
ところがPC 97ではRS-232-Cポートそのものを削る(仮想的にUSBの先にRS-232-Cをエミュレーションするポートが存在するのは許された)方向だったため、これもなんとかする必要があった。
最終的にオーディオはAC'97、モデムはModem 97という名称で標準化され、1999年ころから本格的に普及を開始する。なぜ1999年か? というと、この年にインテルがレガーシーフリーを謳ってHubLinkアーキテクチャーを全面採用したIntel 810シリーズを投入したからだ。このIntel 810と組み合わされた初代ICHにAC'97 Linkという形でまず実装される。
赤枠部がAC'97の部分
実はこのAC'97、オーディオの処理を完全にデジタルで処理している。したがって、処理の「ほとんど」はICH内のAC'97 Linkのブロックの中で完結してしまう。もちろんこれは1990年台末期の要求に合わせたものであって、例えばノイズキャンセルの機能はAC'97の中ではどうにもならないのだが、こういう要求が本格的に出てきたのは2010年代末あたりからを考えると無理もない。