トランプ大統領が仕掛ける「ゲリマンダー」とは? 米社会の分断、民主主義の形骸化もたらす“禁断の果実” #エキスパートトピ
米国内では今、メディアが「ゲリマンダー」のニュースを連日のように報じている。ゲリマンダーとは自党に有利となるよう選挙区の区割りを見直す選挙戦略。きっかけは、トランプ大統領が来年の議会中間選挙で共和党の勝利を確実にするため、テキサス州にゲリマンダーの実施を要請したことだ。トランプ氏は他の州にも実施を働き掛けており、民主党も対抗して区割りの見直しを検討し始めた。党利党略以外の何ものでもないゲリマンダーは選挙の形骸化を通じて民主主義を機能不全に陥らせるとともに、米社会の分断を加速させる一因となっている。
ココがポイント
トランプ氏は、保守派が牛耳るテキサス州共和党に対し、「ゲリマンダー」と呼ばれる恣意(しい)的な区割り変更を働き掛けてきた出典:時事通信 2025/8/6(水)
カリフォルニア州知事、共和党有利のテキサス州選挙区割への対抗策を発表出典:ハフポスト日本版 2025/8/15(金)
Gerrymandering erodes confidence in democracy出典:UC RIVERSIDE News 2025/8/12(火)
Most Americans see gerrymandering as a major problem出典:YouGov 2025/8/9(土)
エキスパートの補足・見解
米国では支持政党ごとに住む地域が分かれる傾向があり、そうした地域を隣接する選挙区に取り込むか逆に選挙区から除外するかすると、過去の選挙では接戦だった地域が一夜にして、どちらかの政党に圧倒的に有利な選挙区に生まれ変わることがある。これがゲリマンダーの魔力だ。
ただし、実施には州議会と知事の承認が要る。このため実現可能なのは基本、上下両院、知事の3つを同じ政党が握る「トライフェクタ」の状況にある州だけだ。
テキサス州選出の共和党下院議員は現在25人。ゲリマンダーが成功すれば一気に30人に増える。下院全体とトランプ大統領にとっても大きな意味を持つ。
州によっては区割りの見直しは超党派の委員会が行う決まりがある。一瞬にして自分たちに有利な選挙区を作り出してしまうゲリマンダーは党や議員にとっては“禁断の果実”だからだ。
ゲリマンダーの力で生まれた議員は他党の支持者や無党派層の声に熱心に耳を傾ける必要がないため、議会の党派色が強くなる、民意が反映されにくくなるなどの弊害が指摘されている。有権者の多くも支持政党にかかわらずゲリマンダーには否定的だ。まさに有権者を置き去りにした「党ファースト」「議員ファースト」の制度だと言える。
米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。