【調査報告】国民健康保険の保健事業を見直すロジックモデルを構築 ―特定健診・特定保健指導を起点にアウトカムを可視化

 国民健康保険(以下、国保)は、被保険者の病気やけがなどに対して必要な医療の給付を行うことを基本事業としている。一方、その事前の措置として被保険者の事故発生の未然防止や早期発見による疾病の重症化・長期化の防止など、保健衛生の向上に資する保健事業も大きな柱である。  今回の調査研究は、今後の国保の保健事業のあり方や、質の向上につながる方向性や具体的方策などを整理することを目的に行われた。

 調査研究にあたり、有識者などからなる会議体を設置し、事業の内容や進め方などについて助言等の協力を得ながら進められた。

 以前から国保の保険者努力支援制度(取組評価分)※に対しては、獲得点数と医療費の関係について「本制度で評価される取組を行うことが必ずしも医療費適正化につながっていない状況」だという指摘もあった。  このような指摘を受け、今回の調査では、47都道府県・1,741市町村の保険者努力支援制度における約130項目の評価指標データを活用し、健康寿命の延伸や医療費との関連性を検証した。

 その結果、調査・分析するには利用可能なデータに限りがあり、データの単位(市町村別、二次医療圏別など)がそろっておらず、下記のような分析の困難性やデータ上の課題があることがわかった。

※保険者努力支援制度とは 市町村などの保険者が国民健康保険において保健事業や医療費適正化に向けた取組を行った場合に、その内容を評価し、支援交付金の額に反映させる仕組み。特定健診や保健指導の実施状況などをもとに「取組評価」や「成果評価」が行われる。

特定健診・特定保健指導を起点にロジックモデルを構築―アウトカムにつながる中間成果も整理

 データ分析を行ったワーキンググループからは、特定健診などの保健事業について公費を投じる以上、アウトカムを求めることは当然と考えられる。だが現状は、情報の登録状況や保険者異動により、脱落を含むデータであることや介入情報が含まれていないことなど、科学的にアウトカムを評価できる構造となっていなかったという意見も出された。

 そのため、今後の見直しの参考として5つの「取組評価の評価指標に求められる要素」を提示している。

取組評価の評価指標に求められる要素

  • 実現性:目的に向かっていることがわかること
  • 公平性:自治体の特性を踏まえた取組の実施や評価が可能であること
  • 測定容易性:評価に係るデータ収集の労力がかからない/少ないこと
  • 妥当性:取組評価の目的に資する指標であること/国保の特性を踏まえた指標であること
  • 継続性:継続的にデータを収集・評価することが可能であること/継続して評価すべき指標であること

 また、特定健診については保健事業の入り口であり、そのあとの介入(保健指導や治療の状況)などの影響を考慮すべきで、特定健診の受診率のみで最終的なアウトカムを求めるというのは無理があるなど、複数の課題を抱えていることもわかった。

 さらに「取組からアウトカムまでのつながり」を具体的に検討すると、評価指標の取組がアウトカムには直接つながらない、もしくはアウトカムまでの道筋が長く、その間にさまざまな保健事業や健康行動が健康状態などに変化をもたらしていることもある。

 それを踏まえ、ワーキンググループは取組とアウトカムの間に、中間アウトカムを置いたロジックモデルを構築した。そのロジックモデルは、個々の保健事業の基礎となる特定健診や特定保健指導を軸(起点)とし、アウトカムの前にある中間アウトカム同士の関係性を整理し、実際の分析でステップを踏めるように設計したという。

 報告書では、このロジックモデルは「本事業の成果」と評価。これにより個々の保健事業からアウトカムまでの一連のつながりが可視化できるようになった。

出典:厚生労働省「国民健康保険における保健事業のあり方に関する調査研究等事業」P.6, 2025年 3月

『事例集』から見えた4つの共通点―ヒアリング調査で明らかになった成功の要素

 今回の調査研究では「特定健診の実施率向上を促す取組」「医薬品の適正使用に向けた取組」の2項目について、市町村を対象にヒアリング調査を行い、その内容を具体的に掲載した『事例集』も公表している。

 ヒアリング内容は、自治体の担当者が抱えている課題は何か、その課題解決のためにどのような取組を実施しているのか、感じられた効果はどのような取組か―などだ。対象は、事前アンケートや地域性、大・中・小規模別にそれぞれ14自治体の計28市区町。

 その結果、自治体規模にかかわらず、多くの自治体が力を入れていた共通の取組ポイントとして以下の4つが抽出された。

出典:厚生労働省「国民健康保険における保健事業に関する取組事例集『特定健診の実施率向上』と『医薬品の適正使用』に向けた取組」P.13, 2025年 3月

 報告書では「当初は成果につながるアクティビティを抽出することを計画していたが、ヒアリングで得られた情報から抽出した取組と国保保健事業の実績との結びつきが弱いことから、共通の取組ポイントとして整理した」と解説している。

 今年2月にはこのヒアリング調査をもとに6自治体からの「事例報告会」も開催した。報告会後のアンケートでは、これまで具体的な事例を聞くことがなく、「今回はこれまで得られなかった新たな情報が多く、非常に参考になった」などの意見も寄せられたという。

*  *  *

 人口減少が進むなか、保健師などの担い手も少なくなり、対象者も少なくなってくる。近い将来、保健事業は庁内横断的に行うことや、国保保健事業だけでなく、住民全体を対象とした取組を行うことが求められてくるだろう。  本報告書や『事例集』は、これからの保健事業を進める上で具体的にどう取り組んでいくか参考になるものとなっている。

参考資料

国民健康保険における保健事業のあり方に関する調査研究等事業(令和6年度事業)|厚生労働省 国民健康保険における保健事業のあり方に関する調査研究等事業|厚生労働省 国民健康保険における保健事業に関する取組事例集―『特定健診の実施率向上』と『医薬品の適正使用』に向けた取組|厚生労働省

[保健指導リソースガイド編集部]


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保健指導を効果的に行うために、その時々の各種イベントを上手くとらえ、事前に情報収集や教材の準備を行うことが必要です。「保健指導2ヶ月先駆けカレンダー」では、各種イベントや啓発週間・記念デーを、2ヶ月前からご紹介していきます。

 冬の季節、 体調を崩す方が多く、献血者は減少する傾向があることから、新たに成人式を迎える「はたち」の若者を中心に、広く国民各層に献血に関する理解と協力を求めるとともに、特に成分献血、400mL献血の継続的な推進を図ることを目的に、毎年1月~2月に実施しています。

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 日本生活習慣病予防協会が制定。同協会が提唱する「一無二少三多」(いちむにしょうさんた)をより多くの人に実践してもらい健康長寿に役立ててもらうのが目的。「一無」は「禁煙」、「二少」は「少食と少酒」、「三多」は「多動(体を多く動かす)と多休(しっかり休養する)と多接(多くの人、事、物に接する生活)」のこと。

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 昭和25年から、学校給食による教育効果を促進する観点から、冬季休業と重ならない1月24日から1月30日までの1週間を「学校給食週間」としました。子供たちの食生活を取り巻く環境が大きく変化し、偏った栄養摂取、肥満傾向など、健康状態について懸念される点が多く見られる今日、学校給食は子供たちが食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けるために重要な役割を果たしています。

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 成年年齢は18歳に引き下げられましたが、20歳未満の者の飲酒は法律によって禁止されています。20歳未満の者はまだ成長過程にあり、飲酒は身体的、精神的に大きなリスクがあり、社会的にも大きな影響があるためです。20歳未満の者の飲酒を防ぐため、関係省庁では毎年4月を「20歳未満飲酒防止強調月間」と定め、PRポスターや各種媒体による広報啓発活動を行っています。

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 世界保健機関(WHO)では、4月7日を「世界保健デー」と定め、この日を中心に、世界的に取り組むべき健康課題について考えてもらうための啓発活動が行われます。

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  毎年4月24日から30日は世界予防接種週間です。世界予防接種週間は、世界中で多くの幼い命を守っているワクチンの重要性について再認識してもらうために設けられています。

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 厚生労働省では、子どもや家庭、子どもの健やかな成長について国民全体で考えることを目的、毎年5月5日の「こどもの日」から1週間を児童福祉週間と定め、児童福祉の理念の普及・啓発のための各種行事を行っています。平成29年度標語は「できること たくさんあるよ きみのてで」

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 毎年5月12日は、近代看護を築いたフローレンス・ナイチンゲールの誕生日にちなみ「看護の日」に制定されています。そして、12日を含む週の日曜日から土曜日までが「看護週間」です。メインテーマは「看護の心をみんなの心に」。気軽に看護にふれていただける楽しい行事が、全国各地で行われます。なお、国際看護師協会では、5月12日を「国際看護師の日」に定めています。

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 日本高血圧学会と 日本高血圧協会は、第30回日本高血圧学会総会において、毎年5月17日を「高血圧の日」と制定しました。

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 日本脳卒中協会は、脳卒中に関する知識を広め、一般市民の脳卒中に関する理解を高めることを目的に、平成14年から毎年5月25日から31日を脳 卒中週間と定め、脳卒中に関する啓発活動を行っています。

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 「世界禁煙デー」は、たばこを吸わないことが一般的な社会習慣となるよう様々な対策を講ずるべきであるという世界保健機構(WHO)の決議により昭和63年に設けられ、平成元年からは5月31日と定められました。また、厚生労働省は平成4年から、毎年5月31日から6月6日までを「禁煙週間」と定めています。

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 ここ数年、日本における近年のHIV感染者・エイズ患者の新規報告数は、1,500人を超えています。HIV検査普及週間の期間中は、国や都道府県が主体となり、HIV/エイズに関する関心を高め、HIV検査の浸透・普及を図るためのキャンペーン活動等が行われます。

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 厚生労働省、都道府県及び(公財)麻薬・覚せい剤乱用防止センターは、今年6月20日~7月19日までの1カ月間、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動を実施します。この運動は、国民一人一人の薬物乱用問題に関する認識を高めるため、正しい知識の普及、広報啓発を全国的に展開します。あわせて「国際麻薬乱用撲滅デー」(6月26日) の周知を図るために行うものです。

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 この週間は、歯と口の健康に関する正しい知識の普及啓発と、歯科疾患の予防に関する適切な習慣の定着を図り、早期発見及び早期治療等を徹底し歯の寿命を延ばし、国民の健康の保持増進に寄与することを目的としたものです。

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 厚生労働省では、毎年6月を「外国人労働者問題啓発月間」と定めています。外国人労働者の就労状況を見ると、派遣・請負の就労形態が多く雇用が不安定な状態にあったり、社会保険に未加入の人が多かったりと、雇用管理上の改善が早急に取り組むべき課題となっています。

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 全国安全週間は、昭和3年に初めて実施されて以来、「人命尊重」という崇高な基本理念の下、「産業界での自主的な労働災害防止活動を推進し、広く一般の安全意識の高揚と安全活動の定着を図ること」を目的に、一度も中断することなく続けられ、今年で90回目を迎えます。

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 厚生労働省、都道府県、日本赤十字社は、毎年7月を「愛の血液助け合い運動」月間として、全国各地で献血への理解と協力を呼びかけ、献血運動の推進を展開します。夏場は長期休暇などで、学校や企業などからの献血の協力者が得られにくく、献血者が減少傾向になる時期とされており、この期間を通じ若い世代を中心に広く献血への協力を呼びかけています。

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 厚生労働省では、食品衛生管理の徹底及び地方公共団体等におけるリスクコミュニケーションへの取組の充実等を図るため、8月の1か月間を「食品衛生月間」と定めています。

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 日本栄養士会は、2016年に「栄養の日(8月4日)」「栄養週間(8月1日〜8月7日)」を制定しました。栄養を学び、体感することをコンセプトに、食生活を考える日とすることが目的としています。

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 日本耳鼻咽喉科学会では、昭和36年以来毎年8月7日を「鼻の日」と制定して鼻疾患に対する啓発を行っています。鼻の病気には、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、嗅覚障害などがあります。花粉症などのアレルギー性鼻炎は、近年発症頻度が増加しています。

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 総務省の「平成28年社会生活基本調査」によると、平均の睡眠時間は7時間40分で、男性は7時間44分、女性は7時間35分、過去20年間の睡眠時間は男女共に減少傾向となっています。

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 老人の日(9/15)、老人週間は、国民の間に老人の福祉への関心と理解を深める、老人が自らの生活の向上に努める意欲を促す、という目的のために設けられました。高齢社会のもとでは、私たち一人ひとりが、世代間のかかわりを深め、社会全体で身近な問題として高齢になっても安心して暮らせる社会づくりに取り組まなければなりません。

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 生活習慣病の特性や運動・食事・禁煙など個人の生活習慣の改善の重要性についての国民一人一人の理解を深め、さらにその健康づくりの実践を促進するため、9月1日(日)~30日(月)まで1か月間を健康増進普及月間とし、食生活改善普及運動と連携して、種々の行事等を国や地方公共団体、関係団体、民間団体等が全国的に実施しています。

 厚生労働省では、9月24日~30日までを「結核予防週間」として、地方自治体や関係団体の御協力を得て、結核予防に関する普及啓発などを行っています。また、結核予防会では周知ポスターやパンフレットの作成配布、全国各地で街頭募金や無料結核検診、健康相談等を実施して、結核予防の取り組みを実施しています。

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 乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)は、それまで元気だった赤ちゃんが、事故や窒息ではなく眠っている間に突然死亡してしまう病気です。乳幼児突然死症候群(SIDS)発症リスクを低くするための育児習慣の啓発活動などが実施されます。

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 内閣府では、子ども・若者育成支援に関する国民運動の一層の充実や定着を図ることを目的として、毎年11月を「子ども・若者育成支援強調月間」と定め、関係省庁、地方公共団体及び関係団体とともに、諸事業、諸活動を集中的に実施しています。

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 全国糖尿病週間は、「世界糖尿病デー」の11月14日を含む一週間の中で、糖尿病に関する知識と理解を深め、その予防と早期発見・治療を促進するためのさまざまな啓発活動などが実施されます。

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 性の健康週間は、世界エイズデーの12月1日を最終日とする1週間の中で、公益財団法人 性の健康医学財団と国、地方自治体などが協力し、健全な性の維持・増進の重要性に対する国民の理解を深めるためのさまざまな広報・啓発活動を行う週間です。

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