韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
ロシアによるウクライナ侵攻以来続く軍備拡大の波のなかで、韓国の防衛産業が急速に存在感を増してきた。その象徴が、中東の戦場で初の実戦投入を果たした地対空誘導ミサイル「天弓-II」だ。【佐々木和義】 【動画】韓国製ミサイル天弓-II、発射の様子 イラン戦争で韓国製地対空誘導ミサイル「天弓-II」が注目を浴びている。アラブ首長国連邦(UAE)軍の天弓-II部隊が発射したおよそ60発のうち、96%がイランのミサイルの迎撃に成功したという。韓国製防空兵器初の実戦投入の成果に世界的な注目が集まるなか、当の韓国国内では自国防衛の弱体化を懸念する声が上がっている。 <初期型はロシアの技術移転で開発> 韓国は1999年、ロシアの支援を受けて中距離地対空ミサイル「KM-SAM」の開発に着手した。2011年に開発が完了し「天弓」と命名され2016年から配備が始まった。パトリオットの導入を主張する声もあったが、北朝鮮戦闘機への対応にパトリオットは高額すぎるとして独自開発が進められた。 天弓-IIは北朝鮮弾道ミサイルの脅威が増大したことを受けて開発された改良型で、2018年に製造を開始し20年から配備されている。交戦統制システム、多機能レーダー、発射台、誘導弾などのユニットで構成されており、ミサイルと統合システムはLIGネクスワン、レーダーはハンファ・システム、ランチャーと車両はハンファ・エアロスペースがそれぞれ生産を担当、韓国防衛産業が総力をあげて製造する兵器である。 <ウクライナ戦争でにわかに脚光> 韓国は2017年、世界最大の防衛産業展示会「米陸軍協会年次総会・展示会(AUSA)」に初出展するなど武器輸出に取り組んできたが実績は限られていた。その韓国防衛産業が急浮上したきっかけは2022年のロシアによるウクライナ侵攻だった。 北大西洋条約機構NATO加盟国となったポーランドは、旧ワルシャワ条約機構時代の兵器をウクライナへ大量供与し、自国の防衛装備には米国かドイツの兵器を新規導入する計画だった。ところが韓国はドイツが10年以上かかるとした戦車180両を3年以内に納入、FA-50戦闘機も48機中12機を2023年中頃までに納入するという脅威的な短納期と低価格を提案して受注に成功。ポーランド軍は選定にあたってFA-50を85点と評価、ベストではないが隣国がロシアの攻撃を受けるなか、背に腹はかえられない状況だった。 一方で、この通常より短い納期を実現した背景には、韓国軍の整備計画に合わせて製造した兵器を輸出に回した可能性が指摘されている。 <「安い、早い」で契約獲得> UAEが天弓-IIを導入した理由は価格である。天弓-IIは最大到達高度15km以下、最大射程40kmで、最高速度マッハ5以下とされている。自衛隊に配備されているパトリオットPAC3の性能は非公開だが、最大到達高度30km以上、最大迎撃半径100km、マッハ5以上と推定されている。天弓-IIの性能はPAC3をはるかに下回るが、1発当たりの価格はパトリオットの370万ドルに対し、天弓-IIは110万ドルと3分の1以下であり、さらに韓国は短期間での納入を提示した。 UAEの防空体制は米国製の地対空ミサイル「ホーク」と地対空ミサイルシステム「パトリオット」、弾道弾迎撃ミサイル・システム「THAAD」が主軸で、天弓-IIは補完として導入された。ポーランドもF-16やF-35を主軸にFA-50を追加した。天弓-IIの実戦での高い成果を受け、今後、米国製兵器を主軸としながら韓国製で補完する国が現れる可能性がある。 UAEは2022年、天弓-IIを10基導入する契約を締結し、既に納入済みの2基を配備している。イラン戦争を受けて残る8基の早期納入を要請したが、他の未納入契約もあることから難しく妥協案か、3月8日にUAE空軍の大型輸送機C-17が大邱(テグ)空港に飛来、誘導弾30発を積み込んだ。納入した誘導弾は韓国軍向けの流用か輸出用等の予備在庫かは不明である。 <注目を浴びる一方で、懸念点も> こうして韓国防衛産業が海外から注目を浴びる一方、国内では対北朝鮮防衛力の弱体化を懸念する声が上がっている。2月下旬、米軍の大型輸送機C-5とC-17が相次いで在韓米軍烏山(オサン)基地に飛来、数日後に飛び立った。C-5は少なくとも2機、C -17は6機確認されたが、前後してTHAADやパトリオットが烏山基地に輸送されたことも確認されている。相当数のミサイルが中東に送られたとみられているのだ。 在韓米軍に配備されているTHAADの発射車両は6台で、1台につき8基の迎撃ミサイルを搭載できる。発射台は烏山基地へ輸送後、慶尚北道・星州(キョンサンブクド・ソンジュ)基地に戻したとされるが、パトリオットは2025年6月のイラン・イスラエル戦争、いわゆる十二日間戦争が発生した際、一部がイスラエルに移送され終結後に戻った前例があり、今回も同様のことが行われている可能性がある。 <イラン戦争長期化で在韓米軍の移動も?> 現時点で、中東移送はTHAADのミサイルとパトリオットの一部にとどまるとみられるが、戦争が長期化すれば在韓米軍の戦力が中東に割かれる懸念がある。在韓米軍と韓国軍は移動について言及を避けており、李在明大統領も「在韓米軍が自国の軍事的な必要性により、一部の防空兵器を搬出することについて反対意見を出している」とする一方、「全く懸念する状況ではない」と強調するが、弱体化は否定できない。 在韓米軍と韓国軍の防空は高高度をTHAAD、中低高度をパトリオット、低度を天弓が担う構造だが、韓国軍は実戦経験がなく、天弓も今回UAE軍によって初めて実戦投入された形だ。 天弓-IIの成果が世界に注目されたものの、それによって韓国の防衛産業の輸出が増えると自国防衛が後回しになりかねない。それに加えて在韓米軍戦力の移転という二重の弱体化も発生。国際情勢の緊迫が収まらない限り、李在明(イ・ジェミョン)大統領が直面するジレンマは、容易には解消されないだろう。 韓国製兵器の「成功」は同時に、輸出拡大と自国防衛の間で引き裂かれる安全保障の矛盾を、世界に露呈した。