5年稼働するはずだったメタン観測衛星、たった15カ月で音信不通に

Image: Environmental Defense Fund / MethaneSAT

これはあまりに痛い。

メタンの排出源を地球規模で特定するために設計された人工衛星MethaneSATが、稼働期間わずか15カ月でその旅に終止符を打ちました。

メタン観測衛星が道半ばで音信不通に

2024年3月にMethaneSATを打ち上げたEnvironmental Defense Fund(EDF: 環境防衛基金)は、7月1日にMethaneSATの活動停止を発表しました。

6月20日に突然MethaneSATとの通信が途絶え、運用チームが通信の回復を試みたものの、復旧には至らなかったとのこと。チームは、衛星が完全に電力を失ってしまったと考えているそうです。

EDFの主任科学者であり、MethaneSATミッションを率いてきたSteven Hamburg氏は、科学誌Scienceの取材に対し、通信遮断の前触れはなかったとし、「この数日から数週間は、つらい日々でした」と胸の内を明かしています。

メタン排出源をピンポイントで特定、可視化

MethaneSAT打ち上げの際に、EDFはこの衛星が地球温暖化を引き起こすメタン排出量の追跡に革命をもたらし、規制当局がメタン排出源をピンポイントで特定できるよう支援すると約束していました。そして、わずか15カ月間でしたが、MethaneSATは産業由来のメタン排出源の特定を支援する役割を果たしました。

メタンは、二酸化炭素と比較して温室効果がめちゃくちゃ高いので見過ごせないんですよね。国立環境研究所によると、メタンは100年間でCO2の28倍20年の短期だと84倍の温室効果があるそうです。無色透明で無臭、まるで透明人間のようなこのガスの排出源追跡は、温暖化対策を進めるうえで欠かせません。

メタンの主要な排出源農業、化石燃料の生産、埋め立て地における廃棄物の分解であることは専門家も熟知していますが、その発生源を個別に特定して定量化するのは難しいんです。

MethaneSATは、この課題を解決するために、ジェフ・ベゾス氏のBezos Earth Fundから1億ドルの助成金を受けて開発されました。

欧州宇宙機関(ESA)のSentinel-5を初めとする他の衛星が広範囲にわたるメタンの地図化を行なう一方で、最先端の分光計を搭載するMethaneSATは、石油・ガス田に散らばる小規模のメタン排出を検出できました。

同時に、これまでにない精度でホットスポットを特定し、「メタン漏れ」を高解像度の画像として可視化してくれました(下の画像を参照)。

Image: MethaneAIR on Earth Engine

残されたデータと未来への希望

EDFの声明には、MethaneSATの貢献について次のように記されています。

MethaneSATのおかげで、石油・ガス生産地域から放出されるメタンの分布と量に関して、非常に重要な知見が得られました。また、宇宙からの観測データを正確な排出量に換算する能力もこれまでにないレベルに達しました。この能力は、今後の他のミッションでも役立つでしょう。

とはいえ、衛星の運用がこんなにも早く終わってしまったのは、本当に残念なことです。予定通りに進んでいれば、MethaneSATは5年間稼働し、1日に15回地球を周回しながら、リアルタイムに近い形で豊富なデータを無償提供し続けるはずでした。

さらに、収集したデータによって、企業や規制当局は排出の追跡と規制が大幅に容易になり、市民や政府、投資家、ガス輸入業者など、さまざまな利害関係者にも情報が共有されるはずでした。

EDFは、MethaneSATの遺産が受け継がれていくことを願っているとし、次のように述べています。

EDFとMethaneSATは、地球の気候を保護するためのデータを生かして行動に変えるという根本的な使命、特に世界の石油・ガス産業からのメタン排出量削減を含む取り組みに引き続き力を注いでいきます。

EDFは、衛星から取得したデータの処理を継続し、今後数カ月のうちに化石燃料の生産地ごとのメタン排出量を示す画像を公開する予定です。

また、観測データを排出量に換算するためのアルゴリズムや関連ソフトウエア、高精度技術についても、世界中のパートナーと共有して、他の衛星ミッションでも活用できるように協力していくとのことです。

いい仕事をしていたので、もう一度挑戦してほしいと思ったりもするのですが、EDFは現時点で新たな衛星の打ち上げ計画を公表していません。

Hamberg氏は、Scienceに「ちょっと休む予定です。私たちは明らかに大きな損失を被りました。多くの人に不可能だと言われたミッションに、大勢のチームメイトが心血を注いだのです」と思いを語っています。

EDFは、気候変動対策におけるMethaneSATの功績について声明でこう述べています。

気候変動の解決には、大胆な行動とリスクを恐れない姿勢が不可欠です。この衛星は、まさに科学と技術、そして気候変動対策を促す最先端を走っていました。

MethaneSATの残した成果が、次なる革新者たちの挑戦を後押ししてくれることを願ってやみません。

数年以内にEDFがさらに進化を遂げたMethaneSAT IIを打ち上げてくれる気がします。これだけのことをやった人たちが、このままあきらめて傍観者になるとは思えないんですよね。

Reference: 国立環境研究所

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