体内の異常を検知して薬剤を放出する「スマート軟骨」

サイエンス

ケンブリッジ大学の研究チームが、体内のpHの微妙な変化を検知して薬剤を放出する材料を開発しました。関節炎の痛みなどを検知してすぐに痛みを和らげる「スマート軟骨」が作れる可能性があると期待されています。

Kinetic Locking of pH-Sensitive Complexes for Mechanically Responsive Polymer Networks | Journal of the American Chemical Society

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.5c09897

Squishy 'smart cartilage' could target arthritis pain as soon as flareups begin https://medicalxpress.com/news/2025-09-squishy-smart-cartilage-arthritis-pain.html 体内の腫瘍や炎症を起こした関節では、pHがわずかに変化します。このことに目を付けたケンブリッジ大学のスティーブン・オニール氏らは、pHの変化に反応する材料があれば、その変化を刺激として薬剤を放出するような仕組みを構築できるのではないかと考え、その材料の開発に注力しました。 オニール氏らは、特定の分子を取り込む「ホスト」分子と、そのホスト分子に収まる「ゲスト」分子との相互作用を利用し、外的要因によってこの組み合わせがどの程度結合あるいは分離するのかを特定。これにより、体内のpHがある範囲に入ると長時間結合し、別のある範囲に入ると分離が進むといった材料を開発することに成功しました。

オニール氏らが高分子ゲルなどを用いて開発した材料は、通常時は何も起こらないものの、酸性度が高まると柔らかくゼリー状になり、内部に封入された薬剤分子の放出を促すという仕組みを備えています。材料は狭いpH範囲でのみ反応するよう設計されているため、必要な場所とタイミングで正確に薬剤を放出でき、副作用を軽減できる可能性があるそうです。 この技術を応用すれば、体内の炎症を検知して薬剤を放出する人工軟骨を作れるようになる可能性があります。研究チームの1人によると、この材料は軟骨の特性を模倣することができるため、以前から関節へ応用することに関心を抱いていたとのこと。さらに今回の研究で薬剤を放出できることが分かり、さらに期待が膨らんだとのことです。

オニール氏は「この材料は、体内で何か異常が発生したことを感知し、必要な場所に治療薬を届けることがでいます。これにより、薬剤を反復して投与する必要性を減らし、患者の生活の質を向上させることができるでしょう」と述べました。 オニール氏らによると、理論的には即効性のある薬と遅効性の薬の両方を組み込み、数日、数週間、あるいは数カ月もかかる治療を継続して行うことができるそうです。研究チームは、生体システムでこの材料を試験し、実際の環境で性能と安全性を評価することを目指しています。

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