1万6000トン! NASA探査機「DART」の衝突で小惑星から放出された物質の量を推定

今から3年ほど前の2022年9月、NASA=アメリカ航空宇宙局は1つの探査機を小惑星へ意図的に衝突させました。

その目的は、甚大な被害をもたらす小惑星の地球への衝突を回避するために、小惑星の軌道を変更する技術を実証すること。ミッションの名前は「DART」(ダート、Double Asteroid Redirection Test: 二重小惑星方向転換試験の略)です。

ターゲットとなったのは、小惑星「Didymos(ディディモス)」を公転する衛星「Dimorphos(ディモルフォス)」です。DART探査機の衝突によって、Dimorphosの公転周期は実際に約5%(約32分)短縮されたことが確認されています。

【▲ ASIの小型探査機「LICIACube」が撮影した、小惑星「Didymos(ディディモス)」の衛星「Dimorphos(ディモルフォス)」へのDART探査機衝突時の様子(Credit: ASI/NASA)】

今回、NASAゴダード宇宙飛行センターのRamin Lolachiさんを筆頭とする研究チームは、DART探査機の衝突にともなう噴出物の総量を分析した研究成果を発表しました。

質量約580kgのDART探査機が秒速約6.6kmで衝突した結果、Dimorphosからは探査機の質量のおよそ3万倍に相当する合計1万6000トンの岩石や塵などが放出されたと推定されています。

衝突を“目撃”した小型探査機の撮影画像をもとに推定

研究チームが分析に用いたのは、DART探査機に搭載して打ち上げられ、衝突の前に放出されたASI=イタリア宇宙機関の小型探査機「LICIACube」が取得した画像でした。

次に掲載するのは、LICIACubeが連続撮影した画像を使って作成されたアニメーション画像。DART探査機の衝突から数えて約2分~3分後のDidymos(上)とDimorphos(下)が捉えられています。

LICIACubeは二重小惑星の隣を通過しながら画像を取得したため、Dimorphosから広がっていく噴出物の立体的な様子を理解する手がかりになります。また、太陽光が届かずに見えない部分の物質については、コンピューターモデルによる推計も用いられました。

衝突直後の段階で、DARTのチームは放出された噴出物が探査機本体の衝突よりも数倍強い衝撃を与えたことを突き止めていました。今回の研究成果もまた、Dimorphosのようなラブルパイル天体(※1)の軌道が比較的変更しやすい可能性を示しています。

※1…小惑星どうしの衝突で生じた瓦礫がゆるく集まった天体。

なお、2024年10月に打ち上げられたESA=ヨーロッパ宇宙機関の二重小惑星探査ミッション「Hera(ヘラ)」の探査機は、2026年12月にDidymosとDimorphosへ到着し、DARTミッションで形状が変化したとみられるDimorphosの観測を行う予定です。DARTとHera、2つのミッションで得られた知見は、今後のプラネタリーディフェンス(※2)に活かされることになります。

※2…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組み。惑星防衛、地球防衛とも。

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典

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