「3万円もする万博通期パス」一体だれが買っているのか…"大阪のおばちゃん"が目の当たりにした「大盛況」のリアル 私はたった3時間半でギブアップしたというのに

大阪・関西万博の来場者数がうなぎ上りに増えている。開幕当初は一日当たり6~7万人だったのが、5月の大型連休以降は連日10万人を超えている。来場した大阪府在住ライターの原田あゆみさんは「私自身50代だが、万博は大阪のおばちゃんにとって『バーゲン会場』に近い。情弱とみられることが大嫌いで『オトク』が大好きというマインドに刺さっているのではないか」という――。

筆者撮影

5月のゴールデンウィークが明けた平日に訪れた大阪・関西万博

4月13日、ついに開会した2025年大阪・関西万博。大阪で働いている筆者(58歳、女性)は開催前後に用事で海外に行っていたこともあり、どこか万博については他人事で、「ようやく地元で始まったぞ!」という実感は今一つありませんでした。開会式では正午に予定されていたブルーインパルスの展示飛行が天候悪化でダメになったけど、前日の予行演習でちゃんと見たよ! なんていう友人たちの自慢げな報告もなんとなく聞いてはいました。

しかし個人的には、そもそもこれって大阪維新の会が夢洲ゆめしまにカジノを作りたいがゆえの一種の「呼び水」でしょ? みんな本気で行くのかなあ、ちょっとあとになってから「私も見ることは見た」という実績さえ作ったら、まあ大阪在住の人間としては十分じゃないの? と思っていたのです。

しかし、様子が変わってきたのがゴールデンウィーク直前のころ。流行りものに敏感な筆者の姉夫妻(夫婦とも60代前半)が、開会当初の時期にさっさと行ってきたのです。いたく気に入ったようで、LINEで「意外と面白かった! でも、入れなかったパビリオン、たくさんあったんだよねー」

ジム、Facebook、奥様会でも「万博の情報合戦」

さらに、「タダ券か割引券、どこかにないかなあ」とまで言うので、いい割引でもないかと一生懸命探していたところ、そのあとすぐ「やっぱり私たち、夫婦2人とも通期パス(4月13日から10月13日まで毎日入場可能・大人3万円/人)を買うわ!」と宣言。ええっ、マジで⁉ 会期末まで通える通期パスに夫婦して投資するぐらい姉ちゃんたちは万博に思い入れがあるのか、と驚いたあたりから、世間の様子もどんどん変わってきたのです。

地元駅前の女性専用ジムでも、受付の女性がいきなり「あれ、行きました? 万博」と聞いてくる。そこに通うおばちゃん同士も「万博行くときの予約は紙でもいけるわよ~」と教えあっている。同世代の奥様たちで行くゴルフ会でも「あなた、海外行っていたからさすがにまだ行ってないでしょ? 万博、良かったわよ~私、通期パス買ったわ!」。おお、ここにも通期パス購入者。Facebookでも「イタリア館の入り方はこうだ、そしてネタバレになるが中で実は云々」とか書いている友達がいます。どこもかしこも、とにかく大阪のおばちゃん間で「万博……もう行った?」とささやきあう声が聞こえてきたのです。


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まあ、そこからすでにものすごい人でした。駅前のトイレにも、女性たちの長い列。駅から上がるエスカレータも人人人。ボランティアの人たちが暑い中、「9時までの入場の方はこっちです! 10時からの人はこちら!」と指し示します。巨大な広場のような場所をえんえんと歩き続けて、ひたすら立って待つことになりました。

筆者撮影

最寄り駅「夢洲」の地上出口へ向かう時点でこの人の多さ

横一列に大量のゲートが並んでおり、そこで空港と同じような荷物のセキュリティチェックが行われます。しかし段取りは遅く、どうやってもそう素早く進むはずもなく、カンカン照りの下でまったく列は動かず。結局中に入れたのは、並び始めから1時間たった10時半ごろのことでした。「並ばない万博」はどこへ行ったんや……。

中に入ったら今度はどこもかしこも梅田の地下街の朝夕のような人ごみでした。座るところを見つけるのも一苦労でパビリオンの入り口は多くが列をなしており、人気のイタリア館やフランス館にももちろん驚くほどの長蛇の列。これは数時間待たないと無理かな。入った当初はそんなに列がなかったマレーシア館も、みるみるうちに長蛇の列になっていきます。もはや、土日かウィークデーかどうかということは混雑ぶりとは関係ないようでした。

結果的に見られたのは知人の運営する中小企業が出展していたAI・ロボット関連のパビリオンと、小さい国々のコモンズA~C館だけで、あとは大屋根リングを見て記念写真を撮って、そこでわれわれ夫婦2人とも電池切れしてきました。

話題のイエメン“値引き交渉”も失敗

コモンズ館はそれぞれの国が少ない原資のなかから自分の国を最大限に表現しようとしている感じがあり、いろんな民族衣装や楽器、土産物(とはいえその場では買えない)などが並んでいてほほえましかったですがね。

筆者撮影

共同館の中にあるキルギスのブース

あ、買えそうなものはありました、そういえば。イエメンのおじさんがジャラジャラのラインストーンのブレスレットを大量に売っていたのです。おいくら? と聞くと「5000円!」。「同じようなのが梅田の地下街で多分2000円も出したら買えそうだぞ」と思い「高い!」と言ったらおじさん、電卓出してきます。まずは低めにと思って電卓に「1000」と打ち込んだ瞬間におじさんが電卓を投げ出してしまい、あえなく価格交渉はご破算となりました。

コモンズ館の中には、規模は小さい展示ながらもそれによって戦争を表現していたウクライナや、チューブがたくさんぶら下がっていてそれが多様な国内気候を表しているらしきクロアチア、などがありました。また、それ以外にもなぜか首長の写真が大々的に置かれている国とか、国内生産されているお酒や食料品が並んでいる国とか、展示方法はさまざま。


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電子チケット入手方法のわかりにくさについてはさすがに当初から話題で、多くの人たちにとってこれを乗り越えるのは大変だろうと話を聞いて思っていたのですが、それもおばちゃんたちは根性で乗り越えていっています。

そもそもアイドルやアニメなどの「推し活」をしている人たちは、すでにコンサート・イベント入場でデジタルチケットの洗礼を受けているようなのです。彼女たちはこの万博でもちゃんとスマホで「万博ID」を取り「チケットID」を取ったようで、それが難しい人も、コンビニなどで紙チケットやチケット引換券をゲットしていました。さらに高齢の人たちはいったい、どうやって会場に入っているんでしょう。

乗り遅れてはならじ、とにかく暑くなる前に、というわけで、ついに私たち夫婦(夫は60歳、私は58歳)も、ゴールデンウィーク明けの木曜日を狙ってようやく行ってきました、会社を休んで。私も夫も平日の全日券(6000円)、メールアドレスを用意してスマホで新規登録、万博IDを得てチケットIDも買い、得たQRコードをスマホの写真フォルダに保存。入場予約というものもしなければならないようで、午前10時に東ゲートを登録。7日前のパビリオン予約もこなしたうえで当日に備えた次第です。

ところが。

イタリア館はもちろん、フランス館も落合陽一展示も全敗

あらかじめ頑張って入れておいた7日前予約は、全敗。全部予約抽選が外れてしまいました。人気のイタリア館の予約はいうに及ばず、フランス館もnull2(ヌルヌル、落合陽一プロデュース)も全部アウト。慌てて姉に「イタリア館も何もかも全部予約がだめだった! これじゃ万博自体行かないほうがいいかな」というと、「イタリア館は裏ルートで予約できる」という裏技チュートリアルYouTube動画の存在を私に教えてくれました。海外からの旅行客用に用意された予約枠がひっそり旅行予約サイトに存在していたのです。

よかった、これでイタリア館に行けるかもしれない、と思いきや、私の予約日前後はこの裏技チケットすらも売り切れ。さらには、数日後確認したらこの裏技予約自体、会期中のチケットはソールドアウトしていました。さようなら、私のイタリア館。

さて、5月中旬の万博予約当日。気を取り直し、まあ、すいているパビリオンをかたっぱしから冷やかして回ればいいだろうと考えて、夫と一緒に現地へ向かうことにしました。レストランがいっぱいでかつバカ高いであろうことを見越し、水筒とおにぎりとおやつを持参。スマホと補助バッテリーも持参。入場予約の午前10時を目指し、9時半ごろには地下鉄中央線の夢洲駅に到着。そこから歩いていったのですが……。


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国によってはその地味な部分さえもが何か国情を反映しているようで興味深かったんですが、国の数がとにかくやたら多く、歩き疲れた夫は途中から「早く帰りたい」オーラ満載。私もさすがに疲れ果てました。座るところや日陰、飲み食いするところが人の数に比して少ない。もちろんレストランなんて大混雑で入れるわけもない。なんとか見つけたベンチで持ってきたお茶とおにぎりを掻っ込み、また立ち上がり次の館へ。トイレはさすがに列がなくてすんなり入れましたが、給水機の前にも列。給水でさえ並ばないとあかんのかい! と思ってげんなりし、結果的に、午前10時半に入って午後2時には出てしまいました。あれ以上は無理……。みんな本当に体力あるなあ。

帰るときに入場してきた東ゲートをふと見たら、その時間帯にはもうかなりすいていました。たぶん、自分たちは「全日、とにかく元取るぞ!」と思って入ったのが敗因のような気がします。午後にゆっくり入ってちょっと回って、というほうが、結果的に並ばず体力も使わずに複数パビリオンに入れたのかもしれません。遠足形式で学校の先生に連れられてやってきた小学生や中学生の大群も、疲れた表情でその時間帯にはぞろぞろ学校に戻っていく様子でした。

筆者撮影

下から見上げた大屋根リング

政治的な思惑なんて感じさせない好評ぶり

帰ってきて職場で「いや~大変だったわ~」と言ったところ、大勢の人に驚かれました。「それ、僕の周りで初めて聞くネガティブな反応ですね」などと言われたのです。確かに私自身の周りでは職場・おばちゃん仲間・SNS問わず、とにかく万博についてネガティブなことを言う人がいません。

みんな「価値があった! 確かに混んではいたけれども入れなかったパビリオンにも今後入りたいから自分は通期パスを買う(ないし買った)!」なんていう人ばかり。「え~、疲れ果ててもう二度と行かないと思ったよ……」と言っているのは、見渡す限り夫と私だけなのです。

これが自分の会社の中の話ならまあ、関西で生きる社である以上、何かこう政治的な思惑が働いているんだろうなと穿った見方をしてしまうところですが、姉夫妻、ゴルフ仲間の奥様、駅前女性専用ジムのおばちゃんたち、Facebookの友達、関連会社の管理職女性、みんながみんな万博について「面白かった」「混んではいたがまた行きたい」「お勧めの方法はコレ」「混雑を避ける方法は」「私なりの楽しみ方はこう」などと言って、通期パスを買っている。そして、ホントにネガティブな感想を聞かない。私は大阪では変わり者なのだなあ。


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ここからは完全に個人の感想で恐縮ですが、そういえば私はいわゆるイマーシブ系(没入型)のコンテンツとは相性が悪い人間だったのです。それも万博を楽しめなかった敗因かもしれません。主要国はこぞって現実と仮想空間を融合するバーチャルリアリティの展示に力を入れていましたが、それらの映像を見ても、「美しいリアルの単なるコピーを特殊メガネや大きな場所で映してるだけやん」という感想しか持てないのです、いつも。

リアルじゃないものにお金をかける価値を感じないと自覚されている方は、今回の大阪万博には少々物足りなさを感じるかもしれません。だからこそ、ホンマもんの美術品が並んでいるはずのイタリア館だけは行きたかった。あれだけは悔しい。悔しすぎます。かといってそれだけのために通期パスを買うのは……(くどいようですが3万円)。

他方で一日券(7500円)や平日券(6000円)をまた買ってイタリア館に根性で並ぶのも、これから暑くなるなか、しんどすぎます。入れるという保証もないのに6000円を払える人がいるのでしょうか。しかもパビリオン一つだけのために。いつか倒れる人も出るかもしれません。

なおその後の報道によりますと、私が行った平日は、ゴールデンウィーク期間中の入場者数とほぼ同じ約13万人。例えば5月3日土曜日(憲法記念日)は12万696人、5月5日(子どもの日)は12万6371人でしたから、平日を選び土日祝の混雑を避けようとした目論見は、ものの見事に外れたということになります。

筆者撮影

パラグアイの伝統工芸品

だから私はおばちゃんとしての戦いに負けた

万博協会は4月13日~10月13日の会期中、2820万人の来場を見込んでいます。自分が行った平日は13万人、協会目標の1日平均15万人には届いていなかったわけですが、それであの混雑と行列。そもそもの見込み数があのインフラのキャパシティを超えているのではないのか、という気がします。

また、車で現地に行くのは結局駐車場代が高くつく(パークアンドライドで最大7500円)と考え、地下鉄で夢洲駅まで行ったことも、混雑のなか負けを喫した一つの理由に思えます。地下鉄の駅に直結しているのは東ゲートのほうであり、その東ゲートこそ最大の混雑ポイントだからです。そもそも東ゲートに向かう道すがら、地下鉄の乗換駅・本町駅の狂気に満ちた朝の混雑ぶりに、のっけから気を呑まれてしまいました。より空いているのは明らかに西ゲート。その西ゲートへはパークアンドライドやシャトルバスを使うことになり、それはそれでかなり面倒な道行となります。私の家から行くには、ですが。

並びたくないがゆえの予約取りにも負けましたし、ゲート選択でも負け、歩き回る体力でも負け、夜のドローンを楽しむまで粘るという気力でも負けた、というわけなのでした。私はおばちゃんとしての戦いに負けたんですね、万博で。

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