固定観念も曲げる「割れないグラス」 世界が注目する老舗ゴムメーカーの技術とこだわり 思いを形に

「E1」(中央)など「錦城護謨」が開発したシリコーンゴム製のグラス(柿平博文撮影)

掌(てのひら)にのせてみる。クリスタルガラスのような外見を鮮やかに裏切る軽さ。エッジの感触がカットの鋭さと精巧さを伝えてくる。いつまでもこうしていたいと感じるのはなぜだろう。

「不思議な縁ですね」

ゴム部品メーカー「錦城護謨(きんじょうごむ)」(大阪府八尾市)業務統括部企画課の水田竜平係長(46)が7年前を振り返った。

当時、若い社員の退職が重なった。土木事業の部署にいたが「うちのゴムの技術はすごいのに、若い仲間が、やめてしまうのはもったいない」と感じていた。

「BtoBで企業向けの製品が多く、関係先以外には技術力や会社そのものも知られていない。自社ブランドの製品が開発できれば」。そんな思いを抱えていたところ、知人からデザイン会社「シーラカンス食堂」(兵庫県小野市)代表のデザイナー、小林新也さんを紹介された。

すぐに個人的に会って意気投合したが「一緒に仕事ができるまでには正直、何年もかかると思っていました」と打ち明ける。

ところが同じ時期、太田泰造社長が、デザイナーとの協業で八尾のものづくり企業を世界に広める八尾市の取り組み「YAOYA PROJECT」について情報を受けた。「ものづくりの喜びが社員に伝わっていないのでは」と危機感を抱いていた太田社長が参加を決定。水田さんを含む計4人のチームが結成された。

「プロジェクトの資料を開いたら、何人かのデザイナーの中に小林さんの名前があったんです。お互いにびっくりしました」

磨き抜いた金型

挑戦が始まった。約30の案から選ばれたのは、小林さんが提案したゴムの機能性と驚きのあるデザインを備えたシリコーンゴム製のロックグラス。しかし、製造は容易ではなかった。

特に困難だったのは高い透明度の確保。素材の「高透明シリコーンゴム」は、わずかな気泡やゆがみでも目立ってしまう。金型に流し込み温度を上げて成型するが、気泡やゆがみを防ぐ最適な温度と時間は、製造責任者のメンバーが試行錯誤の末に探り当てた。

さらに金型が少しでも曇っているとグラスの表面が乳白色になるため、金型を鏡のように徹底的に磨く必要があったという。

「通常のゴム製品とは磨きのレベルが桁違い。責任者が、専門の職人さんに何度も磨き直しをお願いしていました」(水田さん)

シリコーンゴムのグラスの金型。専門の職人の手で万華鏡のように磨き上げられる(提供写真)

令和2年2月にクラウドファンディングで販売を開始。ブランド名は世界を視野に「KINJO JAPAN」とした。募集期間中もデザインをブラッシュアップするなど、完成度にこだわった「E1」は、目標額の9倍以上の支持を集めるデビューを果たした。

SNSで話題に

「割れないゴムのグラス」はメディアやSNSで話題となり「E1」は3年に大阪製ブランドの認定を受けた。小ぶりな「F0」やワイングラスタイプの「F2」なども作られ、計1万個が売れている。

ドイツの展示会に出展し注目を集めたほか、パリのセレクトショップなどでも販売。アウトドア用品やアパレルなど、これまで取引がなかった業界との協業や問い合わせも相次ぎ、社の知名度アップと活性化は着実に実を結んでいる。

「このグラスが認められたということは、私たちのことを知らなかった方々にも錦城護謨の技術が認められたということ」と水田さん。「社員が立ち止まって自分の仕事の価値や意義を考えるとき、ものづくりは楽しく、すごいんだと自然に思える。そういう社を象徴する商品になればいいと思います」と話す。

掌は「たなごころ」とも読む。「手の心」の意味という。ずっとふれていたいのは、グラスに込められた心と、手にする人の心が響き合うからに違いない。 (堀川晶伸)

手に取ると

「E1」(税込み6600円)は133グラム。持つと軽すぎず、逆に注がれた液体をしっかりと受け止めてくれるような感覚があります。クリスタルガラスにしか見えない秘密はその透明度。素材のシリコーンゴムは、光の透過度が94%で、ガラスの92%を上回るといいます。

金型で製造した際にできる継ぎ目が見当たらないんですが…。「金型の接合部を、グラスの底と飲み口部分に合わせているからですね」と水田さんに聞いて納得。口や手にふれる部分だけに、柔らかく安全なゴムだからこそ可能なデザインなのだと感じました。

水田さんによると「最近再び海外を中心にSNSで人気を集めているようです」。ブランドのサイトでも、一部のアイテムが「再入荷待ち」(8月20日時点)となっていますが、現在、フル稼働で生産中。また、新しいデザインのグラスを年内にも出す計画もあるそうです。

錦城護謨

昭和11年に創業。家電やスポーツ関連、医療機器向けなど工業用ゴム部品のほか、軟弱地盤改良用の土木資材や福祉関係製品を製造・販売する。主力は相手先ブランド生産で、扱う製品は年間約5000種類にのぼる。

大阪府八尾市跡部北の町1丁目4番25号。ホームページはhttps://www.kinjogomu.jp/。「KINJO JAPAN」のサイトはhttps://www.kinjojapan.com

大阪製ブランド

大阪製ブランドのロゴマーク

大阪府のものづくりのブランドイメージを向上させるため、府が平成24年からスタートした事業。中小企業の優れた技術に裏打ちされた創造力のある製品を知事が認定する。令和7年度までに171製品を認定。イメージアップとともに、自社製品開発の機運促進にも貢献している。

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