Well-being LDの視点『これからのシニア世代における子との居住志向』

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高齢期に、子世代と同居したり、近くに住んでいることは、シニアにとって大きな安心感につながる。その理由は、自身や配偶者が虚弱化した場合に、子世代に助けを求められるからだと考えられる。

実際、自身や配偶者に介護や見守りが必要になった際、子世代のサポートに支えられた経験をもつシニアは多いのではないか。また、子世代が近くに住んでいること、必要な場合に助けを得られると感じられることは、災害時などの非常時も、シニアにとって安心感や心強さにつながる。

一方で、親子の居住関係は、それぞれの経済状況や仕事の都合、介護の必要性や人間関係など、多くの要因がかかわるなかで選択される。親世代の介護を経験したり、自身や配偶者の将来の介護について考え始めた60代後半から70代前半の若いシニア世代は、子世代との同・近居に関し、どのような考えを抱いているのか。

シニアが住環境で重視すること

「シニア」と呼ばれるにはまだ若い人も多く含まれるが、65歳以上の男女を対象にした内閣府の調査によれば、住まいや地域の環境でもっとも重視することは「医療や介護サービスなどが受けやすいこと」であった(資料1)。子どもの有無にかかわらず、自身がけが・病気を経験したり、将来の虚弱化や介護が必要になった場合を見据えた生活環境を重視する人が多い。「駅や商店街が近く、移動や買い物が便利にできること」「手すりが取り付けてある、床の段差が取り除かれているなど、高齢者向けに設計されていること」「近隣の道路が安全で、歩きやすく整備されていること」「災害や犯罪から身を守るための設備・装置が備わっていること」など、生活環境の利便性とともに、自宅や近隣環境の安心感や安全性などにかかわることがこれに続いている。

非婚化や少子化を背景に、今後はこれまでの時代に比べ、配偶者・パートナーや子どもをもたない子世代や、家族の介護を協力し合える兄弟姉妹が少ない子世代が増えていく。そのような変化をふまえれば、これからのシニア世代には、年齢を重ね、医療や介護が必要になっても自立した生活を送りやすい生活環境が、より求められるだろう。

一方、子どものいる人の回答において「子どもや孫などと一緒に住むこと、または近くに住めること」は、前述した住環境要件に比べるとあまり高い割合とはいえない。これらの住環境が得られれば、子や孫などとの同・近居を意識せずとも、距離にかかわらず、必要に応じて行き来する生活もできると考えられているのであろう。

シニアが挙げる子との同・近居のメリット

なお、この調査では先の設問とは別に、子との同・近居を望むかどうかについて直接たずねている。その回答結果では、同居、近居、いずれかを望むとした人が全体の約7割を占め、総じて同・近居に肯定的な回答が多い(資料2)。

また、同・近居のメリットに関し、85歳以上のシニアでは「自立した生活ができなくなった場合に世話をしてもらえる」を挙げる人が多い一方、若いシニアでは少ない。どの年代でももっとも多い理由は「ちょっとした手助けが必要な場合に安心して過ごせる」となっている(資料省略)。年齢や心身の変化等にともなって、シニアの気持ちが変化することもあるが、現状、若いシニアでは、同・近居の場合を含め子世代の世話だけを受けることは望まず、医療・介護保険制度や自助による預貯金等の利用を前提に外部サービスを利用しながら生活したいと思っている人が多いのではないか。

実際、子世代との同・近居の意向についてたずねた先の設問において、若いシニアでは「同居ではなく、近居したい」と答えた人が多い。一般には近居のほうが、互いの生活ペースを確保したり、相手のライフスタイルを尊重しやすいと考える人が多く、交流機会や支援にかかわる関係を子世代の希望や選択に委ねやすいからだろう。おのおのが経済的に自立し、それぞれが生活空間を確保しながら、互いに必要としなければ積極的な関係構築や交流・支援機会をもつ必要はなく、必要な場合には可能な範囲で協力しやすい。そのうえで、自身の生活や介護に関しては外部サービスの利用を前提にできるだけ自立して送りたいとの考え方があると考えられる。

若いシニアにみられる「積極的な同・近居の忌避」

他方、同・近居志向に比べると選択割合は低いものの、「同居も近居もしたくない」との回答も若いシニアほど高い傾向にある。このなかには、子世代には親の生活をあまり意識することなく生活してほしいとする親の「積極的な同・近居の忌避」志向が含まれるのではないか。

親にとって、子世代が近くに住んでいること、いざというときに手助けを得られると感じられることは、加齢とともに安心感や心強さにつながる。一方で、自身が年齢を重ねたり手助けが必要な場面が増えれば、近くにいる子世代に心配や負担をかけてしまうと考えるシニアもいるだろう。子どものいるシニアの中には、子を頼ることなく自身の老後を完結できたらとの思いを抱く人もいると考えられる。このようなシニアが、健康面や経済面への自助的な備えを進める動きが、今後さらに広がるのではないか。

北村 安樹子

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