妊婦への接種開始から1年 RSウイルスワクチン、85%知らず

 2歳になるまでに、ほぼ全ての子どもが感染するとされる「RSウイルス感染症」。特に生後6カ月未満で感染すると重症化リスクが高まる。国内では生まれてくる赤ちゃんを守るため、RSウイルスワクチンの妊婦への接種が2024年5月末から可能になったが、周知不足や自己負担の費用が課題となっている。

30年前は予防法がなく

 福島県立医科大の橋本浩一准教授(小児科学)は、大学院でウイルスを研究し、臨床現場に戻った約30年前の医療の状況をこう振り返る。

 「RSウイルス感染症の子どもは良くなる子は良くなっていきますが、悪くなる子はどんどん悪くなっていきました。人工呼吸器を装着するなど対症療法はしますが、治療法はなく、結局はその子の頑張りにかけるしかなかったわけです」

 国内では02年に、体内でウイルスと結びついて気道への感染を抑える「中和抗体薬」の「パリビズマブ(製品名シナジス)」が承認された。筋肉注射で投与する。

 ただ、対象は先天性心疾患などの基礎疾患がある子どもや、免疫力が弱い早産児ら、重症化リスクのある子どもに限られる。「この薬のみでハイリスクの子どもたちを重症化から予防していく時代が二十数年続きました」

2歳までに全ての子どもが感染

 橋本准教授は「RSウイルスは1歳までに80%、2歳までに100%の子どもが感染します」と説明する。

 初めての感染の場合、15~50%が下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)になり、新生児期には突然死につながる無呼吸発作を起こすことがある。一方、再感染の場合は多くが軽症という。

 日本の診療報酬明細書(レセプト)のデータベースの17~18年の解析によると、毎年、2歳未満の推計11万9000人~13万8000人が、RSウイルス感染症の診断を受け、そのうち約25%が入院。入院した子の4割は生後6カ月未満で、9割は重症化リスクがなかった。

 感染経路は主に接触感染と飛沫(ひまつ)感染。橋本准教授は「閉鎖的な空間で条件がそろえば、感染が広がります。家族や保育施設内で感染が拡大しやすいのです」と話す。

 ある報告ではRSウイルス感染症の流行期に小児病棟のスタッフ50%以上が感染し、その15~20%は無症状だがウイルスを排出していた。「赤ちゃんにとっては大きな病気ですが、大人にとっては風邪症状あるいは無症状という感染症です」

大きな転換点

 橋本准教授が「大きな転換点を迎えた」とするのは中和抗体薬の「ニルセビマブ(製品名ベイフォータス)」の誕生だ。日本では24年3月に承認され、5月下旬に発売された。

 重症化リスクのない健康な新生児と乳児も対象だが保険の適用外。保険が適用されるのは先天性心疾患などの基礎疾患がある子どもや、早産児らに限られる。

 薬価は50ミリグラム製剤(体重5キロ未満)が約46万円、100ミリグラム製剤(同5キロ以上)が約91万円と高額で、健康な子どもに接種させたくても経済面でのハードルがある。

妊婦に接種するワクチン

 そしてもう一つの予防法が妊婦に接種するRSウイルスワクチン(製品名アブリスボ)。母体から胎児へ抗体が移行する「母子免疫」の仕組みを生かしたワクチンで、妊婦へ1回、筋肉注射する。

 日本では24年1月に承認、5月末に発売された。妊娠24週~36週に接種可能だが、…

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