マンガ問題を「MANGA」で解決 聖地巡礼でオーバーツーリズム…新幹線駅にマナー広告

列車撮影時のマナーが英語で書かれた広告を見る外国人観光客=3日午前、JR東京駅

人気漫画を使って外国人にマナー順守を呼びかけるパネルが東海道新幹線の主要駅に設けられ、注目を浴びている。作品の舞台となった地域では「聖地巡り」のインバウンド(訪日客)が殺到し、住民生活に支障が出るオーバーツーリズム(観光公害)が深刻化している。クールジャパンがもたらした負の側面を主力コンテンツの「MANGA」で相殺しようという試みだ。

《列車の写真を撮る際に、柵から乗り出すのはやめましょう》

JR東京駅の新幹線乗り場で、城壁に手をかけてこちらをのぞき込む巨人と、それと戦う人気キャラクターが描かれたパネルが利用客の目を引く。発行部数が世界で累計1億4千万部を超える大ヒット漫画「進撃の巨人」を使ったマナー広告だ。

広告に目をとめていたのは、米テキサス州から観光で訪れた大学生、コリン・パニパルさん(21)だ。この漫画がきっかけとなって日本語を学んでいるという。「日本のマナーは米国と全然違う。好きなキャラクターが教えてくれると分かりやすい」と話した。

広告はJR東海と講談社が連携して「MANGA MANNERS(マナーズ)」として企画。大阪・関西万博に伴う訪日客の増加を見込んだ試みで、東京、品川、名古屋、京都、新大阪の各駅で今月30日まで設けられている。

使われているのは「美少女戦士セーラームーン」「攻殻機動隊」「カードキャプターさくら」など講談社刊行の計17作品だ。こうした外国人向け広告は珍しいという。

日本の漫画やアニメは海外でも「クールジャパン」として熱烈な支持を集めている。一般社団法人「日本動画協会」によると、2023(令和5)年に初めて3兆円を超えたアニメ市場は、国内の1兆6243億円に対し、海外は1兆7222億円。海外市場はさらなる伸びが予想される。

その半面、負の効果も。漫画やアニメの舞台には訪日客が押し寄せ、オーバーツーリズムを引き起こすようになった。

映画化もされたバスケットボール漫画「スラムダンク」ゆかりの神奈川・湘南の江ノ島電鉄「鎌倉高校前1号踏切」には訪日客が殺到し、車道での撮影や私有地侵入などの迷惑行為が相次いだ。

神奈川県警鎌倉署によると、今年もこの踏切でのトラブルに関する通報や相談が6月2日までに16件寄せられている。すべてが訪日客とはかぎらないが、鎌倉市の担当者は「警備員を配置しても、訪日客にはなかなか日本のマナーが伝わらない」と頭を悩ませる。

5月の訪日客は約369万人と同月として過去最多を更新した。今後もオーバーツーリズムの激化が懸念されるが、こうした中での漫画やアニメの発信力を駆使した試みが注目される。

(永礼もも香)

岡本健・近畿大教授(社会学)の話

日本の漫画やアニメは言葉や文化の壁を越え、国外でも多くのファンを獲得している。

一方、一部地域では「聖地巡り」によるトラブルが起きている。すべてがインバウンド(訪日客)によるものであるとはいえないものの、聖地でのオーバーツーリズムは、クールジャパンの影響力が海外で強まっていることの裏返しだともいえる。

背景にある物語への共感や関心とも相まって、漫画やアニメなどの登場人物は読者の感情を動かすことができる。作品のキャラクターを通して、外国人に日本のマナーを順守するように伝えるのは上手な方法だ。

日本の人口減に伴って海外市場はさらなる拡大が見込まれる。インバウンドを巡るトラブル解決の有効な一手として、漫画やアニメの発信力の活用を期待したい。

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