イラン・ナタンズ核施設の遠心分離機、「破壊された可能性が高い」とIAEA イスラエルの攻撃で

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は16日、イラン中部ナタンズにある地下ウラン濃縮施設の遠心分離機について、13日に行われたイスラエルの攻撃によって「完全に破壊されたとまでは言えないまでも、深刻な損傷を受けた」可能性が高いとBBCに語った。 グロッシ事務局長は、この損傷は攻撃によって発生した停電が原因だと説明。この攻撃では、地上の関連施設が「完全に破壊された」という。 また、カスケード(複数の遠心分離機が連結された設備)が設置されている地下ホール自体は直接的な被害を受けていない中で、今回の損傷が生じた可能性があると指摘した。 さらに、イラン中部イスファハンにある核関連施設では4棟の建物が損傷した一方、厳重な防御構造を持つフォルドゥの地下濃縮施設には目立った損傷は確認されていないと述べた。 イスラエルは、イランの核兵器開発を阻止するために関連施設を攻撃し、イランの核科学者9人を殺害したと発表した。 イスラエル側は、イランがここ数カ月で、発電用燃料としても使用できる濃縮ウランの備蓄を「兵器化するための措置を講じた」と主張している。 これに対しイランは15日、自国の核開発計画は平和目的だとあらためて強調。IAEAの加盟35カ国に対し、イスラエルの攻撃を強く非難するよう求めた。 ■電力供給が失われて損傷か グロッシ氏は16日、IAEAの理事会に対し、イラン国内の核施設の状況を非常に注意深く監視していると報告した。IAEAは、現地当局との連絡を通じて施設の状態を確認し、放射線レベルの評価を行っているという。 グロッシ事務局長は、13日のナタンズへの攻撃により、パイロット燃料濃縮プラント(PFEP)の地上部分が破壊されたと述べた。同地の施設では、複数の遠心分離機が最大60%の濃度までウランを濃縮していた。これは、兵器に使用されるウランに必要とされる90%に近い水準。 「PFEPの一部およびメイン燃料濃縮施設が設置されている地下のカスケードホールに対する物理的な攻撃があったことを示すものは確認されていない。しかし、カスケードホールへの電力供給が失われたことで、内部の遠心分離機が損傷した可能性がある」と、グロッシ氏は説明した。 その後、グロッシ事務局長はBBCの取材に対し、「外部電源が突然失われたことで、遠心分離機は完全に破壊されたとまでは言えないにしても、深刻な損傷を受けた可能性が極めて高いというのが我々の評価だ」と述べた。 「電気設備はほぼ完全に破壊された」 遠心分離機は、ウラン六フッ化物(UF6)ガスを極めて高速で回転させる繊細で精密な機械で、ローターを用いて濃縮を行う。停電など、わずかな問題でも制御不能に陥り、部品同士が衝突してカスケード全体が損傷する可能性がある。 グロッシ氏はさらに、現場で放射線および化学的な汚染が確認されたと述べたが、施設外の放射線レベルに変化はなく、通常の水準にとどまっていると説明した。 一方イスラエル軍は、ナタンズへの攻撃で地下の遠心分離機ホールも損傷したと主張しているが、その証拠は示していない。 グロッシ事務局長はまた、13日に行われた別の攻撃により、イスファハン核技術センターにある4棟の建屋が破壊されたと明らかにした。破壊されたのは、中央化学研究所、ウラン転換施設、テヘラン研究炉向けの燃料製造施設、そしてUF6を金属化する建設中の施設。 ナタンズと同様、この施設でも外部の放射線レベルには変化が見られないという。 イスラエル軍はイスファハンへの攻撃について、「金属ウラン製造施設、濃縮ウランの再転換インフラ、各種研究所、その他のインフラを無力化した」と発表している。 グロッシ事務局長はBBCに対し、「イスファハンにも地下空間が存在するが、そこには影響が及んでいないようだ」と語った。 また、フォルドゥの核施設については、「損傷があったとしても極めて限定的だ」と述べた。 イランの準国営通信社ISNAは14日、イラン原子力庁(AEOI)の報道官の話として、イスラエルによる攻撃の後、フォルドゥ濃縮施設の一部区域に「限定的な損傷」があったと報じた。 一方イスラエル軍は、フォルドゥへの攻撃実施は発表していない。 グロッシ事務局長は、フォルドゥの濃縮施設と西部ホンダブにあるアラク重水炉では、損傷は確認されていないと述べた。 その上で、すべての関係者に最大限の自制を求め、軍事的な緊張の高まりは人命を脅かすだけでなく、深刻な影響を及ぼす放射性物質の漏出リスクを高めると警告した。 同日、イランのアッバス・アラグチ外相はテヘランで各国外交団に対し、イスラエルによる核施設への攻撃は「国際法の明白な違反」だと非難し、IAEA理事会が強い非難声明を出すことを期待すると述べた。 また、13日以降にイランがイスラエルに対して行ったミサイル攻撃は「侵略への対応だ」と主張した。 イスラエル軍のエフィ・デフリン報道官は16日、同国の大規模な空爆作戦について、「イランの核開発計画からミサイル配備に至るまで、(イスラエル)存続への脅威を無力化するという作戦の目的を達成するため、今後も行動を継続する」と述べた。 イラン保健省によると、13日以降のイスラエルによる攻撃で、これまでに220人以上が死亡した。一方、イスラエル当局は、イランのミサイル攻撃により24人のイスラエル人が死亡したと発表している。 IAEAの理事会は12日、イランが核拡散防止義務に違反していると正式に認定した。IAEAがイランを違反国と認定するのは過去20年で初めてだった。採択された決議では、イランが未申告の核物質および核活動に関してIAEAに十分に説明しておらず、この「多数の不履行」が義務違反に該当するとされた。 2015年にイランと主要国との間で締結された核合意では、イランはウランを3.67%以上の濃度に濃縮することを禁じられていた。また、フォルドゥ施設での濃縮活動も15年間は禁止されていた。 しかし、アメリカのドナルド・トランプ大統領は1期目の2018年にこの合意から一方的に離脱。合意は核兵器開発への道を十分に封じるものではないとして、対イラン制裁を再発動した。 これに対しイランは、特に濃縮に関する制限を次々と破る形で報復措置を取り、2021年にはフォルドゥでの濃縮活動を再開した。IAEAによると、イランは現在、60%濃縮ウランを核兵器9発分に相当する量まで蓄積しているとされている。 (英語記事 Centrifuges at Iran's Natanz site likely destroyed, nuclear watchdog says)

(c) BBC News

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