Arialys Therapeutics社がNature Communications誌に前臨床データを発表
霊長類動物モデルにおいてNMDA受容体の内在化を阻害し、疾患症状を改善する片腕抗体(ART5803)の成績を報告
本資料は米Arialys Therapeutics, Inc.の2025年6月17日付プレスリリースの日本語訳であり、解釈については英語が優先されます。詳細は www.arialysrx.com を参照ください。
米国カリフォルニア州ラホーヤ、2025年6月17日 - 自己免疫性神経精神疾患における革新的な治療薬開発に取り組む創薬ベンチャー企業である Arialys Therapeutics 社(以下、Arialys)は、本日、同社の主力医薬品候補であるART5803が、抗NMDA受容体脳炎(anti-NMDA receptor encephalitis/ANRE)の疾患メカニズムを効果的にブロックし、霊長類動物モデルの行動障害を迅速に回復させることを示す前臨床データをNature Communications誌に発表しました( 論文のリンク )。この成果をもとに、ART5803の臨床開発を継続し、ファースト・イン・クラスの分子標的治療薬をめざしていくこととなります。
抗NMDA受容体脳炎は死に至る可能性がある希少疾患で、管理が難しく、時に誤診が起こる神経疾患です。この疾患は、脳内のNMDA受容体に結合して架橋する病原性自己抗体によって引き起こされ、受容体の内在化によりシナプス機能障害を誘発します。その結果、精神障害や行動異常、認知機能の低下、発作、昏睡、自律神経系機能の低下など、さまざまな神経精神症状が顕れます。この疾患は小児で発症する割合も高く、病原性自己抗体が神経学的発達障害を引き起こす可能性があります。この疾患の治療法は未だ承認されておらず、現在の治療法は既存の免疫抑制療法であり、効果発現に時間を要し、重篤な副作用が現れる可能性などのアンメットニーズがあります。
Arialysの社長兼CEOであるPeter Flynn, Ph.D.は、「この研究は、抗NMDA受容体へ結合する病原性抗体が原因となる精神神経疾患に対して、ART5803が治療効果を有する可能性を強く示しています。疾患のメカニズムとその重症度が明白であるにも関わらず、抗NMDA受容体脳炎には承認された治療法が未だありません。なお、一部の精神疾患や認知症などの患者さんにおいて抗NMDA受容体自己抗体が確認されたとの報告が増えつつあります」と述べています。
Arialysの最高科学責任者(CSO)で論文の責任著者であるMitsuyuki “Mickey” Matsumoto, Ph.D.(松本光之)は、「研究データから見えてきたのは、ART5803は病原性自己抗体がNMDA受容体に結合するのを直接的に阻害し、迅速に症状を改善するという説得力のあるエビデンスです。我々の詳細な構造解析および機能解析により、ART5803が正常な受容体機能を維持しつつも、病原性自己抗体によるNMDA受容体の内在化を特異的に阻害することが確認されています。さらに、抗NMDA受容体自己抗体産生にNMDA受容体と特定の病原体との間に共通する構造が関与している可能性(Molecular Mimicry)を発見したことは、疾患の発症原因の理解を広げ、将来のART5803の適応拡大につながる可能性があります」と述べています。
ART5803は、受容体の機能を阻害したり、内在化を引き起こしたりすることなく、NMDA受容体のGluN1サブユニットに選択的に結合するように設計されたヒト化片腕IgG1抗体です。ART5803は、抗NMDA受容体脳炎の新規マーモセットモデルにおいてNMDA受容体の内在化を強力にブロックする効果を示し、分子レベルと行動レベル双方で病態を改善しました。ART5803の効果は速やかに発現し、モデル動物で良好な忍容性を示しました。今回の論文には、ART5803の結合エピトープ、作用機序、および患者さんへの全身投与の実現可能性を支える薬物動態モデリングの検討結果も含まれています。
この論文では、ART5803の治療薬としての可能性を論じるだけでなく、抗NMDA受容体自己抗体の産生メカニズムに感染症、特にトキソプラズマ原虫と特定の細菌性病原体が関係している可能性を見出しました。エピトープマッピング解析により、微生物タンパク質とNMDA受容体のGluN1サブユニット間でアミノ酸配列が一致する領域が特定され、これらの微生物に対する抗体がNMDA受容体に交差反応する可能性(Molecular Mimicry)が示唆されました。トキソプラズマ症と細菌感染症は、さまざまな神経精神疾患の危険因子として知られています。これらの研究結果は、ART5803が自己免疫性神経精神疾患全体において、潜在的に幅広い治療効果を有する可能性を裏付けるものでもあります。
最近の研究で、統合失調症、うつ病、双極性障害、認知症などの他の神経精神疾患においても、抗NMDA受容体自己抗体が同定されています。当社は、抗NMDA受容体自己抗体が陽性の精神疾患患者さんを組み込んだART5803の臨床評価を計画中です。さらに、現在、独自に開発した抗NMDA受容体自己抗体のハイスループットスクリーニングを用いて患者サンプルのテストを行い、今後の臨床開発に向けて適用拡大と対象となる患者さんの特定を進めています。
ART5803は現在、健康なボランティアを対象とした第1相臨床試験を実施中です。2025年2月には、すべての単回投与漸増(SAD)試験の完了と、反復投与漸増(MAD)試験の開始を発表しました。当社は、2025年後半に初期臨床データを共有するとともに、第2相試験を開始する予定です。
本論文はアステラス製薬株式会社、カリフォルニア大学デービス校、北里大学医学部、Vanadro社との共同研究による成果です。
Arialys Therapeutics社について
Arialys Therapeutics社は、自己免疫疾患によって引き起こされる神経精神障害の治療の可能性を追及するために、ベンチャーキャピタルAvalon Bioventures、Catalys Pacific、MPMにより設立されました。Arialysは、高感度の自己抗体検出系、患者サンプリング、受容体構造生物学の組み合わせを活用して、脳内の病原性自己抗体を特異的にブロックするファーストクラスのプレシジョンメディシンを開発しています。Arialysは、米国カリフォルニア州ラホーヤに本社を置いています。詳細は、 www.arialysrx.com をご覧ください。
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