「石破首相続投 賛成多数」 年齢補正で賛否逆転 高齢者に偏った世論調査にNHK「課題と認識」
NHKは8月13日、世論調査で石破茂首相の続投について尋ねたところ「賛成が反対を上回った」と報じた。だが、回答者の年齢層に偏りがあったため、有権者の年代別割合に応じて補正すると、報道とは逆に、反対が賛成を上回る結果になることがわかった。
過去にNHKが報じてきた内閣支持率や政党支持率も、年齢補正をかけると、実際に報道された数値と大きく異なる結果になることが、筆者の調査で判明した。
NHKは、筆者の取材に対し「電話世論調査の回答者は人口の年代別割合に比べて高年層の割合が高めに、若年層の割合が低めになる傾向があることは課題だと認識」していると回答。最適な調査方法について研究を進めていくとの見解を示した。首相続投賛否の報道についての対応も尋ねたが、回答はなかった。
多くのメディアは毎月世論調査の結果を報じる際に、年代別回答割合を明らかにしておらず、年齢補正の検証ができない。NHK以外でも年齢層の偏りにより、実態と乖離した数値が「世論」として報じられてきた可能性がある。
(筆者作成)年齢補正はNHK世論調査(2025年8月、問5)の「年代別回答割合」に「有権者の年代別割合」を乗じて算出NHKの世論調査は8月9〜11日に実施。固定電話と携帯電話の電話番号を無作為に抽出する「RDD法」で、固定電話457人、携帯電話680人の計1137人から回答があった。石破首相の続投の賛否を尋ねた質問では、賛成554人(48.7%)、反対454人(39.9%)だったため、NHKは8月13日のニュースで「賛成49%、反対40%」と報じた。
ところが、別途、公開された年代別回答割合によると、59歳以下では反対が上回り、60歳以上で賛成が上回っていた。
(NHK特設サイトより)2025年8月の世論調査の一部。NHKは「層別分析をする場合は各層の人数が100人以上であることを目安としています」と注釈しており、30代以下は一つの層にまとめられている。NHK世論調査の集計表を見ると、たとえば30代以下は有権者の約25%を占めるのに、回答者に占める割合は約11%にとどまるなど、年齢層に大きな偏りがみられる(下のグラフ)。
だが、NHKは一般向けニュースで、調査結果の補正を行わず、単純に集計した結果を「全体」値として報道してきた。結果として、高齢者の回答が過大に、若年者の回答が過小に評価された数字を伝えていたことになる。
(筆者作成)世論調査の回答者分布はNHK単純集計表より。有権者の年代別割合は総務省「第50回衆議院議員総選挙年齢別投票者数調査(抽出調査)」より算出回答者の分布は、過去12ヶ月のNHK世論調査でもほぼ同じだった。
NHKが6月の調査で公開した年代別の内閣支持率も、若年者と高齢者で賛否の違いが出ている。政党支持率も年代によって大きく異なる(筆者X投稿参照)。
これらも年齢補正をすると、従来ニュースで報じられていたのと大きく違う数字になることがわかった(以下の表)。詳しくは筆者のニュースレターで解説している。
(筆者作成)年齢補正はNHK世論調査の「年代別回答割合」に「有権者の年代別割合」を乗じて算出(注1,2も参照)(注1)NHK世論調査のニュース記事と年代別政党支持率の出所◯ 政党支持率 自民29.4% 国民7.1% 立民6.9% 参政6.8%(2025.8.12)◯ 政党支持率 自民は政権復帰後最低24.0% 立民7.8% 参政5.9%(2025.7.14)◯ 政党支持率「支持政党なし」37.8% 自民の支持率が上昇(2025.6.9)◯ 石破内閣「支持」6ポイント上がり39% 備蓄米の対応評価は?(2025.6.9)
(注2)NHK世論調査(2025年6月)の年代別内閣支持率の出所◯ 特設サイト2025年6月分
※ 7月は参院選の期間中に行われたため、ふだんの月例調査より調査数・回答数が多い。※ 年代別内閣支持率は、2025年6月分以外には見当たらない。
【筆者の視点と提言】
世論調査の回答年齢層の偏りが生じる要因としては、若年者の回答率が低下傾向にあることや、高齢者が出る確率の高い固定電話への調査が行われていることも考えられる。
NHKは取材に対し、結果の補正を行わずに公表していることを認め、主な理由として「ウエイト集計を行うと一部の方の回答をより拡大することになり、結果をゆがませる可能性がある」ことを挙げている。
もとより、世論調査は回答数が限られているため、5ポイント程度の誤差があると言われる。年齢補正をしても、有権者の世論を完全に反映するものではないことに留意して、ニュースを受け止める必要がある。
とはいえ、世論調査の報道は、有権者の意見や政治家の行動、判断に大きな影響を与え得るものだ。
回答者の年齢層に偏りがあり、補正をかけると賛否が真逆の結果になったり、政党支持率の順位が変わるような状況では、世論調査の信頼性を根底から揺るがしかねい。早急に対策が求められるのではないか。
「若年者は投票率が低いのだから、その意見は過小に評価されても仕方ない」という意見もある。だが、世論調査は投票に行くかどうかに関係なく、有権者全体の意見の傾向を把握するもので、人々もそのようにニュースを受け止めるはずだ。
前回参院選では投票率が上昇している。若年者の意見が過小に評価され、実態と大きく乖離した世論調査結果が報じられることは好ましいことでない。
メディア各社は過去の結果と比較できるよう、調査方法の継続性を重視する傾向にある。だが、NHKも「課題」を認識している。若年者の回答割合が増えるよう改善を避けるべきでない。
NHKは比較的詳細に情報公開していることは評価したい。他社は、年代別回答の割合をほとんど開示していない(昨年暮れからデータベースの公開を始めた朝日新聞は例外)。世論調査の信頼性を保つために、他社も詳細なデータをすべて公開し、検証できるようにすべきではないか。
あわせて、年齢補正を行った場合との違いも確認し、結果が大きく異なる場合はどのように報道するかも検討する必要があるだろう。
慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。