参院選”辛勝”の余波 京都の「民意」が揺らす北陸新幹線ルート 西田昌司氏は主張を一変
今夏の参院選京都選挙区(改選数2)で争点になったのが、北陸新幹線敦賀(福井県)―新大阪延伸の現行計画の再考だ。トップ当選を果たしたのは計画見直しを主張した日本維新の会新人。与党整備委員会の委員長として計画に携わる自民現職の西田昌司氏(66)は、こうした「民意」を反映する形で従来の主張を一変させ、国に他のルートの再検証を要請した。ただ延伸ルートを巡る近隣自治体それぞれ思惑もあり、議論の行方は見通せない。
「米原」「舞鶴」を再検証
「参院選で北陸新幹線のルートが争点化して、『米原ルート』を唱えた人が圧勝した。本当にそういう提案が可能なのか改めて検証してほしい」
次点で当選した西田氏は7月30日、自身のユーチューブチャンネルで語りかけた。
与党が平成28年に「小浜・京都ルート」と決める前は、滋賀県内を通る「米原」と、京都府舞鶴市を経由する「小浜舞鶴」を含めた3案が検討されていた。最終的には移動時間や料金などを考慮し、小浜・京都ルートが選ばれた。
ただ、建設費の高騰などによる費用対効果への懸念が高まり、京都では地下水など環境面への影響や建設残土の処理についての不安が噴出。地元都の酒造組合や仏教会も反対の声を上げるなど、参院選の前から暗雲が立ち込めていた。
「イメージ付けされた」
そして戦いの火ぶたが切られた参院選。「政治とカネ」を巡り全国的に吹き荒れた自民への逆風に加え、ひめゆりの塔を巡る自身の発言もあり、西田氏は野党候補から集中放火を浴びた。
そこに加わった北陸新幹線の問題。「米原ルート」を視野に入れるべきと主張した日本維新の会新人、元民放アナウンサーの新実彰平氏(36)が33万票余でトップ当選を果たした。
西田氏は、大阪延伸を議論する与党整備委員会の委員長という立場でもあり、「勝手なことを力ずくでやったり、間違ったことを言ったりしているというイメージ付けをされていた」。17日間の戦いをこう振り返った。
一時は落選を危惧されるなど、苦しい戦いを余儀なくされた西田氏。一方、選挙区での野党候補の乱立などもあって政権批判票は分散し、手堅い組織力のある西田氏は辛くも当選を決めた。
滋賀知事は「正直戸惑う」
象徴的な参院選の結果を受け、各党や沿線府県の関係者も相次ぎ反応した。
「(現行ルートに対する)京都の民意はノーだとはっきりした」。7月28日、維新の前原誠司共同代表は記者団にこう見解を示し、「超党派で議論する新しい枠組みが必要だ」との認識を示した。
一方で、再燃した「米原ルート」に懸念を示したのは滋賀県の三日月大造知事だ。同29日の会見で「正直戸惑う。望まないことを押し付けられるのは望ましくない」と語気を強めた。
滋賀県内では、湖西地域の交通を支える湖西線が並行在来線にあたり、経営分離の対象になることに対しての危機感がある。三日月知事はこれまで「並行在来線は県内には存在しない」と強調してきた。また多額の建設費負担も便益に見合わないとの声も根強い。
これ対し、京都府の西脇隆俊知事は「参院選で出たさまざまな民意を総合的に勘案するのは国側の仕事だと思う」と述べ、国側の判断を注視したいとの見方を示す。
また府内では、京都商工会議所の堀場厚会頭が「個人的意見」と断った上で、京都府北部の舞鶴市を通るルートを再考すべきだと発言している。
さらに混迷の色が強くなった北陸新幹線の延伸問題。与党整備委は近く会合を開く予定で、議論の行く末が注目される。(入沢亮輔)