まさかの逆転発想。パソコンの熱でパソコンを冷やせるかも

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平木昌宏
Image: Concept by Yi-Ting Hsiau and Jingyuan Xu, KIT; visual design by Ella Maru Studio

熱で冷やす。字面だけ見ると完全にバグってます。

パソコンは、CPUやGPUなどからどうしても熱が出ます。普通はファンやヒートシンク、水冷パーツでその熱を外へ逃がします。

ドイツのカールスルーエ工科大学(KIT)と筑波大学の研究チームは、その熱を冷却に使う仕組みを試作しました。使うのは、髪の毛よりも薄い2枚の金属膜です。

研究成果は2026年8月、科学誌Nature Energyに掲載されました。

小さな機器を冷やすのは、意外と難しい

電子機器が小さく、薄くなればなるほど熱を逃がせる場所も限られます。

たとえば薄型のノートパソコンに大きなファンやヒートシンクを載せれば、そのぶん本体も厚くなります。薄さを保とうとすると、冷却に使える場所にも限りが出てきます。

そこで研究されているのが、薄い金属を使った冷却です。金属を引っ張ると熱を出し、ゆるめると冷える性質を利用します。

ただこれまで、その金属を動かすには、モーターや油圧装置が必要でした。今回は、膜を引っ張るためのモーター役を、もう1枚の金属膜が担うというのです。

熱で縮む膜と、ゆるめると冷える膜

Image: Yi-Ting Hsiau et al. / Nature Energy (CC BY 4.0)

今回の冷却技術で使われているのは、「形状記憶合金」という金属です。温めると、あらかじめ覚えさせた形に戻ろうとする性質を持っています。

研究チームは、この形状記憶合金の膜を2枚組み合わせました。

1枚目は「熱で縮む膜」。温められると縮んで、2枚目の膜をぐいっと引っ張ります。

2枚目は「冷える膜」。引っ張られると温度が上がり、その熱を外へ逃がします。そのあと、1枚目の膜を冷まして引っ張る力をゆるめると、2枚目の膜の温度が下がります。この冷えた膜が、冷やしたい部品から熱を吸い取る仕組みです。

伸ばした輪ゴムを唇に当てると温かくて、ゆるめるとひんやりする。あれに近いことを、金属の膜で起こしているイメージです。

パソコンの冷却パーツでおなじみのペルチェ素子も、電気を流すと片側が冷える板ですが、冷やすためには電気が必要です。熱を出している本人の熱で冷やせるなら、なんともエコな話ですよね。

1枚だと非力、でも並べれば…!

Image: Yi-Ting Hsiau et al. / Nature Energy (CC BY 4.0)

気になる実力ですが、今回の試作機はあくまで「本当に熱で冷やせるのか」を確かめるためのもの。

1枚目の膜を86℃で動かしたとき、冷える膜そのものは約13℃も温度が変わりましたが、装置全体で見ると温度差は4℃ほど。外から130℃の熱を当てた実験では、冷やすパワーは約2ミリワットでした。

数十ワット、ときには数百ワットもの熱を出すCPUやGPUを冷やすには、正直まだまだ力不足です。

ただ研究チームは、すでに複数の膜を並べてつなぎ、冷やすパワーを上げる研究を進めています。1枚ずつの力は小さくても、数を増やせば大きな熱にも立ち向かえそうです。

小さな部品まで、まとめて冷やせるかも

この技術のおもしろいところは、膜がとにかく薄いこと。そして、冷やすための動きを熱でつくれることです。

CPUだけでなく、メモリや基板の上の小さなチップなど、あちこちで熱を出している部品のそばに置いておける。そんな使い方ができたら、パソコンの中の熱をまとめて冷やせるかもしれません。

研究チームは、パソコンのプロセッサーのほか、クルマの駆動系から出る熱を使って車載の電子機器を冷やす使い方も考えているそうです。

これまで逃がすしかなかった熱が、冷やすための燃料になる。逆転の発想すぎます。

Source: KIT, Nature Energy

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