クマ問題渦中の上映は不謹慎? 「お蔵入りの不安もあった」映画『ヒグマ!!』監督が明かす公開延期の葛藤

 俳優の鈴木福が主演を務める映画『ヒグマ!!』が、公開延期を経て1月23日に待望の劇場公開を迎える。闇バイトの世界に足を踏み入れた主人公が、反社会的勢力や“規格外のヒグマ”から命がけの逃走を図るモンスターパニック映画の話題作。全国でクマ被害が深刻化する中、公開延期の受け止めや、作品に込めたメッセージについて、内藤瑛亮監督を直撃した。(取材・文=佐藤佑輔) 【写真】「誰かと思った」「これは驚き」 映画『ヒグマ!!』で“激変”した鈴木福 ――「闇バイト×ヒグマ」という異色のテーマに取り組んだきっかけは。 「企画立ち上げは2年前。プロデューサーとは当初、全然別の企画をやっていて、その打ち合わせの中で『闇バイトがヒグマに襲われる』ってアイデアをプロデューサーが語ったら、出資会社が乗り気になって、もともと持ち込んでいた企画は二の次にして本作を撮ることになったんです。闇バイトとクマ被害という日本が抱える2つの大きな問題をフィクションでぶつける。それはジャンル映画を撮る上でのひとつの正しい考え方だと思ったんです。  主人公が犯罪者でやましいところがあるがゆえに、ヒグマに襲われても警察にも頼れない、世間からは自業自得と言われても仕方のない状況に置かれる。でも闇バイトってすごく身近な存在で、現実にはふとしたことでそこに転がり落ちてしまう若い人もいると思う。そんな主人公を通して、今平和に生きている人の足元を揺らがせるような物語を作ろうと思いました」 ――主演・鈴木福のキャスティングに関しては即決だった。 「そうですね。プロットの段階から僕は福くんをイメージしていて、完全にあてがきをしていました。プロデューサーも出資者側もみんなそのイメージで合致して、オファーを出してみたらすんなりと決まった。ここまでスムーズに決まることは珍しいんですよ。お金を出している人もいっぱいいるし、いろんな人のいろんな希望があるから、むしろ監督の思い通りにならないことの方が多いんですけど、今回は恵まれていました。  福くんのことはみんなが子役時代から知っていて、その成長をメディアを通じて見守ってきた。だからこそ『あの福くんが闇バイトに加担しちゃうの?』みたいな、親戚目線のようなショックがあるかなと。一緒に仕事をするのは初めてだったんですけど、彼の持つ陽性のポジティブな雰囲気が作品のトーンには合っていると思ったし、俳優によってはシリアスな雰囲気になっちゃう内容でも、福くんが演じるとちょっとコミカルに笑って見られる。テーマとしては深刻でも、ちょっとポップで明るいイメージの作品にしたくて、それには彼の力が必要だなと。あとは何より、『福くんが闇バイトやってヒグマに襲われる』っていう日本語の妙な面白さ。どんな映画ですか? って聞かれたときにも、その一言でみんながイメージできるというか、『それは面白そうですね』と共感できるかなと」 ――深刻なテーマの作品でも、あえてポップな明るいイメージを目指した意図とは。 「日本映画って、どうしても湿っぽいトーンのものが多くて、それも良さではあると思うんですけど、個人的にはアメリカ映画のようなカラッとした描き方もいいなと思っていて。向こうの映画だと、主人公がやむを得ず罪を犯すような重い話でも、それをあえて明るく描くことによって、エンタメとして間口を広く伝えつつ、罪の重さもズシンと残るようなバランスが取れている。明るく描くことと、それが問題を軽く捉えているわけではないということは、僕は両立すると思っています。分かる人にだけ分かればいいという映画ではなくて、これはエンタメですよ、誰でも見ていい表現ですよと入口を広くすることの大切さもある。それで、語り口はポップで明るかったりするけど、見終わった後にその問題の根深さが残るような、そんな映画を目指しました」 ――ヒグマの造形へのこだわりは。 「全編VFX(視覚効果技術)でやれたらいいんですけど、予算的に造形でいくしかないとなったとき、逆にワクワクしました。ほぼすべてのシーンを造形で撮るので、ある程度キャラクター化、アイコン化したほうがいいだろうと、片目が白目になっていたり、傷跡が残っていたりとデザインを固めていきました。着ぐるみだとどうしても生地のつなぎ目やシワが残ってしまうんですけど、泥汚れや血によって固まった毛なんかがあると、あまり気にならずになじみやすい。毛並みがきれいすぎると作り物っぽくなっちゃうけど、ちょっとムラがあると生物感や野性味が出る。そういうテクスチャーの味わいをつけて造型部が仕上げてくれました。  着ぐるみには前脚、後ろ脚とアクション部が2人入っていて、中からは外の様子がほとんど見えない。動きを細かく指示したり、中で電子タバコを吸って吐息を再現したり、毛に煙をからませたり、いかにして造形物に命を吹き込むかという作業でした。僕が育ってきた90年代の映画は、まだVFXが大幅に導入されていなくて、その時代の作品を見直してカット割りなどを工夫した。トライアンドエラーの繰り返しでしたけど、それはすごく楽しい作業でしたね」 ――監督自身の闇バイトに対する考えは。 「自分が住んでいる街でも、近くで闇バイトによる強盗未遂が起きたっていうニュースがあって、これはもういつ自分が巻き込まれてもおかしくない、すごく身近な問題なんだなというのをヒリヒリと感じました。実際の事例を調べて、高校生の4割がSNSで怪しい求人を目にしたことがあるとか、求人の手口もすごく巧妙化していて、大手の求人サイトにも掲載されていたりとか、オンラインゲームのやり取りの中で誘われたりだとか……。  軽い気持ちで入ったけれど、結果的に殺人や死体遺棄に加担してしまったというものもあって、捕まった犯人の供述もすごくすっとんきょうなんですよ。『(事件を起こした)岡山がこんなに遠いと思わなかった』みたいな、そこじゃないだろというか、いかにも世間知らずな感じが、教育格差だったり、情報弱者みたいな側面もあって。もちろんいけないことだけど、若さゆえに判断力の甘さからつい手を出してしまうこともあると思う。そこから個人情報を抑えられて、家族を殺すぞとか脅されたりしたら、それはもう従わざるを得ないだろうなとも思うんです」

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