ヒューマノイド競争、中国が日米をリード-労働力不足に共産党危機感
中国のスタートアップ、エンジンAI(衆擎機器人)が、最新型ロボットの学習能力を披露するユニークなデモンストレーションを行った。金髪の女性インストラクターが一連のダンスステップを披露し、同社のヒューマノイド(人型ロボット)にその動きをまねるよう促した。
「5、6、7、8」とインストラクターがカウントを取り、「レッツゴー」と声をかけると、ロボットはコンピュータービジョンと機械学習アルゴリズムを用いて彼女の動きを観察し、数日かけて2004年の映画「カンフーハッスル」に出てくるダンスを習得した。
このダンスは一見滑稽だが、中国のテクノロジー業界にとって重要な一歩だ。ボストン・ダイナミクスなどの米企業が人型ロボットの開発をリードしてきたが、今では中国のスタートアップがイノベーションの最前線に立っている。
4月には北京で世界初のロボットハーフマラソンが開催され、北京のXヒューマノイドが他の二足歩行ロボット20体を抑えて優勝した。5月にはユニツリー・ロボティクスが、初のロボットキックボクシングトーナメントと銘打ったイベントで自社のロボットを披露した。
これらのイベントは必ずしも順調に進行したわけではなく、北京のレースでは21体中15体のロボットが完走できなかったが、重要なのは完璧さではない。進歩だ。
すでに中国の工場では、人間1人当たりのロボット密度が米国や日本を上回る。ますます複雑な役割をヒューマノイドが担う準備が進んでいる。
エンジンAIやユニツリーなどの企業は、ごみの分別や介護施設での医薬品搬送のほか、警察官と共に街頭を巡回したり、博物館での案内役を務めたりするなど、さまざまな分野でロボットの試験運用を始めている。現地メディアの報道によれば、軍事戦闘への応用試験も目立たないように実施されているという。
エンジンAIの創業者兼最高経営責任者(CEO)、趙同陽氏(43)はズームを通じたインタビューで、中国では現在50-60社がヒューマノイドロボットの開発に取り組んでおり、国内製造業の専門知識と政府の強力な支援の恩恵にあずかっていると明らかにした。
各社は状況ごとに煩雑なプログラミングを行うことなく、ロボットが自ら新しいタスクを学習できるようにするためAIモデルを活用。エンジンAIによると、すでにヒューマノイド数百体の注文を受けているという。
趙氏は「中国では多くの企業が関与しており、非常に優秀な人材もいる。ロボットに関して、中国が最先端となることを望んでいる」と語った。
マスク氏の危機感
ヒューマノイド市場を目指す米テスラのイーロン・マスクCEOも中国のスタートアップに注目している。
マスク氏は4月の電話会議で、テスラのロボット「オプティマス」が性能面で業界をリードしているとしながらも、中国がこの分野を牛耳る可能性があると認めた。「ランキングの2位から10位までを中国企業が占めるのではないかと少し心配している」と述べた。
この分野でのリーダーシップは重要だ。ヒューマノイドは、もはやSFや好奇心の対象を超えた存在となりつつある。シティグループは最近、これらのロボットと関連サービスの市場が50年までに7兆ドル(約1000兆円)に急成長し、世界には6億4800万体の人型ロボットが存在している可能性があると予測した。
政府や国にとって戦略的な意味合いも大きい。ヒューマノイドの開発をリードする国が、疲れを知らない労働者や介護従事者、兵士の軍団を指揮するかもしれず、経済的・政治的な力の再定義につながる。つまり、その効果はコスト削減にとどまらない。
マスク氏は5月中旬、ロボット労働力が加わることで、世界経済が現在の10倍に成長する可能性があると主張した。サウジアラビアでのスピーチで「膨大な経済的潜在力を解き放つ」と述べ、「われわれは根本的に異なる世界に向かっている」との考えを示した。
中国がこの分野で強みを持つのは偶然ではない。中国共産党と習近平総書記(国家主席)は10年余り前にロボット工学を含む戦略的技術の開発計画を策定した。
地方政府は起業家が中央政府の政策目標を達成できるよう、財政的インセンティブや支援を提供した。エンジンAIの場合、深圳市政府がファイナンスを含む経営資源を趙氏につなぐサポートを行った。
趙氏は「直接的に政府がわれわれに投資しているわけではないが、少なくとも政府の資金がこの業界への誘導や資金の方向付けに使われている」と述べ、「これは素晴らしいことだと思う」と語った。
中国は今年に入り、今後20年間でロボット工学とハイテク分野に1兆元(約20兆円)を投じる計画を発表した。米国や欧州を大きく上回る投資規模だ。
ロボット密度
米国にはボストン・ダイナミクスやアジリティー・ロボティクス、フィギュアAI、テスラなど、ロボット工学の有力企業が存在し、技術的なブレークスルーの実績もある。
しかし、中国のアプローチが戦略的に重要で、資本集約的な分野の開発において優位性をもたらす可能性があると警告する学者もいる。これは電気自動車(EV)や太陽光パネルですでに実証済みだ。
ワシントンのシンクタンク、スティムソン・センターのプログラム「ストラテジック・フォーサイト・ハブ」担当ディレクター、ジュリアン・ミューラーケーラー氏は、「中国の国家資本主義モデルの方が実際には適しているかもしれない」と述べ、「デジタルと技術の進歩は、最も重要な地政学的課題だ」と指摘した。
ヒューマノイド市場が本格始動に至らない可能性もある。それでも、中国はそれが実現すると大胆な賭けに出ている。中国のシンクタンク、リーダーロボットなどの機関が4月に発表した研究によれば、中国は今年、世界全体の半数以上に相当する1万体以上のヒューマノイドを生産する見込みだ。
カリフォルニア大学サンディエゴ校コンテクスチュアル・ロボティクス研究所のディレクター、ヘンリック・I・クリステンセン氏は、「中国がヒューマノイド戦争に勝っていることに疑いはない」と述べた。
中国政府は数年前に「中国製造2025」という野心的な計画を発表し、10年以内に達成すべき技術目標を掲げた。共産党が人型ロボット技術の開発を進める背景には、差し迫る労働力不足がある。
シドニーのローウィー研究所によると、中国の生産年齢人口は50年までに約22%減少すると予測されている。
特に製造業でその影響が深刻で、工業情報省など政府機関の報告によれば、今年末までに10セクターで3000万人の働き手が不足する見通し。若年層が親世代のような工場労働を敬遠していることも、この問題に拍車をかけている。
中国の戦略は、製造業や医療、接客業を含むセクター全般での人型ロボット導入だ。すでに中国の工場はドイツや日本を上回るロボット密度を誇り、その水準はわずか4年で倍増した。
国際ロボット連盟(IFR)によれば、23年時点で中国の従業員1万人当たりのロボット数は470台で、米国の295台を大きく上回っている。
原題:China’s Startups Race to Dominate the Coming AI Robot Boom (抜粋)