昆虫の死骸で擬態、「ボーン・コレクター」肉食イモムシを発見

新たに報告された「ボーン・コレクター」のイモムシは、体の周りに吐糸で携帯巣を作り、クモの巣から拾い集めた昆虫の死骸のパーツで飾り立てている。この個体は少々飾りすぎたかもしれない。甲虫の翅のような大きなパーツは残っているが、一部は落ちてしまっている。パーツが大きすぎると、携帯巣が蜘蛛の巣に引っかかってしまうこともある。(Photograph By Dr. Daniel Rubinoff)

 昆虫の死骸を集める「ボーン・コレクター」のイモムシが発見された。昆虫の死骸から取ったパーツで「携帯巣」を飾るガの幼虫だ。肉食の彼らはクモの巣に掛かった餌を横取りし、不気味な巣のおかげでクモに気づかれずにクモのそばで暮らせると考えられている。この新種の肉食イモムシと不思議な行動についての論文は学術誌「サイエンス」に4月24日付けで発表された。

 イモムシの大きさは体長1センチほど。よく見ると、アリの頭部、ハエの脚と翅、ゾウムシの頭部、脱皮したクモの脚の殻などがちりばめられ、昆虫などの死骸のパーツが山盛りになっている。(参考記事:「【動画】双頭のヘビに擬態するイモムシ、瞬きも」

 このイモムシはハワイに生息するハワイカザリバガ(Hyposmocoma)属だが、学名はまだつけられていない。ハワイカザリバガ属の幼虫は、ミノムシのように吐く糸で作った携帯巣に身を隠す。なかには小石、珪藻、地衣類などで巣を飾るものもいるが、今回見つかったイモムシのように、昆虫の死骸を利用する種はほかには知られていなかった。

 携帯巣の中には「どこにでもいるような白いイモムシが入っています」と、論文の筆頭著者で米ハワイ大学マノア校の昆虫学者であるダニエル・ルビノフ氏は言う。「なんともグロテスクな携帯巣ですが、新しい死骸を見つけたイモムシが、『これはおいしそうだから少し食べて、残りを背中に載せよう』と考えているのを想像すると、かわいいような感じもします」と言う。(参考記事:「うんちのふりをするイモムシ 効果のほどは?」

この携帯巣を作ったイモムシは、クモの脚が好きだったのだろうか?それともクモの脚しか手に入れられなかったのだろうか?(Photograph By Dr. Daniel Rubinoff)

研究チームがこれまでに発見した携帯巣の中で、最も多様なパーツで装飾されているもの。ゾウムシの頭部、アリの頭部、クモの脚、ハエの翅の一部、甲虫の翅と腹部の一部などが使われている。(Photograph By Dr. Daniel Rubinoff)

22年間で採集できたのはわずか62匹

 そもそも肉食のイモムシ自体が珍しい。ルビノフ氏によると、チョウやガの99.9%は植物や菌類を食べるという。けれどもこのイモムシは、朽ちた丸太や木のうろや岩の隙間にはられたクモの巣をすり抜けて、昆虫の新鮮な死骸や弱った昆虫を食べている。

 餌を奪うためにクモの糸を切ってしまうこともある。昆虫を食べ終わったイモムシは死骸をチェックして使えそうなパーツを探し、吐糸を使って携帯巣にそれをくっつける。

 ボーン・コレクターはかなり珍しいようだ。ルビノフ氏が最初にこのイモムシを見つけたのは20年以上前で、彼のチームはそれ以来ずっとハワイの森で探し回っているが、22年間で採集できたのはわずか62匹だった。

 米ニューヨーク市立大学シティ・カレッジの進化生物学者のデビッド・ローマン氏は、クモの巣に隠れている小さな茶色のイモムシを見つける難しさを思い、「偉大なフィールドワークです」と称賛する。

 ルビノフ氏のチームは発見したボーン・コレクターを研究室に持ち帰り、その行動の一端を垣間見ることに成功した。飼育下のイモムシは動きの遅い獲物を捕食し、同じスペースに置くと共食いすることさえあったという。

【動画】共食いをする「ボーン・コレクター」肉食イモムシ

研究室でイモムシを調べていた研究者たちは、彼らを一緒の空間に置くと共食いをする場合があることに気づいた。動画では、一方のイモムシが他方のイモムシの携帯巣の側面に穴を開けて攻撃し、殺して食べている。(Video by University of Hawaii Insect Systematics and Biodiversity Lab)

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