アングル:崩れたリスク回避の円買い、投機筋が生んだ「有事の売り」

 6月24日、イスラエルとイランの停戦合意で、外為市場はいったん落ち着きを取り戻した。今回の中東有事で見逃せないのは「リスク回避の円買い」のセオリーとは逆の動きとなったことだ。3月19日撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京 24日 ロイター] - イスラエルとイランの停戦合意で、外為市場はいったん落ち着きを取り戻した。今回の中東有事で見逃せないのは「リスク回避の円買い」のセオリーとは逆の動きとなったことだ。原動力は投機筋の円買いの反転で、投機筋による「有事の円売り」は、今後も中東情勢が再び悪化する場面で円安を加速させる可能性がある。

<「有事のドル買い」、対円以外は低調>

24日の外為市場では、トランプ米大統領がイスラエルとイランの停戦合意を明らかにした直後から、ドルが全面的に下落した。いわゆる「有事のドル買い」が反転した形だが、そもそも今回の中東危機で、ドル高が目立ったのは対円だけだった。

イスラエルの攻撃開始前夜、今月12日にドルは対ユーロで3年8カ月ぶり、対英ポンドで3年4カ月ぶり安値を更新し、その後の反発は最大で1%前後にとどまった。一方、対円では一時148円台まで3%超、上昇した。

主要通貨に対するドルの値動きを示すドル指数は、13日に3年3カ月ぶり低水準となる97半ばをつけた後、24日午前も98前半と、安値圏でほぼ横ばいのままとなっている。

有事のドル買いとされる動きは「ニュースに瞬時に反応して、超短期で売買する一部参加者の影響」(みずほ証券チーフ為替ストラテジストの⼭本雅⽂氏)という局所的な現象だった可能性がある。

<投機の円買い反転、中東有事以前から兆候>

一方、この2週間あまり、米国の軍事介入、イランの報復攻撃と泥沼化が差し迫っていたにも関わらず、外為市場でこれまで危機発生時に逃避通貨として買われてきた円は、対ドル以外も含めて大きく下落し「有事の円売り」の動きとなった。

現実味がありそうな見方のひとつは、投機筋が積み上げた巨額円買いの反転シナリオだ。

米商品先物取引委員会(CFTC)のIMM通貨先物非商業部門の取り組み状況によると、最新の今月17日時点で円の買い持ちは、差し引きで約13万枚強となっている。過去最大を記録した4月下旬のピーク時から8週連続で減少し、およそ3割弱減った。

リスク回避の円買い機運が高まってもおかしくなかった環境下で、こうした「海外投機筋の持ち高圧縮、円買いポジションの巻き戻しが円安につながった」(トレイダーズ証券市場部長の井口喜雄氏)と見る参加者は少なくない。

「もし投機の円売りがなければ、ドルは現時点で140円台を割り込んでいたかもしれない」(大手金融機関の幹部)ほどの勢いだった、との証言もある。

4月下旬はちょうどドルが7カ月ぶり安値となる140円割れを付けた時期に当たる。ドルはその後、米国の財政懸念などを受けて、ユーロなどに対して数年ぶり安値を更新したが、対円では投機の円買い縮小とともに5月には148円台へ切り返しており、ドルは対円でのみ異なる動きを見せていた。

<原油急騰が貿易赤字拡大懸念を惹起>

円安の手掛かりとして、原油高が再び注目を集めてきたことも見逃せない。この日の米原油先物は4%超反落したが、中東情勢が安定を取り戻すまでは、投機の持ち高解消と相まって、円安が加速度的に進みかねないリスクはくすぶる。

専門家の間で最も懸念されているのは、世界の石油・ガス輸送の2割を占めるホルムズ海峡の封鎖だ。もし実現すれば「原油の需給バランスは、1日当たり2000万バレルの供給不足となる。これを過去の価格推移に当てはめて試算すると、米原油先物は140ドル程度まで急騰する」(日本総研調査部研究員の栂野裕貴氏)おそれがあるという。

経済産業省によると、日本の原油輸入量に占める中東諸国の比率は、最新の4月時点 で93.7%。輸入量が一定のまま、価格が現在の2倍近くになれば当然、輸入額は2倍に膨らむ。停戦合意でそのリスクは後退しているが、もし再び原油高が進むような展開となれば「貿易赤字拡大懸念による円売りが強まることになる」(栂野氏)。

トレイダーズの井口氏は、中東情勢が沈静化しても、米国の関税政策や財政懸念、景気減速に利下げ観測の高まり、日本の利上げ観測後退など、多数の不透明要因があるとみている。井口氏は「投機の円買いはまだ高水準でもあり、円相場は不安定になりやすい」と話している。

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