食べてないのに空気圧で「かたい/ねばねば食感」を再現できる顔装着型VRデバイス 中国チームが開発:Innovative Tech
このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
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中国の香港城市大学などに所属する研究者らが発表した論文「ChewBit: Enhancing Haptic Feedback with an On-Face Pneumatic Interface for Realistic Food Texture in VR」は、VR環境においてリアルな食感を再現するための空気圧を用いた顔装着型デバイスを提案した研究報告だ。
従来の研究では、AR映像の重ね合わせや舌への電気刺激、そしゃく音の変調といった手法が試みられてきたが、実際に顎にかかる力を再現することは難しかった。電気刺激や口腔内に挿入する機械式デバイスは、快適性や衛生面、信頼性で課題を抱えている。
今回開発した「ChewBit」は、空気圧を用いた手法で没入型の食事体験に不可欠な硬さ、凝集性(バネのような抵抗)、粘着性などの食品特性を再現できる。デバイスは、3Dプリントされた装着可能なフレーム、顎の動きを追跡するジョイスティック、シリンジ3本をベースにした空気圧アクチュエーターで構成している。
仕組みとしては、まずユーザーが自発的にかむ動作をすると、側面のジョイスティックがその顎の開閉を検出。それに応じてエアポンプと電磁弁を制御することでチャンバー内の圧力を調整する。
具体的には、チャンバーを加圧(膨張)させることで顎を閉じる動作に対して抵抗力を発生させ、凝集性のある硬い食品の抵抗をシミュレートする。またチャンバーを減圧(収縮)させることで顎が開く動作に対して引張力を発生させ、粘着性の感覚を模倣する。約-23Nから+27Nの範囲で力を出力でき、多様な食品の特性を表現可能としている。
このデバイスはMeta Quest 3などのVRヘッドセットと統合され、Unityで構築されたVR空間内のバーチャルな食品との相互作用に合わせてリアルタイムに動作する。応用例として、遠隔地にいる人同士がVR空間で一緒に食事を楽しむソーシャルイーティング、そしゃく機能に制限のある人向けのリハビリテーション支援、香りや味、温度といった他の感覚と組み合わせた没入型食体験のデザインを挙げている。
この研究は12月に香港で開催されるコンピュータグラフィックスなどの技術カンファレンス「SIGGRAPH Asia 2025」の展示イベント「Emerging Technologies」で発表された。
Source and Image Credits: Qingqin Liu, Ziqi Fang, Jiayi Wu, Shaoyu Cai, Jianhui Yan, Tiande Mo, Shuk Ching Chan, and Kening Zhu. 2025. ChewBit: Enhancing Haptic Feedback with an On-Face Pneumatic Interface for Realistic Food Texture in VR. In Proceedings of the SIGGRAPH Asia 2025 Emerging Technologies(SA Emerging Technologies ’25). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 4, 1-3. https://doi.org/10.1145/3757373.3763764
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