「ラーメン代稼ぎ」で終わる企業と「爆速成長する企業」のあまりに明白な違い

『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第29回では、著名投資家が語った「起業家がやってはいけないビジネス」について解説する。

この店には自由が満ちあふれている

 主人公・花岡拳たちがTシャツ専門店をオープンするよりも1カ月早く、ライバルである一ツ橋商事の井川泰子らは、自分たちが手がけるアパレルショップをオープンさせる。さらに一ツ橋商事は、これまで花岡たちに発注していた格闘技イベント・豪腕のグッズの契約打ち切りを通告する。

 花岡企画のメンバーが困惑するが、花岡は「これでなんのしがらみも主従関係も利害もへったくれもねえ。晴れて俺達は自由だ」と、むしろ今まで以上に自分たちの事業に注力する姿勢を見せる。

 そしていよいよ花岡たちの店舗・T-BOXの1号店の開店準備が整う。花岡は工場のパートたちまで連れて自分たちの店舗に訪れる。そして次のように語るのだった。

「これでもう……俺達は二度と誰かに縛られることはない。誰からも支配を受けない」

「この店で、自分達で考え、自分達で作り、自分達で売る」

「この店にはまさに自分達の自由が満ちあふれているんだ」

スタートアップは「ラーメン代稼ぎ」に注力してはいけない

『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 これまで生命線となっていた受託ビジネスを失注したことで、生産から販売までを一貫するSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel:企画から生産・製造、販売までのバリューチェーンを自社で一気通貫したビジネスモデル)での直営店事業に注力することになった花岡たち。

 だが花岡が語るように、商慣習上の自由を手にして、自分たちの商品を売るという姿勢は、スタートアップにとってのある種の理想でもある。

 米国の著名アクセラレーター(スタートアップに出資や指導を行い、成長を加速させる支援機関。ベンチャーキャピタルが資金提供に重点を置くのに対し、短期集中型の支援プログラムを展開するのが特徴)であるY Combinatorの創業者ポール・グレアムの言葉が象徴的だ。

 彼は、2000年代から2010年代に公開したエッセイで、スタートアップの起業家に対して、繰り返しこう警告している。

《A startup is not a consulting company. If you make money by working for clients, you’re not a startup.》 (スタートアップはコンサルティング会社ではない。クライアントワークで稼ぐのなら、それはスタートアップではない)

 グレアムは、スタートアップが行うクライアントワークのことを「Ramen Profitable(ラーメン代稼ぎ)」と揶揄してきた。

 創業期のスタートアップのメンバーが、生活費をまかなう程度にクライアントワークで稼ぐことはままあるが、それで表面的に黒字が生まれようとも、本業であるプロダクトが育たないままで時間だけが過ぎると、スタートアップとしては死んでしまう、とも説いた。

 これは2000年代、SaaS(Software as a Service、クラウドなどを通してソフトウェアをサービスとして提供すること)スタートアップの黎明期におけるコラムだ。

 受託開発を主体として成長した企業、あるタイミングで受託開発から自社事業へスイッチして成功した企業、最初から自社事業の開発に注力した企業など、その成功のかたちはさまざまだ。

 だが、「受託事業を仕組み化して、本業として展開する」という決断ひとつとっても、「どのタイミングで本業へ集中するか」が大事になってくる。

 目先の売り上げのために、気付けば受託開発にウェイトを取られてしまい、そのままゾンビ化するーー。一定の売り上げや利益は生まれるが、スタートアップに求められるような非連続成長ができないままになってしまうーーそんな話は少なくない。

「受託を切られて自由になった」と笑う花岡のセリフは、漫画としての誇張こそあるが、起業家の真実を突いている。

 いよいよオープンする花岡たちのT-BOX。Tシャツしか売っていないという新発想の店舗に、訪れる客たちはどんな感想を抱くのか。

『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

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