服役中で刑務所にいながらにしてソフトウェアエンジニアとして入社した人が自身の経験を語る

メモ

アメリカ・メーン州の刑務所に服役しながら、データベース企業のTursoでソフトウェアエンジニアとして勤務するプレストン・ソープ氏が、これまでの経緯を自身のブログで語っています。

pthorpe92.dev/intro/my-story/

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Working on databases from prison: How I got here, part 2.

https://turso.tech/blog/working-on-databases-from-prison 記事作成時点で33歳のソープ氏は、17歳の頃に両親との衝突で家出したあと、インターネットを使った薬物売買を行うようになり、週に数万ドル(数百万円)を稼いでいたとのこと。しかし、20歳でMDMAの密輸で逮捕されました。 最初の刑務所生活では、ソープ氏は「警官や密告者を憎む」といった刑務所特有のネガティブな文化に染まっていったと述べています。出所後、時給10.50ドル(約1500円)のまっとうな仕事に就く選択肢もありましたが、再び犯罪の世界に戻ることを選び、薬物依存と苦悩に満ちた14カ月を経て再逮捕されます。記事作成時点での刑期は2017年5月から始まっており、当初は将来への希望を完全に失い、通算で3年近くを独房で過ごしたこともあったそうです。

そんなソープ氏にとって人生最大の転機が、メーン州の刑務所への移送でした。その刑務所はギャングなどの影響が少なく、ソープ氏は初めて自分自身と向き合い、自己改善に集中できる環境を得たとのこと。そして、ある種「悟り」ともいえるような経験をし、これまでの薬物や犯罪にまみれた自身の過去を心から恥じるようになったと語っています。 この変化をきっかけに、ソープ氏は大学の教育プログラムに登録し、コンピューターサイエンスを学ぶようになりました。「残りの刑期すべてをコンピューターサイエンスの学習に捧げる」と決めたソープ氏は、1日12時間以上、3年間にわたって学習を続けたとのこと。新型コロナウイルスパンデミックの影響で、刑務所内にインターネットが導入された際には、ソープ氏の技術的な知識が役立ったこともあったそうです。

こうした貢献が認められ、ソープ氏は管理当局からリモートでの就労許可が認められました。そして、受刑者向けの教育ソリューションを開発するスタートアップのUnlocked Labsにソフトウェアエンジニアとして採用されます。

その後、ソープ氏はソーシャルニュースサイトのHacker Newsで、データベース企業のTursoが始めたオープンソースプロジェクト「Project Limbo」を発見。これは広く使われているデータベースであるSQLiteをゼロから書き直すという野心的なプロジェクトで、以前にキャッシュ関連のプロジェクトに携わった経験からストレージエンジンに興味を抱いていたソープ氏はProject Limboに強い興味を抱き、貢献者になりました。

刑務所の中で特にやることがなかったというソープ氏は、週に約90時間をコーディングやインフラ管理に費やし、唯一の息抜きは毎日1時間の技術系YouTube鑑賞だったとのこと。特に、自身の境遇とも重なる経歴を持つThe Primeagen氏の動画をよく見ており、大きな刺激を受けていたそうです。The Primeagen氏の動画を通じてTursoのことは以前から知っていたソープ氏は、その創設者たちがLinuxカーネル開発者という経歴から、彼らに自分の書いたコードを見てもらうことに緊張したと振り返っています。

そして、ソープ氏の生活の中心はLimboへの貢献となり、その傍らでSQLiteのソースコードやデータベースに関する論文を読んだり大学の講義を学んだりするようになりました。ソープ氏はTursoの公式Discordサーバーで活発に活動していましたが、トップコントリビューターの一人が刑務所からアクセスしていることに誰も気づいていなかったそうです。

やがて、ソープ氏の貢献はTursoの共同創設者兼CEOであるグロイバー・コスタ氏の目に止まり、ソープ氏はDiscordで面接に来ないかと誘われます。この一連の流れをコスタ氏がX(旧Twitter)でポストしたところ、The Primeagen氏に紹介されたことで、ソープ氏の名が広く知られることとなりました。

This Guy Really Did Something - YouTube

記事作成時点で、ソープ氏はTursoにフルタイムで働いており、給与も全額支払われているとのこと。ソープ氏は数年前には想像もできなかった夢が実現したことへの大きな喜びと誇りを語っています。直近の裁判所の判断で期待していたよりも早く出所することはできなくなったそうですが、記事作成時点での残りの刑期は10カ月ほどで、出所までキャリアアップに集中できると前向きに捉えているとソープ氏は語りました。

ソープ氏のブログ記事を受けて、Hacker Newsには「メーン州のリモート就労プログラムは、再犯防止において非常に有望な取り組みです。驚くべきなのは、受刑者に実際の仕事を与え、出所後もシームレスに継続できる点です。通常、出所後は仕事を見つけることはほぼ不可能で、時間が刻一刻と過ぎていきます。これが絶望感を生み、再犯につながります」と、メーン州のプログラムを高く評価するコメントが投稿されています。

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