皆既日食後に鳥が鳴いた理由、体内時計が「リセット」 米研究
米インディアナ州上空の皆既日食の様子/Kimberly Rosvall/Indiana University
(CNN) 2024年4月8日に北米で起きた皆既日食によって、一部の鳥類の体内時計が一時的にリセットされたことがわかった。
当時、月が地球と太陽の間を移動して、日中に数分間の完全な暗闇が訪れるという劇的な光景が出現した。この現象は、メキシコのマサトランからカナダのニューファンドランド島セントジョンズにいたる経路で観測された。
科学誌サイエンスに掲載された研究論文によれば、日食の間と日食後に、まるで新しい一日が始まったかのように、29種の鳥がさえずり始めた。
観測の多くは日食が発生した地域にいた市民科学者から報告されたもので、これによって研究の範囲が広がった。
動物の行動を追跡する科学者にとって、今回の日食は鳥が一時的な光の変化にどのように反応するのかを観察するのに最適な自然実験となった。こうした観測は実験室の環境では難しい。研究によれば、皆既日食は通常、同じ場所で3世紀から4世紀に一度しか起こらないため、ほとんどの野鳥は一度も経験することがない。
インディアナ大学ブルーミントン校の進化学・生態学・行動学プログラムの博士課程の学生で、論文の主筆者であるリズ・アギラール氏は、野生動物が日食のような自然現象にどう反応するかを研究することで、急速な環境の変化にどう対処するかについての知見が得られ、保護活動にも役立つと述べた。
アギラール氏は「光は鳥の行動を形作る最も強力な力の一つであり、多くの種にとって4分間の『夜』でさえ、まるで朝に戻ったかのように行動するのに十分だった。これは一部の鳥が光の変化にいかに敏感であるかを示しており、光害や夜間の人工照明といった問題に明確な含意を与える」と指摘した。
皆既日食中の劇的な光の変化を捉えた小型カメラ「ゴープロ」の映像(Kimberly Rosvall, Indiana University)
日食中のバードウォッチング
アギラール氏によれば、人間と同じように他の動物も日々の行動について光からの刺激を受けている。
17年の皆既日食の間、科学者は動物園の動物の反応を観察した。一部の鳥は夜の寝床に戻り、夜行性の鳥はより活発になった。しかし、アギラール氏と研究チームは、特に野鳥全体の反応を記録したいと考えた。
日食は北米で春に発生した。春は鳥が交尾の相手を引きつけたり、縄張りを守ったり、夜間に渡りをしたりするために鳴き声を出す非常に活発な時期だ。春に鳥は夜明けと夕暮れに最も多く鳴く。
それでは、すでに光と暗闇によって日々のリズムと季節のリズムが厳密に決められているなか、日中に突然、短い夜が訪れたらどうなるのだろうか。例えば、インディアナ州ブルーミントンでは皆既日食が4分15秒続いた。
アギラール氏によれば、日食の珍しさを一般の人々にもっと知ってもらうと同時に動物の行動を記録する方法について意見交換を行った後、研究チームはスマートフォン向けの無料アプリを設計した。
アギラール氏は「地域の科学者がこのプロジェクトには不可欠だった」と語った。「日食はわずか数時間で北米大陸を何千キロも移動したため、研究チームが一度にすべての場所に滞在することは不可能だった」
インディアナ大学ブルーミントン校とオハイオウェズリアン大学の研究者は「ソーラーバード」というアプリを開発した。このアプリの1700人余りの利用者による約1万1000件の観察結果が、日食の前と最中、そして後に5000キロにわたる日食の進路上の鳥の行動を記録した。
研究チームはまた、インディアナ州南部全域にティッシュ箱の大きさの録音機を設置して、皆既日食の前と最中、後に約10万羽の鳥の鳴き声を録音した。
アプリユーザーの任務は簡単だ。鳥を見つけて、日食の間に最低限の時間、観察を行い、鳴いていたか、飛んでいたか、食べていたかなど七つの行動を記録する。
鳥ごとに異なる行動
集められた録音は鳴き声に基づいて鳥の種類を識別できるAI(人工知能)システム「バードネット」によって分析された。研究チームは鳥の鳴き声も分析した。
論文によれば、日食中に活動していた52種の鳥のうち、29種の鳴き声に明らかな変化がみられた。
空が暗くなるにつれ、11種の鳥は普段よりも多く鳴いた。暗闇の間、一部の鳥は静かになったり活発になったりした。
最も大きな変化は、日光が戻ったときに起きた。19種の鳥が、研究者が「偽りの夜明けの合唱」と呼ぶものを始めたのだった。
たとえば、アメリカフクロウは通常の4倍の頻度で鳴いた。夜明け前に独特の鳴き声を発するコマドリは通常の6倍の頻度で鳴いた。
アギラール氏によれば、これらの鳥にとって、日光の回復は新しい一日の始まりを告げるものであり、事実上、体内時計をリセットすることになる。
「鳥の種類によって夜明けを迎える方法は大きく異なる。大きく精巧な夜明けの合唱を奏でる種もいれば、ずっと静かな種もいる。最も激しい夜明けの合唱を奏でる種ほど、日食に反応する可能性が高いことも判明した」(アギラール氏)
長期的な影響の測定は研究の範囲外だったが、研究チームは持続的な影響は最小限だったと推測している。アギラール氏によれば、突然の暗闇に反応する間に、一部の鳥は餌や交尾の相手を探したり、縄張りを守ったりしていたかもしれない。
アギラール氏は、全ての鳥種が同じ反応を示したわけではなく、月の影が太陽を完全に覆う皆既帯で、鳥の反応が最も顕著だったと言い添えた。
「実は、すべての鳥種が同じように反応したわけではないというのは理にかなっている。鳥は光の変化に対する感受性がそれぞれ異なるから」とアギラール氏は述べた。「それぞれの種には独自の活動パターンやエネルギー需要、感覚能力があり、環境の変化をそれぞれ異なる方法で解釈する」