JR東日本「分かりにくい」新幹線券売機を改善へ なぜ、スマホではなく「駅での最短1分購入」を実現?

 東日本旅客鉄道(JR東日本)は、2026年度末ごろから大宮駅および宇都宮駅で、「新幹線eチケット購入機(仮称)」の検証を開始する予定だ。

JR東日本が発表したニュースリリースではSuica Renaissanceの第4弾として新幹線eチケット購入機の検証開始が示されている

 多くの人がスマートフォンでチケットを予約・購入できる時代に、なぜJR東日本はあえてリアルの場である駅に新たな専用端末を設置するのか。その背景には、お客さまが駅で直面している課題と、それを解消するための緻密な戦略があった。新端末開発の裏側に迫る。

 JR東日本によると、券売機で新幹線のきっぷを購入するお客さまの約8割が「乗車当日」の購入であり、さらにその半数の方は「発車時刻の20分以内」に購入しているという実態がある。

 「特に大きな課題は、『目的に対してどの操作を選べばよいか分かりにくい』という点で、具体的には、新幹線の購入は『当日・直前』の購入が大半であるにもかかわらず、指定席券売機では、さまざまなニーズに対応する機能が備わっている一方で、操作フローが分かりにくく、どのボタンを選択すべきか迷うケースが発生していた。そのため、初めて利用する方や久しぶりに利用する方が戸惑い、途中で操作を断念されたり、購入までに時間を要したりするお客さまも一定数見受けられた」そうだ。

 また、これまで交通系ICカードで乗車できる「新幹線eチケット」は、Webサービス「えきねっと」でのみ購入可能であり、事前の会員登録が前提となっていたため、駅の券売機では購入できなかった。発車直前という時間的制約のなかで、必要な操作に素早くたどり着けないことが、利用者の大きなストレスになっていたと分析する。

従来の券売機と新端末の利用フローを比較した図であり駅での20分間を焦りからゆとりへと変えるコンセプトが描かれている

 この課題に対し、全てをスマートフォン上のアプリやWebサービスに移行させるのではなく、駅にリアルな端末を新設する理由は何なのか。JR東日本広報はその意図を次のように説明する。

 「公共性の高い移動インフラを担う立場として、Webサービスでの購入に不慣れな方でも安心してご利用いただけるチャネルは、今後も一定程度必要であると考えている」(JR東日本)

 そのうえで、「『新幹線eチケット購入機(仮称)』は、新幹線チケットの購入に特化した端末であり、スマートフォンのようなロック解除や検索、アプリのインストール、クレジットカード情報入力といった手順に加え、会員登録などの利用手続きを不要とし、迷うことなくその場で購入できる。加えて、発車直前の短時間で利用されるケースにおいては、通信環境や端末操作に左右されず、その場で確実に購入できるという点も、駅における専用端末の意義の1つであると考えている」という。

 駅という「多くの方が目にし、見て、触れて体感する」フィジカルな空間において、デジタルチャネルをどう進化させていくかは、同社にとって継続的に模索しているテーマであり、今回の端末はその検証基盤としての役割も担っている。

新しいWebサービスであるJRE GOのロゴと並ぶ専用端末およびスマートフォンのイメージでリアルとデジタルの融合を表す

 新幹線eチケット購入機(仮称)は、最短1分でチケットを購入できるようにするため、あえて決済方法をクレジットカードに限定し、「トクだ値」などの取り扱いもしないなど、機能を思い切って絞り込んでいる。

 JR東日本広報は、「ビジネス上の狙いとしては、全ての機能を盛り込むことではなく、スピードと分かりやすさに価値を集中させることで、これまで購入に不安を感じていたお客さまにもご利用いただけるサービスへと転換する点にある」とその意図を明かす。まずはMVP(必要最小限の機能を持つ製品)として機能を絞り込み、検証を通じて段階的な機能拡張を検討していく方針だ。

 機能だけでなく、UI/UXデザインにおいても開発陣の大きな苦労があった。

 開発において特に難しかった点は、「迷わせないシンプルさ」と「安心して選択できる情報量」のバランス。「情報を減らしすぎると不安につながり、逆に増やすと迷いが生じるため、実際の利用シーン(発車直前・初めて利用する方など)を想定しながら、表示内容や操作の順序を繰り返し社内で検証してきた」という。

 さらに、「スマートフォンと異なり、端末は画面サイズ・高さ・角度が固定されるため、実際の視野や立ち位置を前提とした見え方の検証が不可欠であり、複数の端末パターンでテストを重ね、遠くからの視認性や運用環境での使いやすさを確認しながら開発を進めてきた」と、駅のハードウェアならではの泥臭い検証の過程を明らかにした。

最短1分での購入を実現するためのシンプルな画面イメージであり直感的に操作できるよう工夫されたUIデザインが確認できる

 新しい端末は、2026年秋に開始予定のWebサービス「JRE GO」と共通のデザインシステムおよびプラットフォームを活用して動く。この「裏側の統合」も重要な戦略の1つだ。

 「これまでスマートフォン向けと駅端末は、それぞれ別々に開発され、異なる体験を提供してきた。特に近年はスマートフォン側の進化に注力する一方で、駅チャネルは大きな刷新が難しく、結果としてチャネル間の体験が分断されている状態にあった」とJR東日本広報は従来の課題を指摘する。

 プラットフォームを共通化することで、「一度設計したUIや機能を複数のチャネルで活用できるため、開発効率の向上や品質の均一化が期待される」だけでなく、「機能の追加や改善についても、共通の考え方のもとで対応することで、スマートフォンと駅端末の双方に展開しやすくなり、『どこでも同じ感覚で使える』体験の実現につなげていく」としている。

端末操作からSuicaをタッチして新幹線に乗車するまでの利用イメージでありスムーズなチケットレス体験の手順が示されている

 2026年度末からの検証の舞台として大宮駅と宇都宮駅が選ばれたのは、指定席券売機での購入枚数が多く、JR東日本エリアで完結する予約の割合が約80%と高いため、利用実態に即した検証が可能だからだ。さらに今後は、「何を選べばよいか分からない」という迷いを減らす多言語対応や分かりやすい導線づくりなど、インバウンド需要への対応も進められる。

 この新幹線eチケット購入機(仮称)の取り組みは、JR東日本が進めるDX戦略「Suica Renaissance」の第4弾として位置付けられている。

 JR東日本広報は、「本取り組みは、『Suica Renaissance』における“リアルとデジタルの接点をつなぐ”施策の1つと位置付けている。その中で『新幹線eチケット購入機(仮称)』は、スマートフォンに不慣れな方や当日利用される方も含めて、全てのお客さまにシンプルでスムーズなチケットレス体験を提供する、駅における購入チャネルの1つと考えている」と語る。

 そして、「本端末は、新幹線チケットというコアな価値を起点に、エキナカにおけるデジタル体験の可能性を模索する1つの検証基盤と位置付けており、現在も開発および実証に向けた準備を進めている段階である」としている。

 「発車20分前の焦り」というリアルな顧客課題の解消から出発し、引き算のUIデザイン、プラットフォームの共通化、そして駅という空間の再定義へとつながる新端末の開発。大宮駅・宇都宮駅での検証を通して、私たちの駅の利用体験がどのように変わっていくのか、今後の展開に大きな期待を持てそうだ。

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