日本を揺るがす「令和の米騒動」、その背景と政府対応-QuickTake
日本ではコメの供給不足が価格の高騰を招いている。この影響で生活費の上昇に拍車がかかり、国民の間で不満が広がった。
1袋5キログラムのコメの平均価格は6月時点で4223円と、1年前と比べてほぼ倍となった。一部の学校給食でコメの提供日数を減らすなどの対応が取られているほか、小売店や飲食店では関連する商品や料理の値上げが相次いでいる。
国民の反発が強まる中、7月に参院選を控える石破茂首相と与党・自民党にとって、この問題は打撃となりかねない。
米不足を招いた要因は?
現在のコメ不足は2023年に端を発するとされている。猛暑の影響により、23年産米の1等米比率は過去10年余りで最も低い水準となった。
新型コロナウイルス対策の緩和により訪日外国人観光客が増加し、外食産業の需要も回復したことで、供給逼迫(ひっぱく)に拍車がかかった。さらに、政府が24年8月に南海トラフ地震発生の可能性に関する臨時情報を発表したことを受けて、消費者の間でコメの買いだめが広がった。実際には地震は発生しなかったものの、価格は上昇した。
コメ産業を保護するために政府が長年続けてきた政策が、迅速な対応を難しくしている。
政府とコメ供給の関係は?
コメの生産問題は、慢性的な供給過剰に直面した1970年代にさかのぼる。政府は当時、過剰米の処理に数兆円の資金を投じた。農業関係者と政治家との間には深い結びつきが生まれ、それは現在も続いているとみられる。
78年までには、過剰生産を抑制するため農家に生産調整を促す政策が制度化された。
減反政策は2018年に正式に廃止されたが、政府は現在も、生産の目安を守る農家が交付金を受け取れる仕組みを通じて供給管理に関与している。この目安は、コメの生産量を抑制し、価格下落を防ぐ役割を果たしている。
結果として、大半の農家が目安に従って生産する中で需給は逼迫(ひっぱく)し、コメ業界は急激な需要の変化に対応する余地がほとんどない状況となっている。近年では、日本の人口減少に伴う需要減を踏まえて目安は引き下げられている。
日本は厳格な輸入規制でコメ産業を保護している。昨年の国内収穫量は734万トン。ここには主食用だけでなく、飼料用や日本酒の原料となる加工用も含まれている。一方、政府が無関税で輸入するコメは年77万トンに過ぎない。この枠外で輸入されるコメには1キロ当たり341円の関税が課される。価格変動により正確な関税率の算出は難しいが、一部試算では200%程度とされている。輸入米の大半は米国やタイ産だ。
農業団体は現在も強い政治力を持ち、自民党との関係も深い。夏の参院選で激戦が予想される地方の選挙区では組織票の動向が結果に影響を与える可能性もある。こうした背景から、石破首相はコメ価格の引き下げを求める都市部の有権者と、農業関係者を中心とした地方の支持基盤との間で利害の調整を迫られている。
コメ不足による家計への影響は?
コメの平均価格(5キロ)は1年前は約2130円だったが、足元では約2倍の水準となっている。コメ価格の高騰などを背景に4月の消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年同月比3.5%上昇した。
価格が落ち着き始めている兆候も見られる。5月最終週にはスーパーの店頭平均価格が前の週から37円値下がりした。農林水産省のデータによると、価格が2週連続で下落したのは昨年11月以来初めて。
農水省によると、22年の1人当たりのコメ消費量は年間51キロだった。現在の消費量は、1962年のピーク時の118キロを大幅に下回っているが、それでも1日当たり平均約140グラムを消費している計算になる。
コンビニエンスストアでは、コスト高に対応するため人気商品のおにぎりや弁当の価格が上昇している。
スーパーマーケットの中には、23年時点でさまざまな品種や銘柄のコメの仕入れが困難になったことを受け、購入を1人1袋に制限し始めたところもある。
コメ問題を巡る政府の対応は?
日本は95年以降、非常事態に備えるためコメの備蓄を行ってきた。過去10年にわたり約91万トンの備蓄を維持。これは茶わん130億杯分を超える量に相当する。政府は今年3月に備蓄米の放出を開始。約3分の1が大手集荷業者向けの競争入札にかけられたが、その多くはスーパーの店頭に届いていない。
農水省は当初、小規模業者がコメを高値で転売するため在庫を抱え込んでいるとの見方を示していた。だが、その後は流通過程での滞留が原因だとの認識を示している。
日本では小規模農業が中心で、収穫されたコメは集荷業者によって集められる。その後卸売業者に引き渡され、小売業者へと流通する仕組み。こうした多層構造のサプライチェーンでは、コメが精米・保管・販売・購入といった工程を経て流通するまでに時間がかかる。コメの在庫抱え込みなどが発生しやすいといった構造的な問題をはらむ。
小泉進次郎農相は5月、備蓄米30万トンの追加放出を発表。今回は競争入札ではなく、小売業者などに直接売り渡す随意契約の方式を採用。価格は60キロ当たり平均で約1万円(税抜き)となった。
随意契約には楽天グループやイオンなど大手小売業者が申し込み、備蓄米を調達した。楽天は販売価格を1袋(5キロ)当たり2138円(税込み)と、市場の平均小売価格の約半額に設定。数時間で完売したという。
コメの輸入拡大は?
韓国の業界当局者によると、日本は99年以来初めて韓国からコメの輸入を開始。4月の最初の輸入量はわずか2トンで、さらに20トンが予定されているという。
米国との関税交渉において、米国産コメの輸入拡大が譲歩案の一つとして浮上したが、価格競争を避けたい国内農家や国産米を好む有権者からの反発も予想され、すぐに立ち消えとなった。
第1次トランプ政権下の通商交渉では、当時の安倍晋三首相は国内のコメ農家を保護する一方で、米国産牛肉の市場開放に応じた。国内ではコメ市場を「聖域」とし、通商交渉で譲れない一線とみなされている。
選挙への影響は?
江藤拓前農水相は5月、「コメを買ったことがない」などと発言。生活コストの上昇に苦しむ消費者の現状を理解してないとして反発を招き、辞任に追い込まれた。後任には小泉氏が起用された。
有権者の間では、政府の対策の効果について意見が分かれている。NHKが6月に実施した世論調査によると、今後コメ全体の価格が下がると思うか聞いたところ、「下がる」との回答は43%、「下がらない」が45%だった。
参院選が迫る中、コメの価格に加え、家計を圧迫する他の財・サービスの価格も有権者に大きな影響を与える可能性が高い。
原題:How a Rice Shortage Became a National Crisis in Japan: QuickTake(抜粋)