中国人が「日本人のノーベル賞受賞」を祝福する“表”と“裏”の理由(ダイヤモンド・オンライン)

ノーベル化学賞を受賞した東京理科大の硤合憲三名誉教授、中国人を感動させた「会見での発言」とは? Photo:JIJI((c)diamond)

 日本人のノーベル賞受賞に、中国のSNSでは祝福の声が相次いだ。表にあるのは、偉大な研究成果や謙虚な科学者への素直な敬意。一方、その称賛の裏には、自国の研究環境や科学のあり方を日本と比べる、中国人の複雑な思いも透けて見える。(日中福祉プランニング代表 王 青)

【画像】中国のSNSに並ぶ「日本人のノーベル賞受賞を称賛するコメント」

● 日本人の受賞に 中国のSNSで祝福の声 今年もノーベル賞の季節がやってきた。中国では、毎年この時期になると、受賞者の発表に大きな関心が集まり、SNSを通じて、関連ニュースが瞬く間に広がっていく。 10月7日、2026年のノーベル化学賞に、東京理科大学の硤合憲三(そあい・けんそう)名誉教授とフランスのアンリ・B・カガン氏が選ばれた。 このニュースは、中国のSNSで大きな話題となった。硤合教授が受賞の知らせを電話で受けた際の様子やメディアのインタビューに応じる映像が広く拡散された。受賞理由や研究内容を解説する記事や動画も数多く発信され、多くのコメントが寄せられた。 目立ったのは、日本人の受賞をまるで自国のことのように喜び、温かい祝福や感動、科学者への深い敬意を表す言葉だった。 「ノーベル賞受賞、本当におめでとうございます!もう何と言えばいいのかわかりません。ただただ、おめでとう!と伝えたい」 「偉大な科学者に敬意を表します。そして、その科学者を育て上げた文化と国にも敬意を表したい」 「人類の希望の光です。医学の発展に多大なる貢献をしてくださったことに、心から感謝します」

 科学者への敬意だけでなく、硤合教授の謙虚な人柄や、日本社会の礼儀正しさを称賛する声も相次いだ。


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 日本政府は2001年に、21世紀前半(今後50年間)の目標として「50年間にノーベル賞受賞者を30人程度輩出する」という数値目標を掲げた。 これに対して、中国では、当初は懐疑的な見方が主流であった。メディアや世論では、この目標は「大言壮語」「夢物語」と捉えていた。 今回の硤合さんの受賞により、2001年以降の日本人研究者のノーベル賞受賞者は、米国籍を取得した日本出身者も含めて22人となった。しかも、そのすべてが物理学賞、化学賞、生理学・医学賞の自然科学系3賞である。 つまり、50年間の折り返しとなる25年余りで、すでに目標の7割以上に達したことになる。目標達成まで残り8人。日本が積み重ねてきた科学研究の成果が、着実にノーベル賞という形で評価されているのだ。 一方、1957年〜2015年の間に、中国本土に在住・所属して受賞した人物としては、劉暁波氏、莫言氏、屠呦呦氏ら3名の受賞にとどまる。 中国は改革開放以来、目覚ましい経済成長を遂げてきた。2010年には名目GDPで日本を抜き、世界第2位の経済大国となった。 近年は電気自動車や再生可能エネルギー、人工知能(AI)、ロボットなどの分野でも急速に存在感を高め、科学論文や特許の件数でも世界トップクラスに達している。 こんな「強い国」なのに、「今年もノーベル受賞者が一人もいない」と落胆する中国人が少なくない。 かつて2010年代の中国では、「日本のノーベル賞受賞ラッシュは過去の高度成長期の蓄積によるもので、経済が停滞する日本はいずれ世界に取り残される」「これからは中国の時代だ」といった強気な意見が広がっていた。​ 2013年には、中国のある著名な院士(中国科学院などの最高位の学術称号を持つ研究者)が「10年後、中国ではノーベル賞の受賞が日常茶飯事になるだろう」と公言し、大きな話題となった。 当時は中国経済が好調で、研究開発投資も急増しており、科学技術の将来に対する楽観論が広がっていた。​ しかし、コロナ禍を経て中国経済の低迷が長引いている。 そして、政治や社会環境も大きく変わった。近年中国の大学では、中学や高校と同様に、学生の思想を管理する担任が配置されている。 そして、授業の内容に対しても監視が強化された。 大学で教える筆者の友人は「授業や黒板に書いている内容はすべてモニターセンターにつながり、教科書以外のことはもう話せない」と嘆く。

 大学における教育の自由が大きく制限されていて、独創的な発想が生まれにくい。


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 こうした環境の中で、「ノーベル賞の受賞が爆発的に増える」といった強気な発言は近年ほとんど聞かれなくなった。 今回の硤合名誉教授らの受賞の理由は、「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒反応の発見」として評価されたということだ。「硤合反応(不斉自己触媒反応)」を発見したのは1995年で、教授は東京理科大学で40年以上にわたり研究し続けたことが中国で報じられた。 長年コツコツ、地道に研究を続けてきた科学者の姿が、中国SNSの一部の利用者の心を打った。 そのため、中国のSNSには「日本には“非昇即走”がないのか?」という書き込みが散見された。 「非昇即走」とは、今まで中国の大学がアメリカから導入した、テニュアトラック制度(任期付き採用から終身在職資格の取得を目指す人事制度)のこと。 新規に採用された若手教員が、契約で定められた任期内に、評価基準を達成して職名を昇格させることができなかった場合、大学からの契約更新は行われず、退職するか、教育・研究以外の職種に異動しなければならない。 そのため、研究者としてさまざまな短期的な業績評価への対応に追われ、長期的研究に腰を据えて取り組む時間が確保できない状況となっている。現在、中国では、このような「短平快」(短く、手軽で、すぐに成果が出る)」と人事評価システムを批判し、見直している大学が増えている。 というわけで、今回の日本人研究者のノーベル賞受賞に対しての中国人のいろいろな反応は、中国国内のさまざまな事情を照らしたものである。 独創的な研究や根本的なイノベーションを生み出す能力において、現段階では中国と日本の間に差があることを、冷静に受け止めるようになったと言えるのだ。 今、日中関係はもっとも緊張し、冷え込んでいると言われている。 しかし、日本のノーベル賞の受賞に、中国の人々が素直に祝福し、称賛している。あるネットユーザーが、次のようにコメントを書いた。 「科学に国境はなく、真理に東洋も西洋もない。真の進歩とは、決して自分たちの殻に閉じこもり、自らの優秀さを誇示することではない。国同士の対立や偏見を超え、他国の優れた成果を素直に認め、学ぶべきだ」

 この言葉は、今回の中国人の反応を象徴しているように思える。政治的な対立が深まる時代だからこそ、優れた成果を素直に称え、互いに学び合う姿勢には大きな意味がある。

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