賞味期限が過ぎ、足元を見透かされ始めたトランプ大統領

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個人的な感想を先に申し上げるとトランプ氏の賞味期限は過ぎ、今は足元を見透かされている感が出てきたように思います。何がそう感じさせるのでしょうか?

2、3か月前にこのブログでトランプ氏は夏休みを取ってのんびりゴルフでもしたいのでは、と述べたことがあります。その意図はいくらトランプ氏が不屈で押し相撲の好手だとしても年齢も考えればそれほどのエネルギーが持続できるものではない、よって当時は関税問題が花盛りだったわけですが、さっさと片付けたいと思っているはずだ、という意味でした。

先日「トランプ氏の消えた3日間」という報道がなされ、公の場に表れず、SNSも更新されない時がありました。これに一部から死亡説が出るなど噂が駆け巡ったのですが、実際には8月27日から9月1日まで実質夏休みであり、孫たちと自身のゴルフ場を歩いているところも目撃されています。いくら大統領とはいえ夏休みぐらいは当たり前にとるのが欧米のスタイルなのでそれ自体が驚くことではありません。ただ、9月以降、トランプ氏のそれまでのテンションとは変わってきている、そんな気がするのです。一言で言えば緊張感が抜けた、そんな感じでしょうか?

私はトランプ氏はいずれ攻めから守りになるのではと意見しました。その「いずれ」がもう来てしまったのではないか、という感じすらあるのです。いくつかの事例を箇条書きにしましょう。

  • 関税:連邦高裁で下級審の違法を支持するも一旦差し戻し。政府は戦いに挑むも難航が予想される
  • クック理事問題:地裁はクック氏解任は差し止めを指示。
  • 雇用の悪化:統計から見える雇用情勢悪化はFRBの責任だけでなく、経済の屋台骨を支えるべく政権の政策と手腕への疑念が上がる可能性
  • 現代自動車外国人不法労働問題:外国人無くして工場立ち上がらず。トランプ氏の産業国内回帰論に一石を投じたか?
  • ガザ問題:停戦を要求するも一筋縄でいかず、イスラエルとの温度差もあるように見える ウクライナ問題:ゼレンスキー氏とプーチン氏の会談の実現はまだ遠く、トランプ氏の一連の尽力も効果見えず。
  • ポーランドドローン問題: プーチン氏の欧米攪乱作戦なのか、アメリカという文鎮への挑戦にも。
  • 中国:国防省トップ間のオンラインミーティングではアメリカの中国敵視姿勢が消え去り、落としどころを探る展開。またトランプ氏も対中国政策は軟化の模様

これだけ見て頂いてもトランプ政権の維持はいばらの道になりつつある、という感じがするのです。昨日もトランプ氏に近いMAGA有力者が殺害される事件があったばかりです。

もう1つは政権を支える人たちです。トランプ氏の声が大きいため、政権中枢はほとんどYESMANになっており、誰一人気骨を持ってトランプ氏に意見を言うことができなくなっているように見えるのです。

北米では「誰に雇われたか?」というのが非常に重要で、自分を採用してくれた人に忠誠を誓う一方、人事が変わるなどすると途端に内部組織が機能しなくなる傾向があります。アメリカで政権交代の度に人事のガラガラポンが官僚を含めて行われるのは「忠誠を誓う人物で固める」のが鉄則であるからです。当然、トランプ氏も同じことをしたのですが、トランプ氏の剛腕に対して最側近ですら振り回されており、「トランプ氏も疲れているかもしれないが、側近である我々もギリギリの精神力で対応している」と言いたそうに見えます。

当然、早かれ遅かれこうなることは予想されていて外国筋などはそれを読み込んでいるはずです。つまり対米外交政策については「急ぐ必要はない。風向きは変わるのだ」というスタンスではないでしょうか?朝令暮改とされたトランプ氏の発言の数々は十分な思慮と戦略というよりトップの権力の見せしめだったとみています。故にアラスカで開催されたロシアとの会談でも交渉上手のプーチン氏を丸め込むどころか、丸め込まれた感が強くなったわけです。めったに英語をしゃべらないプーチン氏が会見の最後に「次回の会談はモスクワで」と述べた一言がとどめを刺したのであります。

仮にトランプ政権が守勢に回ると仮定しましょう。まず、心配なのが議会が機能するのか、であります。現在は共和党が有利でありますが、アメリカでは造反もそれなりに起こる中、共和党議員が一枚岩にならなくなる公算はあります。とすればトランプ氏の思惑通りに議会決定が進まないことがあります。

一般大衆はどうでしょうか?私が感じるのはトランプ氏への不満のマグマが溜まりつつあるが、まだかろうじて蓋がされている状況だと感じています。これがどこかで一線を越えればデモが極端に増えることも予想されます。特に外国人労働者に頼っていた事業者が事業に行き詰まりを見せてくればその声は大きくなるでしょう。

トランプ大統領とバンス副大統領 ホワイトハウスXより

最大の敵は中国だと見ています。一部の方は中国はまだ経済的に苦しんでいるのだろう、と思っているかもしれませんが、中国経済は明らかに底打ちから回復基調に入っています。ずばりそこまで悪くないと申し上げます。習近平氏の動静、健康問題の噂から始まり、今年8月の北戴河会議では様々な悪い噂が流れたものの、抗日戦勝式典を含む外交の様子を見ると体裁はつくろっているように見えます。一部、幹部の粛清は続いていますし、そのニュースは折々耳にしていますが、腐敗撲滅を強力に進めることで自身の立場を固めようとしているのでしょう。

外交手腕という意味でトランプ氏は中国には勝てない、そんな状況に見えます。更に驚くべきことは北朝鮮の核保有問題についてアメリカが封印したという件です。「日米、オーストラリア、フィリピンが5月31日、シンガポールで国防相会談を開いた。複数の外交筋によると、ヘグセス米国防長官はなぜか、北朝鮮の非核化問題について共同声明に明記することをかたくなに拒んだ」(日経)とあります。5月末の時点でトランプ氏がどのような姿勢だったのか、それから3か月以上たった今、北朝鮮を懐柔して土産を持って平壌に行く気だとすればトランプ氏の威信は崩れたとも言えるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。

編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年9月12日の記事より転載させていただきました。

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