かつてのラグビー強豪校が部員1人に 諦めない高校生ラガーマン 聖地・花園へ最後の挑戦

顧問の農端幸二さんとタックル練習に励む長崎太郎さん(右)=堺市北区の金岡高校

かつてのラグビー強豪校で、たった一人の部員となった高校生が聖地・花園をかけた最後の大会に挑む。大阪府立金岡高(堺市)3年の長崎太郎さん(18)。チームメートがいない中でもグラウンドの片隅で地道に肉体を鍛え上げてきた。部員不足の計6校で結成したフィフティーン(15人)で「ONE TEAM」となり、勝利をつかみにいく。

猛暑が続く9月中旬。金岡高のグラウンド端で額に汗を浮かべながら20キロの重りを担ぎ、黙々と体作りに励む長崎さんの姿があった。

グラウンドの中心部ではサッカー部が仲間同士で声を掛け合って練習に取り組む。「正直、一緒に声を出し合って練習できるのはうらやましい」。それでも、顧問の農端(のばた)幸二さん(64)とスクラムを組み、相手に押し負けないパワーを磨く。

ポジションは、スクラムの最前列で相手と組み合う「プロップ」。「支柱」を意味するその名の通り、屈強な肉体が必要だ。校舎の窓から同級生が「太郎! がんばれ!」と声援を送ると険しい表情も少しほころんだ。

金岡高ラグビー部は昭和49年に創部。平成4年には全国高校ラグビー大会の大阪府予選でベスト4入りするなど、強豪ひしめく大阪府内で存在感を発揮してきた。

しかし、少子化の影響もあり、16年に部員がいなくなり一時廃部に。令和4年に再始動したが、長崎さんが入学した5年春には1学年上の先輩が1人いるのみ。その先輩も転部したため、高校生活のほとんどが「唯一の部員」だった。

W杯きっかけ

ラグビーにひかれたきっかけは、日本で開催された6年前のワールドカップ(W杯)。「ONE TEAM」をスローガンに初のベスト8入りを果たした日本代表の奮闘に「選手それぞれの個性を生かしたチームで戦ってみたい」と憧れるようになった。

金岡高のラグビー部員、長崎太郎さん

部員1人というのは想定外ではあった。毎年行われる部活動紹介では、全校生徒の前で1人で部員を募った。体育祭の部活行進では1人でプラカードを持って入場した。「学校行事は寂しいと感じることもあるが、合同チームで試合に出場できるので勝利への気持ちをなくしたことはない」

W杯の母国開催、そして「ブレイブ・ブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち)」の躍進に列島がわいた一方、高校ラグビーは部員の減少に悩まされてきた。

「大阪府高校ラグビー交流会」によると、平成2年の府の全国大会予選には172チームが出場したが、令和5年には37チームにまで落ち込んだ。今年は35チームがエントリーしているが、そのうち6チームが金岡高のように合同チームとして出場する。同会の関係者は「W杯直後でも競技者が増えることはなかった」と肩を落とす。

金岡高が入る合同チームは、生野や上宮太子など計6校で結成。休日を中心にチームでの練習も重ねてきた。

「選手不足に悩む高校同士が助け合ってチームを作り、一つ一つの試合に向き合っている。普段は別々の練習でも、ラグビーに対する気持ちがあるから試合になるとまさにワンチームになれる」。21日の初戦は伝統校・北野高校に挑む。(鈴木源也)

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