和歌山県白浜町:パンダ返還まで1か月、町長は「パンダにすがる気はない」と語るが…観光関係者に広がる不安 : 読売新聞
和歌山県白浜町のテーマパーク「アドベンチャーワールド」のジャイアントパンダ全4頭が中国に返還されるまで、28日で残り1か月となった。駆け込み需要で地元はにぎわう一方、再びパンダが貸与される見通しは立っていない。大江康弘町長(71)は取材に「パンダにすがる気はない」と、パンダ抜きでの観光振興を図る考えを語るが、観光関係者には不安が広がる。(和歌山支局 古賀愛子)
エサを食べるジャイアントパンダの結浜。返還前最後の屋外展示には大勢の人が詰めかけた(25日、和歌山県白浜町で)=飯島啓太撮影駆け込み特需
同施設で初めて生まれた「 良浜(ラウヒン) 」(メス24歳)や娘の「 結浜(ユイヒン) 」(8歳)など4頭が屋外で公開される最後となった25日、パンダの屋外運動場周辺は来園者でごった返した。広島県福山市から駆けつけた会社員男性(37)の「推し」は結浜で、「ここでミルクを飲んでいたのに、こんなに大きくなって」と感慨深げに語った。
隔離検疫のためガラス越しでの屋内展示が始まった翌26日は最大4時間の待ち時間が発生。異例の事態で、広報担当者は「パンダが多くの人に愛されていることを実感する」と話した。
アドベンチャーワールドは「今後もジャイアントパンダを保護する日中共同プロジェクトの継続を目指し、中国側との協議を進める」とするが、和歌山県幹部によると、新たな貸与のめどは立っていない。
振興策協議へ
「パンダがいるからお客さんが来てくれる。いなくなったらどうなるのか」。同町のJR白浜駅前にある土産物店兼飲食店「まつや」の店長、北井さつきさん(52)は不安を隠せない。
パンダをあしらった菓子やぬいぐるみといった土産物をそろえ、パンダの顔をデザインしたかまぼこ入りラーメンなどが人気だ。返還が迫る今年は大型連休後も客足が途絶えないが、北井さんは「パンダ土産の取り扱いは徐々に減るだろう。パンダにはまた来てもらいたい」と訴える。
宿泊事業者も先行きを懸念しており、白浜温泉旅館協同組合は近く、返還後の観光振興策の協議を本格化させる。
「200万人」から
県によると、白浜温泉や海水浴で有名な 白良浜(しららはま) を擁する白浜エリアの観光客は、町人口の150倍に当たる年間約301万人(2024年速報値)。約172万人が宿泊し、約129万人が日帰りだった。アドベンチャーワールドの来園者は年間約100万人とされ、パンダは、誘客面で温泉、海水浴との相乗効果を発揮していた。
大江町長は読売新聞の取材に対し、全体の観光客数から、アドベンチャーワールドの100万人を除いた「200万人」という数字を示し、「そこからどう増やすかだ」と主張。バスツアーへの補助や南紀白浜空港へのチャーター便誘致などを進め、「パンダがいなくても楽しめる観光地を整備したい」と語った。
和歌山大の足立基浩教授(まちづくり論)は「パンダにすがりたくないという考え方もあるとは思うが、パンダは和歌山に定着しているブランド。返還で宿泊やグッズ販売などに影響が出るので、今後の施策は経済波及効果の範囲も踏まえ、観光、農漁業、交通、小売りなど幅広い分野の関係者と十分に話し合うべきだ」と指摘している。