学生マンションの多くが食事付き、シアタールームやプールも 様変わりする令和の下宿事情
レストランのような食堂やデザイン性の高い内装。ホテルを思わせる学生向け賃貸マンションが増加している。シアタールームや屋外プールなどリゾート感ある設備まで登場。食事や家具付きで自炊や転居時の負担が省け、初めての1人暮らしを心配する保護者のニーズにも応える。自炊で苦労した昭和の学生とは一変、手厚いサポートが令和の学生の1人暮らしを支える。
家具・家電付き
令和6年1月に完成した福岡市博多区の賃貸マンション「学生会館 リビオセゾン博多石城町」(10階建て)は、管理栄養士が監修したバランスの良い食事を提供し、日中は管理人も常駐する。1階にはシアタールームやダンスルームのほか、雑誌や漫画が読み放題の交流スペースも設けている。
周辺の大学や専門学校に通う学生が入居し、全180室が4月には満室となった。費用は家賃と食費で月8万~9万円程度。初期費用として入館金、敷金などが30~40万円程度必要で、アパートなど一般的な賃貸物件より割高だが、家具や家電も備え付けで、購入や引っ越しの負担は小さい。
シアタールームを備えた「学生会館 リビオセゾン博多石城町」=福岡市博多区(一居真由子撮影)入居者の一人で鹿児島市出身の専門学校2年、松田昊大さん(20)は「親が食事面を心配していたが、健康に配慮されたメニューが心配を解消した。学校の課題が多く、食材を買ったり、食事を作ったりする労力を考えればコストパフォーマンスがいい」と語る。シアタールームでは映画をみたり、ゲーム機をつないで大画面で楽しんだりしているという。
10年で24倍に増加
同物件は全国で学生向けマンション事業を展開する「ジェイ・エス・ビー・ネットワーク」(東京)が管理している。
同社博多駅前店の木村文美(あやみ)副店長(32)は「子供の初めての1人暮らしに不安を抱く保護者は多く、セキュリティーや食事のサポートのニーズが高い。新しく完成する学生マンションの大半は食事付きで、選んでもらえるように設備も充実させている」と話す。
同社が展開する食事付き学生マンションは、約10年前の平成28年は全国で10棟前後だったが、現在は約240棟(約2万3千室)と24倍に増加した。佐賀市の屋外プール付きの物件は家賃が4万~5万円程度、大阪府東大阪市の物件は家賃5万円台ながら共用スペースにはビリヤード台が設置されている。東京では13階のラウンジで夜景を見ながら食事ができる物件もある。
進学率は上昇続く
福岡都市圏で不動産賃貸業を手掛ける「三好不動産」(福岡市)によると、学生へのアンケートでは家賃の安さが重視される傾向にあるが、保護者が管理人常駐や食事付きなどの物件を希望するケースが多いという。
同社広報課の齊藤寛シニアディレクターは「建築コストの高騰で家賃は上昇しているが、多少高くても安全性や食事が充実している物件が選ばれている」と説明する。
近年は設備やサービスの充実だけでなく、高級感のある物件も一定の人気を集め、内装に上質な素材を採用したり、デザイン性の高い共用スペースを設けてアピールしたりする事業者も多い。
共用スペースにビリヤード台が設置された「学生会館 エスリード カレッジゲート長瀬」=大阪府東大阪市(ジェイ・エス・ビー・ネットワーク提供)少子化が進んでも大学などへの進学率は上昇を続けている。文部科学省によると、令和6年度の大学進学率は59・1%、専門学校の進学率は24・0%といずれも過去最高を記録した。事業者にとって学生向けマンションは入居者のターゲットを絞りやすく、収益の伸びが見込めるため、学生対象の賃貸住宅事業を成長分野と位置づける不動産サービス企業もある。事業の安定性から資金調達がしやすいことも、付加価値の高い物件増加の要因となっている。
一方、長く学生を支えてきた昔ながらの寮は岐路を迎えている。近年では金沢大(金沢市)で2つの寮が廃止となり、現役学生寮として日本最古とされる京都大の「吉田寮」(京都市)を巡っては、地震で倒壊の恐れがあるとして大学側が寮生に明け渡しを求め、訴訟に発展したことも注目された。(一居真由子)