超早産児へ「24時間以内に母乳を」~新栄養強化剤に期待感~|トピックス|時事メディカル|時事通信の医療ニュースサイト
早産が原因で出生時の体が小さな赤ちゃんがいる。体重1500グラム未満だと「極低出生体重児」と呼ばれ、さまざまな疾患を発症したり、脳に障害が出たりする危険性が高まる。このリスクを低減させるのが母乳で、出産後の早期に与え、腸から栄養を吸収させることが大事になる。小児科医の水野克己・昭和医科大学教授は「24時間以内の開始が重要」と強調する。
体が未熟な超早産児は栄養管理がより重要になる(イメージ画像)
◇懸念される合併症
極低出生体重児は母胎で過ごした期間が短いため、臓器や頭の発達が不十分な状態で生まれてくる。その影響で壊死(えし)性腸炎や敗血症といった重い感染症のほか、慢性肺疾患、未熟児網膜症、脳の成長の遅れなどが懸念される。厚生労働省の統計によると、同体重児の出生数は年間5400人ほど(2024年)。新生児全体に占める割合は0.7%台で、05年ごろからほぼ横ばいで推移している。
こうした赤ちゃんは出産後、病院の新生児集中治療室(NICU)での健康・栄養管理が必要となる。水野医師は管理の極めて大切なポイントとして、チューブなどを通じて母乳を腸に送り込む経腸栄養の早期開始を挙げる。
◇カギ握る腸の成熟
腸は食べ物から栄養を吸収する一方で、有害・不要物質を体外に排出する役割を担う。ところが、未熟な腸はバリアー機能が弱く、「悪いものも含め何でも取り入れてしまう。その結果、腸管粘膜でいろいろな炎症が起き、壊死性腸炎にもつながる」と、水野医師は説明する。
母乳にはたんぱく質やミネラルなどさまざまな栄養分が含まれ、バリアー機能の確立に寄与する。善玉菌の定着や腸管のぜん動・成熟を促す効果も見込める。粉ミルクなどの人工乳は母乳に比べて効果が劣る上、腸に大きな負荷がかかってしまうという。
◇重要性増すドナーミルク
優れた効能がある母乳も、生後72時間経過するまでに与え始めないと効力がそがれる。開始が遅れた場合は「慢性肺疾患と未熟児網膜症のリスクがそれぞれ4.5倍、2.9倍になる」との研究報告も出ている。母親の中には母乳が十分に出ない人もいる。出るのを待っていては、タイムリミットを過ぎてしまうかもしれない。
そんなときに役立つのがドナーミルクだ。子どもを産んだ女性から余った母乳を“寄付”してもらったもので、細菌検査や低温殺菌処理によって安全性を確保した上で冷凍保存しておく。日本母乳バンク協会と日本財団が運営する計3カ所の母乳バンクが提供元となる。ドナーミルクの活用病院・件数は着実に増えているといい、同協会の代表理事も務める水野医師は「一人ひとりの赤ちゃんを大切にするためにも、生後早期からドナーミルクを適切に使って経腸栄養を始めてほしい」と話す。
水野克己医師
◇母乳由来の強化剤承認
ただ、母乳やドナーミルクだけでは超早産児の脳や神経の発達の遅れを取り戻すのは難しく、母乳などに栄養成分を加えた強化乳が必要な場合が多い。従来は牛乳から作る強化剤が用いられてきたが、効能が十分とは言えない。さらに、アレルギーや腸閉塞(へいそく)などの健康問題が生じるケースがあり、水野医師は「命を失うことにもなりかねない」と危惧する。
そんな中で25年12月、ヒトの乳(人乳)を濃縮して栄養成分の量を増やした母乳強化剤(商品名プリミーフォート経腸用液)の製造販売が承認された。英クリニジェングループの日本法人が4月下旬に発売する。同強化剤は欧米や中東の19カ国(昨年11月現在)ですでに食品として販売されている。人乳から作った強化剤が日本で利用可能となるのは初めてという。
極低出生体重児147人を対象とした最終段階の試験結果を見ると、プリミーフォート使用群は体重、身長、頭囲のいずれについても、増加速度が標準的な栄養を与えたグループを上回った。感染症などの有害事象が生じる割合は高かったものの、ほとんどが軽度・中等度。重篤な有害事象・死亡例に関しては、強化剤との因果関係はないと判断された。
◇「生存」から「健やかな成長」へ
人乳由来の強化剤が入った母乳は、海外では10年代後半に医療施設での活用が増加。壊死性腸炎をはじめ、合併症の発症が減少する効果が多くの論文で報告されている。国内でも日本小児科学会などから成る協議会が19年にまとめた提言の中で、将来的に「早産・極低出生体重児に与えられることが望ましい」と明記されていた。
水野医師は治験結果も踏まえ、同強化剤入りの母乳について「今のNICUに求められる、将来を見越した栄養・治療戦略だと言える。小さな赤ちゃんに対する栄養管理の目的がSurvive(生き延びる)からThrive(健やかな成長)へと変わっていく」と評価。ドナーミルクの一層の利用拡大と併せ、普及への期待を示す。(平満)
(2026/04/10 05:01)
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