新聞に喝! 経済ジャーナリスト・石井孝明

新聞に喝! 経済ジャーナリスト・石井孝明

手をあげる左から小林鷹之氏、茂木敏充氏、宮下一郎委員長代理、林芳正氏、高市早苗氏、小泉進次郎氏=26日午後、名古屋市北区のIGアリーナ(泰道光司撮影)

報道としても国民世論としても、今ひとつ盛り上がりに欠ける自民党総裁選だったのではないか。告示から投開票までの選挙期間中を振り返った今の筆者の率直な思いだ。7月の参院選で自民党が大敗して党勢退潮が明らかであることに加え、石破茂首相の辞任表明までの紆余(うよ)曲折に有権者がうんざりしたことなどがその背景にあったとみられる。

前回の総裁選(令和6年9月)では派手な言動で注目されてきた河野太郎衆院議員ら、いわゆる「キャラが立つ」人物が立候補していてメディアも報道しやすかったと思う。今回の5人の候補は全員、言葉を慎重に選び、失点を避ける展開だった。「小泉氏防戦、高市氏抑制 自民総裁選討論会」(9月25日、朝日新聞)では、メモを読み続ける小泉進次郎衆院議員らの姿を伝えた。

前回の総裁選で、筆者は当欄の1年前のコラム「総裁選、政策巡る本音を聞き出せ」(6年9月15日)において、報道に深掘りが足りないと指摘した。今回もリベラル系新聞の高市早苗候補への敵視は続くが、前ほど目立っていない。そして各社はしらけムードの中で冷静になったのか、ひねった記事が散見される。

世論調査部を持つ読売新聞は「石破内閣実績の評価 総裁候補者への支持分ける」(9月25日)という分析記事を掲載。退陣する石破内閣を小泉氏の応援者が評価、高市氏の応援者が批判との分析を数字で示していた。日本経済新聞は「少数与党の自民総裁選」というミニ連載で各候補の横顔と政治課題を掲載。林芳正官房長官については「林氏『首相の重責』見た強み」(9月26日)という記事で、要職を歴任し有能だが、なぜか人気が盛り上がらない彼の悩みを描写した。

このように工夫をこらす新聞記事もある。ただし今回の関心の低調さを見ると、新聞報道は社会に影響を与えていないようだ。そうであっても新聞・メディアは頑張ってほしい。

私はこの総裁選の背景には、国民の政治に対する想像以上の〝うんざり感〟の蓄積という大きな問題があったと推測している。

「若者に逆襲される『先送り政治』 積み重なった不作為の末」(9月6日、朝日新聞)とあるように、常態化した問題の先送りが、不満だらけのしらけた社会を作り始めている可能性がある。それへの歯止めの一つが国民の議論、そして政治への関心だ。メディアの深掘り報道が、議論のきっかけになると信じたい。

石井孝明

いしい・たかあき 昭和46年、東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒、時事通信記者などを経てフリーに。経済・環境情報サイト「with ENERGY」を主宰。著書に『埼玉クルド人問題』など。

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