脳トレゲームは効果あり? 集中力と注意力が向上か
ブレインHQの「ダブル・ディシジョン」のゲーム画面/Posit Science
(CNN) 脳を鍛える「脳トレ」が流行しているが、認知機能の低下を防ぐ効果があるのかどうかについては議論の的となっている。近年、このテーマをめぐる研究は賛否両論で明確な結論は出ていない。
医療が専門のCNN特派員、サンジェイ・グプタ氏は、多くの人たちが英単語ゲーム「ワードル」やクロスワードパズルを解いているものの、こうした頭の体操は認識機能全体の向上にはつながらないようだとの見方を示した。
「クロスワードパズルや単語ゲームで本当に効果があるのは、クロスワードパズルや単語ゲームが上手になることだ。人々は認知症のリスクを減らすことを期待して脳トレを行うことが多い。しかし、実際のところ、認知症のリスクを実際に低下させることを示すデータはあまり存在しない」(グプタ氏)
この科学的な難問に新たな展開が加わった。新たな臨床試験によれば、認知機能の低下を遅らせる脳トレの成功は、ゲームの種類と、それが脳内の特定の神経伝達物質に与える影響に依存する可能性があるという。
新たな研究によれば、ブレインHQの「ダブル・ディシジョン」や「フリーズ・フレーム」のような注意力を高め、処理速度を向上させることに重点を置いた脳トレゲームは、重要な神経伝達物質である「アセチルコリン」を保持する効果があるようだ。
アセチルコリンは「興奮性」の神経伝達物質および神経調節物質で、「脳をより覚醒させ、集中力と注意力をより高めるスイッチのような働きをする」と、カナダ・マギル大学神経学・脳神経外科の准教授で、今回の論文の著者であるエティエンヌ・ドゥ・ビレルシダニ氏は述べた。
アセチルコリンが活性化されると、脳全体の活動が変化するとカリフォルニア大学サンフランシスコ校名誉教授のマイケル・メルゼニッチ氏は指摘した。メルゼニッチ氏は、ブレインHQを設立したポジット・サイエンス社の共同創業者兼主任科学者を務める。
神経可塑性の分野の第一人者であるメルゼニッチ氏は他の2人の科学者とともに、成人の脳が生涯を通じて変化し、適応し、新たな神経接続を形成し得るという画期的な発見によって、権威あるカブリ神経科学賞を受賞した。この発見以前には、脳は若年成人期のある時点を過ぎると変化や再生が不可能だと考えられていた。
メルゼニッチ氏は「これは加齢に伴う脳の可塑性を維持するために重要なアセチルコリンの上方調節を実証した、初のヒトを対象とした研究だ」と述べた。
「この研究は重要なものだ。なぜなら、訓練は脳全体に影響を及ぼしたからだ。訓練を受けたごく限られたプロセスに限定されたものではない。我々が話しているのは、脳の健康に大きく寄与することが分かっている、根本的な物理的かつ化学的な変化だ」(メルゼニッチ氏)
米神経変性疾患研究所の研究責任者で予防神経科医のリチャード・アイザックソン博士は、今回の研究について、認知機能の低下を防ぐ方法に関する既存の知識を補強するものだと述べた。
バランスの取れた食事や睡眠の改善、定期的な運動は、いずれも脳力と活力を高めることが実証されている。また、脳を新たな方法で活性化させることで認知予備力が高まることを示す研究もある。認知予備力は、老化や損傷、病気の初期段階に直面しても脳の機能を維持する仕組みを指す。
アイザックソン氏は、脳トレが認知予備力を高めるための多くの方法の一つになり得ると述べた。
遊んだゲーム
査読付きの学術誌「JMIRシリアス・ゲームズ」に掲載された論文によれば、カナダ・ケベック州の比較的健康な高齢者92人を無作為に二つのグループに分けて、それぞれのグループに10週間にわたって毎日30分の脳トレを行ってもらった。
対照群は、カードゲーム「ソリティア」と、同じ色のブロックをまとめて壊す「ブリックス・ブレーキング・ヘックス」を自分のペースでプレーした。介入群は、ブレインHQの「ダブル・ディシジョン」と「フリーズ・フレーム」をプレーした。これらのゲームはプレーヤーの上達に伴い難易度が徐々に上がっていった。
フリーズ・フレームでは、目標となる画像が表示され、その後に他の画像が次々と表示されるので、間違った画像が表示された場合は「いいえ」をクリックする。ダブル・ディシジョンでは、砂漠に停車している2台の車のうち1台と、ルート66の標識が画面上に短時間表示される。訓練を正しく行うには、プレーヤーは正しい車と標識の位置を素早くクリックする必要がある。
トレーニング前後と3カ月後の追跡調査で、認知機能およびその他の検査を実施した。アセチルコリンは陽電子放射断層撮影(PET)検査で測定した。
測定の結果、介入群では10週間の高速トレーニングの後、アセチルコリンの発現が2.3%増加した。機能画像診断の専門家ラジ・アタリワラ博士によれば、この改善は記憶と意思決定をつかさどる脳の主要領域で見られた。
この改善は、10年ごとに自然に起こるアセチルコリンの平均2.5%の減少をほぼ相殺した。だが、対照群には有意な改善は見られなかった。
今回の研究はこの分野の科学を前進させるものだが、ノースイースタン大学の教授で脳ゲーム研究者のアーロン・ザイツ氏は「研究はまだ初期段階で、効果サイズも小さいため、結論を出すには時期尚早だ」と述べた。ザイツ氏は今回の研究に関与していない。「この種のコンピューターを使ったエクササイズによってアセチルコリンの産生が亢進するという確実な結論を出すには、他の研究者によるこれらの研究結果の再現が重要になるだろう」