1日7000歩で元気で長生きに~無理なく続けられる健康習慣~
テーマ:食事・運動
1日7000歩が、死亡リスクの低下をはじめとする様々な健康効果と関連していることが、世界中の大規模な追跡調査のデータをまとめた研究で明らかになりました。1日2000歩と比較すると、7000歩では死亡リスクが約半分になります。1万歩が理想とされてきましたが、7000歩でも十分な健康効果が期待できます。
研究の概要
この研究では、世界各国で実施された35の追跡調査から57の研究結果を集めました。そのうち、統計的な解析が可能であった24の追跡調査から31の研究結果をまとめて、16万人以上のデータを総合的に解析しました。調査対象となった健康への影響は、死亡率、心血管疾患、がん、2型糖尿病、認知症、うつ症状、身体機能、転倒です。歩数は、加速度計や歩数計などの測定機器で客観的に記録されました。自己申告ではなく、正確な測定値に基づいた研究です。※追跡調査とは、同じ人たちを長期間にわたって観察し、健康状態の変化を記録していく研究方法です。この研究では、参加者の歩数を測定し、その後の健康状態を追跡することで、歩数と健康との関係を明らかにしました。
7000歩で得られる健康効果
死亡リスクの大幅な低下
1日2000歩と比較して、7000歩では全死因死亡率が47%低下しました。つまり、歩数を増やすことで、死亡リスクが約半分になる可能性があります。5391歩が一つの目安となります。この歩数までは急激にリスクが低下しますが、それを超えると、さらに歩数を増やしてもリスク低下の効果は緩やかになります。
心血管疾患への効果
7000歩では、心血管疾患の発症リスクが25%、心血管疾患による死亡リスクが47%低下しました。心臓や血管の健康維持に、歩数が重要な役割を果たします。心血管疾患の発症については、7802歩が一つの目安です。この歩数を目指すことで、より大きな予防効果が期待できます。
糖尿病予防効果
7000歩では、2型糖尿病の発症リスクが14%低下しました。糖尿病の予防には、日々の歩行が効果的です。糖尿病を既に持つ方にとっても、血糖値のマネージメントに歩数が役立ちます。運動療法として、歩行は安全で継続しやすい方法です。
認知症リスクの低下
7000歩では、認知症のリスクが38%低下しました。認知機能の維持には、身体活動が重要です。認知症については、8829歩が効果の現れ方が変わる境目となります。より多く歩くことで、認知機能の低下を予防できる可能性があります。
メンタルヘルスへの効果
7000歩では、抑うつ症状のリスクが22%低下しました。歩行は、心の健康維持にも役立ちます。
その他の健康効果
がん死亡率が37%低下、転倒リスクが28%低下しました。がん発症率との関連は統計的に有意ではありませんでしたが、死亡率は明確に低下しています。
7000歩と1万歩の比較
従来、1日1万歩が目標とされてきました。1万歩でも健康効果はありますが、7000歩を超えるとリスク低下の効果が緩やかになる傾向が確認されました。7000歩は、より現実的で達成可能な目標です。無理なく継続できる歩数を目指すことが大切です。活動的な方は1万歩を目標にしても良いでしょう。1日2000歩と比較すると、1万歩では全死因死亡率が48%、心血管疾患発症率が30%低下しました。7000歩での効果(死亡率47%低下、心血管疾患発症率25%低下)と比べると、さらなる効果は限定的ですが、追加の健康効果は期待できます。
少ない歩数でも効果あり
4000歩では、2000歩と比較して全死因死亡率が36%低下しました。わずかな歩数増加でも、健康効果が得られます。どんなに少ない歩数でも、増やせば健康に良い影響があります。まずは今より少しでも多く歩くことから始めましょう。
年齢による違い
この研究では、平均年齢65歳未満を若年成人、65歳以上を高齢者として分析しました。
若年成人(65歳未満)の場合
5410歩が一つの目安となります。5410歩までは急激にリスクが低下し、それ以降も低下は続きますが、より緩やかになります。つまり、5410歩未満でも効果はあり、5410歩を超えてもさらなる効果が期待できますが、増やした分の効果は小さくなります。
高齢者(65歳以上)の場合
歩数が増えるほど、一貫してリスクが低下し続けました。明確な境目は確認されず、より多く歩くほど健康効果が得られる可能性があります。ただし、個人の健康状態、体力、基礎疾患の有無によって適切な歩数は異なります。無理な目標設定は避け、ご自身のペースで歩数を増やしていくことが大切です。
糖尿病診療への応用
糖尿病を持つ方にとって、歩数は血糖値マネージメントの重要な指標になります。食事療法と並んで、運動療法は糖尿病治療の柱です。歩行は、特別な器具や場所を必要とせず、日常生活に取り入れやすい運動です。血糖値のバロメーターとして、ご自身の歩数を活用することをお勧めします。スマートフォンやスマートウォッチで簡単に測定できます。
実践のポイント
7000歩は、時間に換算すると約70分の歩行に相当します。通勤や買い物、家事などの日常活動を合わせると、達成可能な歩数です。一度に歩く必要はありません。日中の細切れの歩行を積み重ねることで、目標歩数に到達できます。まずは現在の歩数を測定し、そこから少しずつ増やしていきましょう。無理な目標設定は継続を妨げます。
研究の限界
歩数測定が1時点のみで、長期的な変化を捉えていない研究が多く含まれています。また、高所得国のデータが中心で、低・中所得国のデータが不足しています。歩数計では自転車や車椅子での活動を測定できません。すべての身体活動を捉えられるわけではありません。因果関係を証明したわけではなく、観察研究の限界があります。健康状態の悪い方は歩数が少なくなるという逆因果の可能性も考慮する必要があります。
さいごに
1日7000歩が、様々な健康への良い影響と関連していることが明らかになりました。糖尿病の有無に関わらず、元気で長生きするために、日々の歩数を意識することが大切です。完璧な7000歩を目指す必要はありません。今より少しでも多く歩くことから始めましょう。自分自身の健康を守るために、歩数を活用してみてはいかがでしょうか。
引用文献
Ding D, Nguyen B, Nau T, et al. Daily steps and health outcomes in adults: a systematic review and dose-response meta-analysis. Lancet Public Health 2025; 10: e668–81.
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