偽の「逮捕状」に「凍結捜査差押許可状」なる謎書面も…警察本部装う偽サイト乱立

警察当局の公式サイトを装う偽サイト

警察本部を装う偽サイトが巧妙化している。レイアウトは本物そっくりで、さらに公式サイトではありえない「逮捕状」が表示されるのが特徴。もちろん偽物だが、警察官をかたって「逮捕状が出ている」と相手を動揺させ、現金をだまし取る特殊詐欺事件でこうした偽サイトが悪用されている。警察当局は「公式サイトに逮捕状を掲載することはない」と注意喚起している。

大阪府警が6月下旬に確認した偽サイトは、本物のサイトと文字のフォントや「総合案内」「事件情報」といったアイコンのデザインがほぼ同一。ただ、公式サイトにはない「案件検索」とのアイコンがあった。

この「案件検索」で特定の数字を入力すると、個人名や住所などが記載された偽の逮捕状が表示された。全ての財産を調査・凍結できると記された「凍結捜査差押許可状」なる書面も出てきたという。

同様の偽サイトはすでに警視庁でも確認されている。詐欺グループはこれをどのように使っているのか。

警察庁などによると、30代女性は5月、警察官を名乗る男から「逮捕状が出ている」と電話を受けた。その後、交流サイト(SNS)のLINE(ライン)に誘導され、「受理番号」と記された数字と偽サイトのアドレスを受け取った。

偽サイトで示される偽の差押許可状(大阪府警提供)

クリックすると、警視庁の偽サイトの「案件検索システム」に誘導され、番号を入力すると偽の逮捕状が表示された。女性は一連のやりとりで200万円を指定された口座に振り込んだ。

大阪府警の偽サイトも詐欺グループが同様の演出に用いようとしたとみられる。府警は詳細な手口を明らかにしていないが、府内の男性がこの偽サイトに関連して、数百万円を指定された口座に振り込んでしまった。直後に被害に気付き、振込先の口座を凍結したため、金が引き出されることはなかったという。

府警によると、6月以降、今月4日までに同様の偽サイトは計11件確認された。順次サイトを閉鎖させる手続きをとっているが、偽サイトは次々と生み出される可能性がある。

府警は「警察が公式サイトに逮捕状を掲載したり、SNSで送ったりすることはない」と強調、クリックする前にサイトのアドレスを慎重に確認するよう求めている。

性被害、若者もターゲット

特殊詐欺の手口の中でも警察官をかたる詐欺では高齢者だけでなく20~30代の被害も目立つ。金銭的被害のみならず、性被害も確認されており、事態は深刻化している。

警察庁によると、今年1~5月の特殊詐欺の認知件数は1万905件で前年同期比で約3500件も増加した。被害額は492億円で、前年同期比で300億円以上増えている。

認知件数のうち約35%が警察官をかたる手口。例えば、偽の逮捕状を見せて「あなたの口座が犯罪に使われている」と相手を動揺させ、「資金調査を行う必要がある」などと金を振り込ませる。実際には存在しない「機密保持約定書」という書類を見せ、周囲と相談させないようにするケースもあった。

偽警察官による性的被害も6月までに32件確認された。同じように逮捕を示唆した上で、「タトゥーが入っているか確認する」と服を脱ぐよう要求したり、「24時間監視が必要」との理由でトイレや入浴中もビデオ通話を続けさせたりする事案があった。

特殊詐欺の被害は高齢者に集中することが多かったが、そうした傾向にも変化がみられる。今年1~5月の警察官をかたった詐欺被害では、30代が最多で20代が次いで多く、この両年代で全体の4割を占めた。

「偽サイト作り容易、自動生成の可能性も」

警察組織のみならず、官公庁や民間企業の偽サイトも多数確認されており、ITジャーナリストの三上洋氏は「URLを除けば、寸分たがわない偽サイトをつくるのは非常に容易」と指摘する。

三上氏によると、サイトを構成する言語「HTML」のソースコードをコピーすればサイトの完全再現が可能で、「むしろ、変える方が手間がかかるくらい」。また犯罪組織の間では、偽サイトを自動生成するようなツールも存在している可能性が高いという。

一方、URLそのものの偽造は不可能とされ、正規サイトのURLと比較すれば偽サイトを見破ることは可能。だが、そうした確認の手間をかけることは一般的になっておらず、一見して信じ込んでしまう人が多いとみられる。

三上氏は対策として、こうした詐欺の手口を広く啓発するほか、偽サイトを発見次第、閉鎖していくなど「地道な取り組みが不可欠だ」と話す。(木津悠介)

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