対馬の浜辺に中国や韓国からポリタンクやペットボトル大量に漂着…健康影響も懸念、「国際的なルール必要」

 プラスチックごみによる環境汚染が世界で深刻化する中、国内でも日本海沿岸の自治体などがアジアからの漂着ごみに悩まされている。世界初の汚染防止条約の策定を目指してスイスで15日まで行われた政府間交渉は合意に至らず、関係者は対応の遅れを懸念する。一方、日本は世界有数のプラごみ排出国でもあり、海を汚さない対策も求められる。(科学部 鬼頭朋子、社会部 西原寛人)

海岸に漂着した大量のプラスチックごみ(13日、長崎県対馬市で)

 韓国・釜山から約50キロ・メートルに位置する長崎県対馬市。市西部の浜辺は、ポリタンクやペットボトルなどのプラごみで埋め尽くされていた。観光ガイドの坂田彰子さん(45)は「何度回収しても、大雨や台風の度に流れ着く」と嘆く。

 市の集計では、漂着ごみの量は年間3万~4万立方メートル。半分以上がプラ製品で、昨年度回収したペットボトルでは、中国・台湾から漂着したものが54%、韓国からは38%に達した。

 経済協力開発機構(OECD)によると、世界のプラごみのうち、環境に流出するものは年間約2000万トン。うち約9割が途上国からで、不適正な管理が主な原因とされる。

海岸に漂着したプラスチックごみの中には、韓国語表記の容器もあった(13日、長崎県対馬市で)

 日本はアジア各国などに対し、廃棄物の分別・収集システムを構築するための技術協力を行うほか、廃棄物管理を担う人材を1万人育成する目標も掲げる。ただ、漂着ごみの削減は結局、排出国の取り組みにかかっている。海岸清掃などに取り組む一般社団法人「対馬 CAPPA(カッパ) 」の末永通尚理事(54)は「きれいな浜辺を取り戻すには、国際的なルールが必要だ」と訴える。

 一方、環境省の2023年度の調査によると、太平洋や瀬戸内海の沿岸に漂着したペットボトルの流出元は国内が多かった。海流や風の影響といい、プラごみに詳しい愛媛大の日向博文教授(沿岸海洋物理学)は、「太平洋側に流出したプラごみの一部は米国などにも流れ着く」と指摘する。

 日本の国民1人あたりのプラ容器包装廃棄量は年間約32キロ・グラムで、米国に次ぐ世界2位(2015年時点)。国内からの流出を抑えるため、政府や企業はプラごみの削減にも取り組む。ペットボトルの「ラベルレス化」などを推進するキリンホールディングスは、「資源循環型社会の実現、環境負荷の低減に貢献していく」とする。

 22年施行のプラスチック資源循環促進法では、コンビニやホテル、飲食店などを対象に、提供しているプラ製品の削減計画の策定なども義務付けた。ただ、罰則があるのは大規模事業者だけで、小規模事業者の取り組みは一部にとどまる。プラ製ストローなどを提供する東京都内の飲食店経営者は「プラ製のほうがコストがかからず、お客の強い支持もあるので紙製に切り替えられない」と明かす。

 プラスチックは紫外線や波風にさらされると「マイクロプラスチック(MP)」と呼ばれる5ミリ・メートル以下の細かな断片となり、MPを取り込んだ魚を食べることで人間への健康影響の恐れも指摘されている。環境省幹部は「条約の策定に向けた協議を各国に呼びかけ続けるとともに、国内外で実効性の高い取り組みを推進していく」としている。

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