世界で初めて「ヒト胚の着床の瞬間」をリアルタイムで捉えた映像が撮影される
カタルーニャバイオエンジニアリング研究所(IBEC)などの研究チームが、ヒト胚が子宮内膜に着床する瞬間を世界で初めてリアルタイムで撮影することに成功しました。着床の全体像を動きのある記録でとらえることで、不妊治療の改善や体外受精での成功率向上につながる可能性があります。
Traction force and mechanosensitivity mediate species-specific implantation patterns in human and mouse embryos | Science Advances
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adr5199Human embryo implantation recorded in real time for the first time - Institute for Bioengineering of Catalonia
https://ibecbarcelona.eu/graban-por-primera-vez-el-proceso-de-implantacion-de-un-embrion-humano この研究は、子宮の外部層を模倣した3Dシステムを用いて行われました。研究では、皮膚や腱にも多い繊維状のたんぱく質のゲルを使って子宮の外側の層を再現し、胚が子宮外でも着床できるようにした実験用の「人工子宮」プラットフォームを開発しました。この装置は、胚が周りの環境をどのくらい引っぱったり押したりしているかを蛍光マーカーと顕微鏡で追跡可能で、平らなゲルの上に胚を置くもの(2D)とコラーゲンの雫の中に胚を入れるもの(3D)の2種類があり、どちらも子宮での初期の環境を再現します。実際に撮影された映像は以下から見ることができます。観察の結果、ヒト胚は周囲のコラーゲンを自分のほうへ引き寄せながら深くもぐり込む、かなり力強い動きを示しました。
以下はマウス胚とヒト胚で着床過程を撮影した映像を並べて比較したもの。観察の結果、ヒトの胚はマウスの胚と大きく異なる着床パターンを示すことが明らかになりました。マウスの胚は子宮内膜の表面に付着するのに対し、ヒトの胚は子宮組織の奥深くまで完全に潜り込むように侵入していく様子が確認されました。この侵入の過程で、胚は周囲の組織を分解する酵素を放出するだけでなく、着床と侵入のために大きな機械的な力を加えて周囲の基質を再構築していることが分かりました。
Lable free implanting embryos loop - YouTube
そして、以下のムービーが着床過程においてヒト胚が子宮に沈み込む様子を撮影したもので、上が上面図、下が側面図です。研究チームは、この着床プロセスにおける力の重要性を指摘し、着床に成功した胚が周囲の基質を適切に変位させ、この機械的な相互作用が着床の成否を左右する可能性があるとしています。また、胚は外部からの物理的な力にも反応し、子宮の収縮が着床に影響を与える可能性も示唆されています。
HUMAN EMBRYOS ORTOGONAL DIGGING HOLE - YouTube
実験ではさらに、胚の外側を作る細胞が妊娠反応の指標となるホルモンを作り始めるなど、着床後の分化が進んでいることも確認されました。培養液を調べると、培養2日後にホルモンが平均約109.5ng/ml検出され、ヒトの妊娠初期に見られる変化が実験環境でも再現できていることが示されています。 着床不全は流産の主な原因の一つであり、全流産の約60%を占めるとされています。今回の研究で開発された子宮モデルは、着床を改善する可能性のあるさまざまな環境や化合物を試験するためのプラットフォームとして利用できると期待されています。また、この研究成果は、不妊治療における着床率の向上や、より質の高い胚の選別、そして体外受精プロセスの最適化に貢献する可能性があると研究チームは述べました。
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