衛星コンステレーションで地表観測サービス IHIが官民ニーズ開拓へ本腰
IHIは小型衛星を宇宙の低軌道上に多数配置して、地球を観測して様々な画像データを提供する「衛星コンステレーション」事業を本格展開する。国の安全保障や民間での活用を想定している。英国や豪州などと連携して効率良く衛星を配備し、国際的なビジネスに成長させることを目指す。(倉貫浩一)
合成開口レーダー(SAR)や光学、ハイパースペクトラムなど、それぞれ用途の異なる6種類の衛星を宇宙の低軌道上に打ち上げ、撮影した画像データを国や企業に提供し、船舶の監視や森林管理などに役立ててもらう。
経済安全保障分野では、陸海空や宇宙のデータを収集し、同盟国や同志国と連携して国の防衛などに役立てることを想定している。IHIは、米国や英国、豪州の企業が運用する人工衛星の画像データを相互に利用し、コストの抑制とデータの有効活用を図る。
既にフィンランド、英国の3社とは2025年に画像活用などに関して提携する覚書を結んでいる。
ICEYE社の人工衛星(IHI提供)25年10月にはフィンランドのICEYE社と衛星調達契約を締結した。SAR衛星4基を調達し、さらにオプションで20基を追加購入する。最初の2基は26年4月から運用を開始する。
11月には、IHIがリトアニアの宇宙関連企業に製造を委託したハイパースペクトル衛星の打ち上げに成功した。ハイパースペクトル衛星は、森林の樹種や生育状況、病害の兆候などを広範囲に高精度で解析できる。
樹種ごとに二酸化炭素の吸収量の違いを勘案したカーボンクレジットを創出することにも役立てることができる。住友林業と合弁会社を設立し、この衛星を活用した事業展開を視野に入れている。
「海外企業との協業でコスト削減」 担当室長
IHI航空・宇宙・防衛事業領域宇宙システム事業準備室の朝倉良章室長に衛星ビジネスの方向性を聞いた。
--衛星コンステレーションの目指す方向は。
衛星コンステレーションには3つの分野がある。通信、地球観測、測位だ。通信はスターリンクのような衛星携帯電話のサービスがあるが成熟しており、競合他社が多い。測位はいわゆるGPSサービスなどだが、準天頂衛星「みちびき」のように高度が高く、大型衛星を使うため、国家的な事業になる。
地球観測の分野は、低軌道に配置した衛星を活用して地球の表面を観測するが、安全保障面を中心とした市場が発展途上だ。IHIはこの分野に特化する。
--衛星の運用コストを下げる必要がある。
打ち上げた衛星は地球を周回していて、日本上空を撮影する画像データは全体の8分の1ぐらいしかない。それ以外の上空から撮影した画像データを活用してもらうために、英国など海外諸国と連携することが重要になる。IHIは各国企業に提案して、画像データを相互に活用できるように交渉している。共同で取り組むことでコスト削減につながる。
--衛星コンステレーションは官民双方での活用を想定している。
いわゆるデュアルユースという形になる。経済安全保障の分野では例えば、領海内を航行する艦船を監視するMaritime Domain Awareness(海域状況把握、MDA)といったものがある。民間の部分では、農業、森林の植生、生育状況の把握などが考えられる。IHIがユースケースを作り出していくことが重要になる。
--打ち上げも自前で行うのか。
今は、米国のスペースXに頼らざるを得ない状況だ。将来的には、国産ロケットのイプシロンでも打ち上げられる体制を作りたい。