20年に一度しかない「木をひっぱる祭り」に参加する (1
伊勢神宮をご存知だろうか。
ご存知でないと話がややこしいので、ご存知であってくれ〜!と思いながらいまこの記事を書いている。
伊勢神宮は簡単にいうと尋常じゃなく昔からある神宮で、特に有名なのがすべての社を建て替える「式年遷宮」である。
もともとの建物(写真左)から新しい建物(写真右)へ、すべての社を建て替えるのだ! ※出典:第62回式年遷宮に伴い建てられた外宮別宮多賀宮の新旧社殿(2013年)、実際の神宮は指定の場所以外は写真撮影禁止
遷宮はかなり大がかりな行事なので、地元では数年前からじわじわ「遷宮するための行事」が始まっている。
そのうちのひとつが「お木曳(おきひき)」。その名の通り、木をひっぱる行事である。
なぜ木をひっぱるのか。
その前にひとつ、考えてみて欲しいことがある。
答えはそう、伊勢の地元民たちなのである。
昔はまじで木曽で採った木を1万本ぐらい引っ張っていたらしい。本気の労働。
木を持ってくる手段がいろいろ増えた現在でも、遷宮の前に地元民が一部の木をひっぱって神宮に奉納している。
つまりお木曳とは、地元をあげて行われる「神宮への資材納品イベント」なのだ!
伊勢のいろんな町が順番に「うちの町の木、持ってきました!」みたいな感じで木をお届けするので、何日にもわけて何ヶ月もやる。 ※出典:令和のお木曳
私は父が伊勢の奥の方出身なので、幼い頃からちょくちょく神宮の行事に招集されており、今年も無事にお木曳に行くことになった。
僭越ながら木、引かせていただきます!
まずは朝6時に家を出る
お木曳の朝は早い。まじで早い。
「20年に一度ぐらい朝5時に起きろ」と思うかもしれないが私も同じことを思ったのでさすがに起きた。
6時に家を出て、神宮の近くの駐車場に来た。
指定のハッピとハチマキをつけて早朝の駐車場に集合。
昔はどうだったのかわからないが、いまのお木曳は「駐車場に集まって神宮まで木をひっぱる」という流れになっている。
このあたり、昔はどうしていたのか本当に知りたいところである。
お木曳に参加する町の旗。
こちらが我々の旗。江という地域だが、お木曳には伝統的に清渚連(せいちょれん)という名前で参加している。
お木曳にどの町が参加するかは、昔からの伝統で決まっている。
……のだが、実際はけっこう柔軟らしく、「最近できた新興住宅街」「合併で伊勢市になった町」とかも「伊勢市だし!」ということで普通にお木曳をやっている。
神宮、2000年の歴史があるわりには柔軟性がある。
こちらが20年前から参加している新興住宅街「光の街」の旗。「20年前から」と聞くとかなり前に聞こえるが、お木曳的にはスーパーニューカマーである。
お木曳には2種類あり、道路で車をひっぱる陸曳(おかびき)と、川でそりをひっぱる川曳(かわびき)がある。
清渚連は川曳をやる町なので、神宮近くを流れる川に木を浮かべていく。
もちろん、クレーンで。
駐車場に着いたときから「なんかクレーンあるな」と思っていたが、ゴリゴリ木を運ぶためのクレーンだった。
私は昔から伊勢神宮になんとなく「合理的」というイメージがあり、このクレーンを見たときが一番「おお、伊勢神宮だ...!」という気持ちにさせられた。
こちらが木、通称「御用材(ごようざい)」。シンプルにでかい!!!
そりには引っ張る用の2本の縄がついている。「縄を直接地面に置くな」と強く言われていて、作業中もずっとゴザがしかれていた。
準備ができたのでいよいよそりを進水させる。
前回(20年前)までは出発前にお酒を飲んでいたらしいが、「酔っ払った大量の地元民がざぶざぶと深い川に入ってそりをひっぱる」という状況がどう考えても危なすぎて、今回から禁酒が徹底されたらしい。
この20年のコンプライアンスの進化を感じる話である。
あと川に入る前に何度も「ケガをしないで!」と注意されたので危ないからかな〜と思っていたが「ケガレが起きた木は神宮に受け取ってもらえないから」と言われた。心します!
Page 2
出発式が終わって自分の町の番が来たら、いよいよ川にざぶざぶ入る。
なんか深くないですか?!
勢いよく入ったら普通に全然深かった。思っていたのと違う。
清渚連はかなり小さな集落なのだが、各家の親戚が総結集した結果、だいたい数百人が今回のお木曳に参加している。
「清渚連の住人および清渚連にご縁がある」数百人で、1本の御用材をひっぱっていくのだ。
ひっぱる前に、木遣り隊(きやりたい)と呼ばれる真ん中の人たちが歌を歌う。
目の前にいた小学生ぐらいの木遣り隊の子が「今日は絶対に自分が出せる一番でかい声で叫ぶんだ」という顔で木遣りを大絶叫していてとてもよかった。
木遣りが終わったら、「エンヤー!」と言いながら川を進む。
川の水はこんな感じ。普段はめちゃくちゃ綺麗な川なのだが、今日は人がたくさん歩いているので足元が見えない!!
基本はこうやって木をひっぱる行事なのだが、もうひとつ醍醐味とされるものがある。
木遣り隊の合図でストップしたあと......
めちゃくちゃ水をかけあう。
「練り」と呼ばれるもので、時々止まって向かい合っている相手にひたすら水をかけるのだ。
木遣り隊も普通に参加。手に持ってる棒(ザイ)でめちゃめちゃかけられる。
「練り」にどんな意味があるのか、清めの作業なのか、もともとなにか合理的な理由があったのか、何のためにやっているのか本当にわからないのだが、事前の説明では「楽しんでください」とだけ言われていた。
ふと見たら向かい側が叔父さんひとりだけだったので若人たちでめちゃくちゃ水をかけた。「楽しんでください」を忠実に守っています。
木遣り隊が持っているこの「ザイ」と呼ばれる棒が、練りのときに塊のような水を飛ばしてきてやばかった。
練りのとき、参加者に「水飛ばし過ぎやで〜!」と言われた木遣り隊が、めちゃめちゃいい笑顔で「清めてるんや〜!」と言っていた。
全員「楽しんでください」を忠実に守っている。
長い歴史で洗練されてきた(と思われる)お木曳
休憩や昼ごはんをはさみつつ、3時間ほど川を遡っていく。
「明らかに滑るだろう、これは」という場所もある。縄につかまって頑張って進む。
進みながらわかったのだが、縄が長すぎてそのままだと全員の統率がなかなか取れない。
なので、いろんな工夫がされている。
「そりが倒れそう」「深いエリアに入りそう」などやばいことがあると旗係が赤旗をあげる。
誰かが赤旗があげると、他の係もあげる。
列のどこかでやばいことが起きたとき、全員が一斉に止まることができるのだ。
他にも法螺貝の合図やかけ声など、「訓練されてない数百人が安全に川を歩くための合図」がとにかくたくさん開発されている。
伝統とされる「木遣り」も、何百年か前の誰かが「歌あった方が出発のタイミングわかるんじゃない?」等と言い出してこうなったのかもしれない。
お木曳ってもともとお祭りじゃなくて「神宮に木を納める作業」だったんだな.......と実感しながら川を歩く。
神宮の目の前にある橋まで来たぞ!
神宮近くにたどりついたら、一気に陸へ木を引き揚げる。
最後の引き揚げだけは橋の上からめちゃめちゃ観光客の人に見られるので「見せ場」感がすごい。
では「エンヤー!」「エンヤー!」言いながら陸まで引き揚げます。
エンヤー!
エンヤー!エンヤー!
陸まで引っ張ってきたぞ!
神宮内まで引っ張ったらお木曳は完了。地面につけないように木の上を転がして所定の場所に奉納する。
終わったあとは、普段は入れない神宮の中まで入れてもらって、無事に奉納したことをねぎらってもらう。
お木曳に関わった人は全員、この本殿の奥で参拝します。
へとへとになったけど楽しかった。御用材使った遷宮、楽しみにしてるで〜
冒頭で「二十年に一度の大行事」と紹介したお木曳だが、実は普通に来年もある。
今年が第一次、来年が第二次お木曳で「2年連続でやるのをまとめて一度」ということだそうで、私はそれは「二十年に二度では?」と昔から薄々思っているのだがここではその細部は問わない。
肝心なのは、この記事を読んで興味を持った人は、来年伊勢でお木曳を見られるということである。
見るだけでなくやってみたいという方、私が参加した川曳はいまのところ地元民だけらしいが、陸から外宮に奉納する「陸曳」の方は伊勢以外の方も応募できるそうなので、ぜひどうぞ!
編集部からのみどころを読む
編集部からのみどころ 長い伝統を持つが故の厳粛さと、新しい町が普通には入れちゃうんだっていう柔軟さ、両方ありますよね。あと儀式っぽさと祭りっぽさと運動会っぽさが全部ある。もしかして日本のいろんなイベントがここから生まれてきたのも知れん、と思わされる要素の多さでした。 …という話をまいしろさんにしたら、「伊勢神宮ってそういうミックス感ありますよね。私が小さいときから思ってたイメージがついに外部の人に伝わって嬉しいです!!」と言っていて、地元の人特有の解像度の高さを感じました。(石川)
Page 3
伊勢神宮をご存知だろうか。
ご存知でないと話がややこしいので、ご存知であってくれ〜!と思いながらいまこの記事を書いている。
伊勢神宮は簡単にいうと尋常じゃなく昔からある神宮で、特に有名なのがすべての社を建て替える「式年遷宮」である。
もともとの建物(写真左)から新しい建物(写真右)へ、すべての社を建て替えるのだ! ※出典:第62回式年遷宮に伴い建てられた外宮別宮多賀宮の新旧社殿(2013年)、実際の神宮は指定の場所以外は写真撮影禁止
遷宮はかなり大がかりな行事なので、地元では数年前からじわじわ「遷宮するための行事」が始まっている。
そのうちのひとつが「お木曳(おきひき)」。その名の通り、木をひっぱる行事である。
なぜ木をひっぱるのか。
その前にひとつ、考えてみて欲しいことがある。
答えはそう、伊勢の地元民たちなのである。
昔はまじで木曽で採った木を1万本ぐらい引っ張っていたらしい。本気の労働。
木を持ってくる手段がいろいろ増えた現在でも、遷宮の前に地元民が一部の木をひっぱって神宮に奉納している。
つまりお木曳とは、地元をあげて行われる「神宮への資材納品イベント」なのだ!
伊勢のいろんな町が順番に「うちの町の木、持ってきました!」みたいな感じで木をお届けするので、何日にもわけて何ヶ月もやる。 ※出典:令和のお木曳
私は父が伊勢の奥の方出身なので、幼い頃からちょくちょく神宮の行事に招集されており、今年も無事にお木曳に行くことになった。
僭越ながら木、引かせていただきます!
まずは朝6時に家を出る
お木曳の朝は早い。まじで早い。
「20年に一度ぐらい朝5時に起きろ」と思うかもしれないが私も同じことを思ったのでさすがに起きた。
6時に家を出て、神宮の近くの駐車場に来た。
指定のハッピとハチマキをつけて早朝の駐車場に集合。
昔はどうだったのかわからないが、いまのお木曳は「駐車場に集まって神宮まで木をひっぱる」という流れになっている。
このあたり、昔はどうしていたのか本当に知りたいところである。
お木曳に参加する町の旗。
こちらが我々の旗。江という地域だが、お木曳には伝統的に清渚連(せいちょれん)という名前で参加している。
お木曳にどの町が参加するかは、昔からの伝統で決まっている。
……のだが、実際はけっこう柔軟らしく、「最近できた新興住宅街」「合併で伊勢市になった町」とかも「伊勢市だし!」ということで普通にお木曳をやっている。
神宮、2000年の歴史があるわりには柔軟性がある。
こちらが20年前から参加している新興住宅街「光の街」の旗。「20年前から」と聞くとかなり前に聞こえるが、お木曳的にはスーパーニューカマーである。
お木曳には2種類あり、道路で車をひっぱる陸曳(おかびき)と、川でそりをひっぱる川曳(かわびき)がある。
清渚連は川曳をやる町なので、神宮近くを流れる川に木を浮かべていく。
もちろん、クレーンで。
駐車場に着いたときから「なんかクレーンあるな」と思っていたが、ゴリゴリ木を運ぶためのクレーンだった。
私は昔から伊勢神宮になんとなく「合理的」というイメージがあり、このクレーンを見たときが一番「おお、伊勢神宮だ...!」という気持ちにさせられた。
こちらが木、通称「御用材(ごようざい)」。シンプルにでかい!!!
そりには引っ張る用の2本の縄がついている。「縄を直接地面に置くな」と強く言われていて、作業中もずっとゴザがしかれていた。
準備ができたのでいよいよそりを進水させる。
前回(20年前)までは出発前にお酒を飲んでいたらしいが、「酔っ払った大量の地元民がざぶざぶと深い川に入ってそりをひっぱる」という状況がどう考えても危なすぎて、今回から禁酒が徹底されたらしい。
この20年のコンプライアンスの進化を感じる話である。
あと川に入る前に何度も「ケガをしないで!」と注意されたので危ないからかな〜と思っていたが「ケガレが起きた木は神宮に受け取ってもらえないから」と言われた。心します!