大川原化工機訴訟、東京都と国が上告断念…警視庁「深くおわびを申し上げたい」
精密機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)の社長らが不当に逮捕・起訴されたとして国家賠償を求めた訴訟で、警視庁と東京地検は11日、逮捕と起訴の違法性を認定した東京高裁判決について最高裁への上告を断念すると発表した。東京都と国に計約1億6600万円の賠償を命じた高裁判決が確定する。警視庁は同日、捜査の問題点を調査し、再発防止策を策定する検証チームを設置した。(小川朝熙、杉本和真)
11日が上告期限だった。上告理由として必要な憲法違反や判例違反が見いだせなかったとみられる。
警視庁は同日午後、「捜査によって当事者の皆様に多大なご心労、ご負担をおかけしたことについて深くおわびを申し上げたい」とのコメントを発表した。中島寛・公安部長は記者会見で、「(今回の事件は)捜査指揮や 緻密(ちみつ) かつ適正な捜査が不徹底だったことは間違いない」と反省の言葉を述べた。
中島部長が直接謝罪する方向で検討している。警視庁が国家賠償請求訴訟の判決を受けて、原告側に謝罪するのは異例だ。検証チームは副総監をトップとし、担当した捜査員らへの聞き取りなどを行う。東京都公安委員会の指導を受けて調査の公正性を確保する。
東京地検も同日、「検察官の勾留請求、起訴が違法と判断されたことを 真摯(しんし) に受け止めている」との謝罪コメントを発表。新河隆志・次席検事が同日夕、報道陣に「高裁判決を覆すことは困難と判断した」と述べ、地検幹部が同社側に速やかに直接謝罪する意向を明らかにした。最高検は次長検事をトップに捜査を検証し、結果を公表する方針だ。
警視庁公安部は2020年3月以降、同社の噴霧乾燥機が兵器製造に転用可能で、経済産業省の輸出規制要件に該当するにもかかわらず無許可で中国や韓国に輸出したとして、同社の大川原正明社長(76)ら3人を外為法違反容疑で逮捕。東京地検が起訴したが、21年8月の初公判直前に取り消した。
東京高裁は先月28日の判決で、1審・東京地裁判決に続いて逮捕と起訴の違法性を認め、公安部による規制要件の解釈は「相当ではない」と指摘。輸出規制を所管する同省から否定的な見解が示されたのに再考しなかったことも問題視し、「犯罪の嫌疑が成立するとの判断に基本的な問題があった」と捜査を強く批判した。
大川原社長「透明性のある検証を」
記者会見する「大川原化工機」の大川原正明社長(左から2人目)ら(11日、東京・霞が関で)=早坂洋祐撮影東京都と国が上告を断念したことを受け、「大川原化工機」の大川原正明社長(76)らは11日夕、東京・霞が関で記者会見し、「やっと終わった」と 安堵(あんど) の表情を浮かべ、再発防止のために「透明性のある公正な検証をすべきだ」と訴えた。
2020年3月に逮捕された大川原社長。逮捕前から犯罪にあたらないと訴えたが聞き入れられず、逮捕後の身柄拘束は332日間に及んだ。21年に起訴が取り消された後、「不当な捜査だ」と訴訟を提起し、警視庁や東京地検が捜査の違法性を否定するなか、争い続けてきた。
逮捕から5年余り。大川原社長は、「ようやく謝罪という言葉が出てきた。長い間支えてくれた社員、その家族に伝わるような謝罪をしてほしい」と語った。
逮捕・起訴後に体調を崩し、起訴取り消し前に72歳で亡くなった元顧問の相嶋静夫さんの長男(51)は「父は犯罪者として扱われながら人生を終えた。形式的ではなく、人として謝ってほしい」と述べた。
訴訟では捜査員が事件を「 捏造(ねつぞう) 」と証言するなど、警察内部からも捜査への批判が相次いだ。逮捕・起訴された同社元取締役の島田順司さん(72)は「正義を貫いて内部告発した警察官を組織から排除しないでほしい」と望んだ。
捜査の検証について、同社代理人の高田剛弁護士は「有効で公正な検証とするために、第三者が関与して行うべきだ」と力を込めた。