ウクライナ・欧州首脳、トランプ氏懐柔策が奏功-和平協議に向け布石
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ホワイトハウスの大統領執務室でトランプ米大統領との重要な会談に臨むにあたり、最大限に礼儀正しい態度を心がけた。その姿勢は功を奏した。
前回の訪問時に起きた激しい口論を繰り返すまいと神経をとがらせたゼレンスキー氏は、トランプ氏への謝意を繰り返し、妻メラニア氏宛ての手紙も手渡した。米共和党議員からの批判を避けるため、戦時下でゼレンスキー氏のトレードマークとなったカジュアルな装いではなく、黒のジャケットとボタンをきっちり留めた黒のシャツを着用した。
さらに援軍として欧州各国の首脳らも同行した。
このような柔軟な姿勢は奏功した。トランプ氏とゼレンスキー氏は良好な関係を築いた。さらに重要なのは、トランプ氏が少なくとも現時点ではウクライナに対する安全の保証に加わる意向を表明し、領土を巡るロシアとの議論を後回しにする方針を示したことだ。
ゼレンスキー氏は「トランプ大統領との会談でベストなものだった。大きな前進だ」と語った。
この会談は、ウクライナを犠牲にする形での和平合意の早期妥結に傾きかけていたトランプ氏の姿勢を修正しようとワシントンに飛んだ欧州諸国にとって成果となった。トランプ氏は先週、アラスカでロシアのプーチン大統領と会談した後、ウクライナおよび欧州各国が従来主張してきた「和平交渉に入る前の停戦実現」から距離を置くようになっていた。
「何かが変わった」
ゼレンスキー氏と同様に、欧州首脳らも望む成果を得るためには賛辞が有効であることを理解していたようだ。会談ではトランプ氏によるプーチン氏との膠着(こうちゃく)打開の取り組みについて欧州首脳がこぞって称賛した。これまでプーチン氏にスポットライトを当てることに慎重だった欧州首脳にとっては異例の対応だった。
イタリアのメローニ首相は「何かが変わってきている。あなたのおかげで変わった」と述べた。
この日、トランプ氏は周囲の注目を楽しんでいた。「欧州で尊敬される大国の首脳ら」が自身に会いに来たと自賛。ドイツのメルツ首相に対しては日焼けした肌を褒め、欧州委員会のフォンデアライエン委員長については「ここにいる全員よりも力を持っているかもしれない」と述べた。
「MAGA(Make America Great Again=米国を再び偉大に)」などのスローガンが書かれた選挙運動用の帽子が飾られた部屋にはゼレンスキー氏とフランスのマクロン大統領を案内した。
終始、和やかなムードが漂い、ゼレンスキー氏は前回2月の会談での服装を冷やかした記者に対し、前回と同じスーツを着ているのかと尋ね、トランプ氏を笑わせる場面もあった。
安全の保証
これまではトランプ氏がゼレンスキー氏に合意締結を迫っていたが、今やプーチン氏に次の一手が求められる構図となった。欧州首脳らと話し合った後、トランプ氏はプーチン氏と電話会談を行い、ロシアとウクライナの首脳会談開催に向けた準備が進んでいると伝えた。欧州首脳らによると、2ー3週間以内に実現する可能性がある。その後にはトランプ氏を交えた会談も予定されているという。
ただ、依然として不透明な部分も多い。トランプ氏は欧州諸国が「安全の保証の大部分を担う」と改めて強調した。米国も関与するとしたが、保証の具体的な内容は明らかにしておらず、必要かどうか確信が持てないとも発言している。プーチン氏の言葉を事実上信頼しているような発言に同盟国からは懸念の声が上がっている。
トランプ氏とプーチン氏の電話会談後、ロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交政策担当)は、両氏が「直接交渉に参加するロシアとウクライナの代表者のレベルを引き上げるというアイデアについて話し合った」と述べた。ただ、プーチン氏の参加については確約しなかった。
元駐ウクライナ米大使で現在はブルッキングズ研究所のシニアフェローを務めるスティーブン・パイファー氏は、今回の会談はアラスカでのやり取りに新たな展開をもたらしたと評価。「ゼレンスキー氏もいずれは事実上、一部の領土がロシアの支配下に残るという解決策を考えざるを得ないと理解しているのかもしれない」としつつ、それには確固たる安全の保証が前提となると述べた。
原題:Zelenskiy and His Allies Turn on Charm to Keep Trump’s Favor(抜粋)