ハッキングから数学へ──OpenAIの新AI、数百の未解決問題に挑み数学の最前線を塗り替える(Forbes JAPAN)

stock.adobe.com(フォーブス ジャパン編集部)

OpenAIの研究者たちが、数学史上でも屈指の難しさを誇る未解決問題において、ここ数日で目覚ましい進歩を遂げたというニュースが、米国時間10月6日に飛び込んできた。OpenAIが明らかにしたもので、研究には名称が公表されていない社内の最先端の推論モデルが使われた。■生まれたばかりのLLMが挑んだ数学問題は数百件、1930年代からの難問も含むこの生まれたばかりのLLM(大規模言語モデル)は、これまで解かれていなかった数学の問題に数百件も取り組んだらしい。たとえば、1930年代に提起されたマーラー予想(Mahler conjectures。へこみのない図形〔凸体〕の体積に関する予想)や、円周率の無理数度(irrationality exponent。円周率を分数でどこまで精密に近似できるかを示す値)、計算機科学のUnique Games(ユニークゲーム)の近似(最適に近い答えをどこまで効率よく求められるかという問題)である。このほかにも、厄介な数学の問題がずらりと並ぶ。最初にその問題を探究した先駆者の名前を冠したものもあれば、量子分野への重要な応用につながる成果もある。●米高等研究所の諮問グループと協議を重ね、論文をGitHubで公開OpenAIの広報担当者は、こうした成果を発表するにあたり、プリンストン高等研究所(IAS)に置かれた「数学と人工知能に関する諮問グループ」(Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence)に相談してきたと明らかにした。成果を数学界にどう公表するのがよいか、その進め方を練るためで、証明の検証には、コンピューターで証明の正しさを確かめられるプログラミング言語「Lean」を使っているという。具体的なやり方について、OpenAIは次のように説明している。「今回は、成果をGitHub(ソフトウェアのコードや文書を公開・共有するサービス)のリポジトリで公開し、論文の改訂と引用についての手順も設ける。委員会(前出の諮問グループ)の指針を満たす、コミュニティ運営の別の公開先も引き続き検討している。今後の公開に向けては、引用、数学的な説明、成果の示し方を改善して論文の質をさらに高め、より理解しやすいものにしていく」。■リーマン予想から数理物理学まで、AIモデルは何を解いたのかリーマン予想をご存じだろうか。私自身は、今年1月にこの予想について記事を書き、一部から批判を浴びるまでは知らなかった。実は、この問題を解いた人には100万ドル(約1億5800万円)の懸賞金が出る。OpenAIのモデルが成し遂げたのは、厳密にはリーマン予想の解決ではない。「リーマンゼータ関数」について、零点(関数の値がゼロになる点)が1つもない新たな領域を示したのである。リーマン予想は、この関数の零点のうち、重要なものがすべて一本の直線の上に並ぶとする予想である。零点のない領域を新たに示しても、それだけでは予想を解いたことにはならない。●無秩序な磁性体や小さな量子スピン、磁気をめぐる問題にも切り込む話を戻すと、OpenAIのモデルは、希釈スピングラス(diluted spin glasses)に関するメザール・パリージ公式(Mézard–Parisi formula)に関わる問題も解いた。乱れた磁性体のモデルを扱う、数理物理学の概念である。複雑なシステムや、焼きなまし(熱した金属をゆっくり冷やして内部を安定させる処理)のような、同じ手順を繰り返すプロセスの分析だと考えればよい。そう考えたければ、の話だが。

さらに、このモデルは量子ハイゼンベルク強磁性体(quantum Heisenberg ferromagnet。鉄のような磁石の性質を、量子力学に基づいて記述するモデル)の研究も手がけた。小さな量子スピン(電子などがもつ、ごく小さな磁石のような性質)を、これまでにない独特のやり方で調べたものらしい。


Page 2

■従来の先端AIはハッキングに注力していたが、新モデルでは数学で新記録を連発これで十分だろうか。それとも、もっと聞きたいだろうか。この新しいモデルを投入した結果、分野をまたいで数学の新記録が次々に生まれたのは間違いなさそうだ。この重要な研究分野の最前線の勢力図も、大きく塗り替えられた。注目したいのは、これまでのOpenAIのモデルが、ハッキングやサイバーセキュリティの作業に重点を置いていたことだ。AnthropicのAIモデルであるMythosやFableとなれば、なおさらである。ところが今回のモデルは、どうやら数学が得意らしい。●AIの能力試験で人間を圧倒し続けるLLM、勢いは数学にも及ぶもう1つ、考えてみたいことがある。AIの性能を測るテストでは、LLMがここ数カ月、事実上、人間を圧倒し続けてきた。専門家が出題した難問をそろえた「人類最後の試験」(Humanity's Last Exam、HLE)しかり、AIの能力を評価する非営利の研究機関METRの評価しかり、抽象的な推論力をパズル形式で測るARC-AGIの問題集しかりで、ほかにも例は多い。今回の成果も、AIがすでにどれほど強力になっているかを示す大きな流れの、最新の一例にすぎない。■水や空気の動きを表す方程式で9月に成果、10月はさらに大きな前進か別の角度から説明してみよう。OpenAIは米国時間9月8日、同社のモデルが、有名な「ナビエ–ストークス」方程式をめぐるミレニアム懸賞問題(前述のリーマン予想を含む、懸賞金のかかった数学の7つの難問)の1つを解いたと発表していた。「ナビエ–ストークス」方程式は、水や空気などの流体がどのように動くかを表す方程式で、流体の速度、圧力、密度、粘性を結びつけている。OpenAIの説明からすると、今回の成果を出したのも、このときと同じ社内モデルとみられる。どうやら10月6日の発表は、ナビエ–ストークス方程式の件をさらに上回るらしい。●OpenAIで研究経験を持つ人物が評価、「ナビエ–ストークス」方程式の解決5件分ウィル・デピューという人物のXへの投稿が目に留まった。デピューはOpenAIで研究に携わった経験があり、同社の動画生成AI「Sora」の開発にも加わった。投稿は、今回の数学の新たな成果を「ナビエ–ストークス」方程式の解決5件分のようなもの」と評している。●近年の数学的進展を並べた一覧、81%は成し遂げられたばかりデピューはさらに、近年の数学の主要な成果を網羅したリストも投稿し、リストに並ぶ成果の実に81%が、成し遂げられたばかりのものだと示唆している。ある意味、驚くべき数字である。

とにかく、これは今すぐ伝えておきたかった。大ニュースだからだ。地震にたとえるなら、最大級の揺れに当たる。続報を待ってほしい。

関連記事: