中国最強の都市圏で空港建設ラッシュの真意とは?
中国の粤港澳大湾区(広東・香港・マカオグレーターベイエリア)で空港インフラの拡充が加速している。都市圏全体が世界レベルの航空ハブ構築に向けて大規模投資を続けている。
深セン宝安国際空港では第3滑走路が稼働を開始し、「3ランウェイ体制」に移行した。拡張中のT2ターミナルなどと合わせると、年間8000万人規模の旅客需要に対応できる。深セン宝安国際空港
一方、広州白雲国際空港ではT3ターミナルと第5滑走路が運用を開始。中国初の「商用5滑走路」を持つ空港となり、単体空港として世界最大規模へと成長した。年間1億2000万人の旅客処理能力を誇り、広東省は同空港を「南方ハブ」として、上海の「東方ハブ」と並ぶ国際ゲートウェイに育成する構想だ。広州白雲国際空港
香港国際空港の第3滑走路もすでに稼働しており、年間1億人の旅客と貨物1000万トンの処理能力を確保した。広州、深セン、香港の3大国際空港を合算すれば、旅客3億人超と貨物郵便1800万トンの需要に対応でき、世界的にも突出したエアポート・クラスターとなる。香港国際空港
さらに、大湾区内の各都市も航空機能の強化を続けている。仏山の「珠三角ハブ(広州新空港)」は近く着工予定で、年間3000万人規模を計画している。珠海空港のT2ターミナルは運用開始間近。マカオ国際空港の拡張工事は2030年に完了予定だ。恵州空港は「深セン第2空港」として位置付けられている。
大湾区11都市のうち、東莞、中山、江門、肇慶には空港がないが、いずれも複数空港の圏域内にあり、都市間連携による供給過剰リスクを負うことなく航空ネットワークを享受している。すでに大湾区は「国際ハブ-地域ハブ-支線空港」からなる多層構造を形成しつつある。
なぜ大湾区は空港建設をやめないのか
人口減少やインフラ成熟を背景に、中国では「これ以上の空港・高速鉄道建設は必要か」という議論も増えている。しかし、大湾区のように人口流入が続き、国際ビジネスと高度産業が集中する地域では、交通需要は依然として拡大基調にある。
わずか5万6000平方キロメートルのエリアに8700万人以上が集積し、GDPは14兆8000億元(約325兆6000億円)とカナダやロシアに匹敵する経済規模を持つ。世界有数のテクノロジー集積地であり、国際金融センターでもあるため、人、物流、資金、データの流れは極めて高密度だ。深セン市民広場
大湾区には現時点で七つの主要民用空港、計15本の滑走路が存在し、その密度は中国一。2024年の旅客数は2億1400万人で、今年は2億3000万人超の見込みだ。広州、深セン、香港の3空港はいずれも年間5000万人を突破しており、全国でもこの規模の空港は六つしかない。
3空港の年間旅客総数は1億9100万人、江蘇省の約3倍で、中部6省を合わせた規模すら上回る。拡張前の広州と深センの空港では発着枠が飽和し、需要が供給を大きく上回っていた。
国際空港評議会(ACI)は大湾区の航空旅客需要が2030年に3億8700万人、2035年に4億2000万人に到達すると予測している。
航空に限らず、高速鉄道や都市間鉄道、地下鉄の利用も増加を続けている。大湾区が国際競争力を維持するには、空港拡張だけでなく、第2空港、都市間鉄道、都市間メトロなど、広域交通インフラの一体整備が不可欠になっている。
なぜ広州と深センの第2空港は市内に造られないのか
北京や上海、成都のように、巨大都市は増大する航空需要に対応するため複数空港体制に移行するのが一般的だ。広州と深センも同様の需要を抱えるが、第2空港を市内に設ける道を選ばなかった。
広州の第2空港「珠三角ハブ」は仏山と肇慶の境界に設置され、広東省の3大国際ハブの一角に位置付けられている。
深センは恵州の平潭空港を「深セン第2空港」として格上げし、1000万人規模の地域ハブに育成する方針を示した。恵州の平潭空港
こうした決定の背景には、空域制約や用地不足といった技術的要因だけでなく、都市圏レベルでの一体発展という政策意図がある。単一都市が需要のすべてを囲い込めば短期的には成長しやすいが、周辺地域の空白を放置すれば広域の経済効率はむしろ低下する。中国政府が都市群・都市圏を重視するのは、こうした「共創型成長」を促すためだ。
広州が第2空港を仏山側に設置することで、仏山と肇慶に加え、粤西や広西北部の航空空白地帯を補完できる。深センが恵州に第2空港機能を持たせることで、恵州や汕尾など東部地域の利便性が向上し、深セン空港の逼迫したキャパシティーも分散される。
大湾区が世界クラスの都市圏として成熟するためにはこうした広域協調型のインフラ政策が不可欠で、空港建設ラッシュはその象徴といえる。(編集/レコードチャイナ編集部)