「AIの使用が脳を再プログラムし認知能力の低下につながることがMITの研究で判明」というのは本当なのか?

サイエンス

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者がプレプリントとして発表した「ChatGPT使用時の脳:エッセイ執筆タスクにAIアシスタントを使用した際の認知負債の蓄積」という研究が、研究者の意図しない形でセンセーショナルに取り上げられて話題になっています。加えて、研究者の意図はともかく研究内容に問題があるとの指摘もあります。

[2506.08872] Your Brain on ChatGPT: Accumulation of Cognitive Debt when Using an AI Assistant for Essay Writing Task

https://arxiv.org/abs/2506.08872

Commentary: "Your Brain on ChatGPT" Preprint

https://residualinsights.com/all-hype-no-bite-your-brain-on-chatgpt-preprint/

MIT Study Finds AI Use Reprograms the Brain, Leading to Cognitive Decline | Hacker News

https://news.ycombinator.com/item?id=45114753 MITのナタリア・コスミーナ氏らは、ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)を利用することで人間の認知コストがどう左右されるのかを明らかにするため、被験者にLLMを使わせて脳波を測定するという実験を行いました。

AIチャットボットを使っている人間は脳活動が大幅に低下することが判明 - GIGAZINE

研究内容は以下の通りでした。 ・被験者を、LLMを使う「LLMグループ」、検索エンジンを使う「検索エンジングループ」、何も使わない「脳のみグループ」に分けてエッセイを書かせた ・エッセイを書くセッションは4回に分けて行った ・4回目のセッションのみ、LLMグループにはツールを何も使わないよう指示し、脳のみグループにはLLMを使うよう指示した ・結果として、3つのグループはすべて有意に異なる神経接続パターンを示し、神経接続の強度は脳のみグループが最も強く、次いで検索エンジングループとなり、LLMグループが最も弱かった ・4回目のセッションでLLMグループに特定の脳波の活動低下が示された一方で、脳のみグループには後頭頭頂部および前頭前野で神経接続の活性化が見られた

この研究は、「LLMを使うと脳が機能停止する」といった内容を含んだニュースになって拡散され、「そのような研究は本当に正しいのか」と議論される事態に発展しました。 多くの人が、そもそもこの研究がarXivに公開された査読前のものであることを指摘しています。

その前提で、被験者の数が合計54人で、さらに4回目のセッションまで進んだLLM・脳のみグループはそれぞれ9人しかいなかったために、神経科学における研究のサンプル数としては母数が少ないこと、被験者は18歳から39歳(平均年齢22.9歳)と若く、決して一般化できないことなどが、決してセンセーショナルに取り上げるべきではない理由として指摘されています。 また、「活動量が多い」ということを「良い」と捉えるのは妥当なのか、4回目のセッション参加はオプションで、最初の3回のセッションに参加した時点で実験は完了とみなされていたのに、なぜオプションの4回目の結果が論文の主題のような提示のされ方をしているのか、4回目のセッションは20分間しかなく、ストレスやプレッシャーといった要因もあるのではないかといった指摘も寄せられました。

このような指摘が来るほど反響が大きかったために、論文著者も特設サイトを公開し、「多くの人がLLMを使って論文を要約した(間違いを含む)ため騒ぎが大きくなっている」「LLMが人間の頭を悪くするという表現は間違い」「論文には制限事項を記している」「この種の初めての試みなので、今後さらに多くの論文や研究が発表されることを期待する」といった意見の掲載を余儀なくされています。

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