焦点:崩れた日米首脳会談の「青写真」、中東情勢が最大の焦点に

日米の国旗。米首都ワシントンで2024年4月5日撮影。 REUTERS/Kevin Lamarque

[東京/ワシントン 18日 ロイター] - 高市早苗首相は19日、米ワシントンでトランプ大統領との首脳会談に臨む。就任後初となる訪米は、70年以上続く同盟関係の中でかつてなく難しいものになりそうだ。日本政府は当初、対中国を念頭に投資や貿易、経済安全保障で日米協力をどう強化するかに主眼を置いていた。しかし、中東情勢の緊迫化で景色は一変。会談の最大の焦点は、トランプ氏が期待を示すホルムズ海峡の安全確保への「貢献」に、高市氏がどう応えるかに移っている。

<「会談はイラ​ン一色だろう」>

「今回の会談ほど、日米首脳が多くの経済、政治、軍事リスクを同時に背負った例は思い当たらない。大統領の関心はイランとペルシャ湾に収れんしている。『我々と一緒か、そうでないか』と‌いう、ほぼイエスかノーの問いが突きつけられる」。首脳会談が近づく3月中旬、米政府の元高官はロイターの取材にこう語った。

高市氏は米国滞在中、会談に加えてワーキングランチ、夕食会をトランプ氏とともにする予定だ。ホルムズ海峡の安全を確保するため、トランプ氏が同盟国や友好国に対して護衛艦や機雷掃海艇を派遣する「有志連合」への参加を呼びかけて以降、初めて直接会談を行う外国の首脳ともなる見通しだ。

トランプ氏はこれまで、「(有志連合に)非常に熱心な国もあれば、そうでない国もある」と記者団に発言。「われわれが長年にわたって助けてきた国もある」などと繰​り返しており、高市氏との首脳会談で中東への関与が議題になるのは確実だ。実際、日本政府関係者も「いまトランプ氏の関心はイランだけだ。会談はイラン一色になるだろう」と構える。

<「強い圧力受ける可能性」>

ただ、日本​の政府・与党内では、戦闘が続くホルムズ海峡への自衛隊艦船の派遣について、法的なハードルをクリアできないとの見方が大勢を占める。米のイラン攻撃に関する国連安全保⁠障理事会の決議は存在せず、国際法上の正当性への疑問も解消されていない。

米国の日本政治評論家トバイアス・ハリス氏は「国連決議の不在や、米主導の戦争の合法性に疑問があることなど、日本政府が艦船を現実の戦闘地域に送るには大きな法的障​害がある」と指摘。「仮に法的基盤がより強固でも、国内政治の制約は残る。世論は重要で、日本国民の支持が1桁台にとどまる戦争のために、自衛隊を危険にさらす政治的資本を使うかは不透明だ」と見る。

トランプ氏が日本と同様に名指しした韓国や欧州諸国​もホルムズ海峡に部隊を送ることに慎重な姿勢を崩していない。

こうした中で日本が検討しているのは、日本関係船舶と乗員の安全確保に必要な情報収集を目的に、自衛隊を中東地域に派遣する案だ。ホルムズ海峡やペルシャ湾は除外し、直接的な戦闘地域には踏み込まないことを想定。高市氏は首脳会談でこの考えを説明することも検討している。前出とは別の日本政府関係者は、17日夜に首相官邸で開かれた国家安全保障会議(NSC)でも対応方針が完全には定まらなかったと説明。「トランプ氏にどのカードを切るか、現地入りしてからも最終調整が続くことになる」と述べた。

米主導の「有志​連合」への参加の可否について、同関係者は「形が見えていない中で、参加する、しないの議論にはならない」とも語った。別の関係者は「他国の出方を見てから、ギリギリのタイミングで判断することになるだろう」との見方を示している。

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日本​にとって最も大きな不確定要素は、自衛隊がホルムズ海峡での護衛活動や掃海艇派遣に加わらないという方針に、トランプ氏が納得するかどうかだ。前出と別の元米政府高官は「大統領は会談後、報道陣の前で前向きな発言をしたがるだろう。日本が中東で『何ら‌かの形で参加して⁠いる』と示せなければ、首相がその場で強い圧力を受ける可能性が高い」と語る。

「ジャパンハンドラー」と呼ばれ、日本の安全保障政策の変遷をみてきたシドニー大学米国研究センター所長のマイケル・グリーン氏は、イランの無人機やミサイルの能力などを考えれば各国が部隊の派遣に慎重になるのは当然だと指摘する。同時に「1991年の湾岸戦争で日本の対応が批判された『貢献』が国民意識に深い傷として残っているのも事実で、安倍晋三元首相や高市氏が掲げる『過去の受動的・平和主義的な日本から脱却する』という理念の核心でもある。高市政権としては何らかの形で『存在感を示す』方法を真剣に模索しているのだと思う」と語る。

<「日本を見せしめにもできる」>

イラン戦争の勃発前、日本政府内には高揚感が漂っていた。2月8日の衆院選で高市氏が率いる​自民党が圧勝。長期安定政権が現実味を増した中での初訪​米を前に、ある日米外交筋は「高市氏がトランプ氏と⁠安倍氏以上の関係を築く契機となる首脳会談だ」と意気込んだ。

同関係者は昨年10月のトランプ氏来日を念頭に、「あの時は高市氏を『安倍氏の後継者』と売り込み、良好な関係構築の第一歩になるよう戦略を立てていた」とも明かした。今回の訪米で「トランプ氏にとって日本のリーダーが名実ともに『(安倍)シンゾー』から『サナエ』に代わるはずだ」と意義を強調。政府は対​米投資案件の組成に加え、米国の次世代ミサイル防衛構想「ゴールデン・ドーム」への参画表明、南鳥島(東京都小笠原村)周辺海域のレアアース(希土類)開発での連携な​ど、トランプ氏が好みそうな分⁠野での新たな打ち出しにも腐心した。新たに米国産原油を購入する考えも伝える構えだ。

しかし、米通商代表部(USTR)交渉官だった米アジア・グループのデビッド・ボーリング氏は「イランのことで頭がいっぱいなのが、いまのトランプ氏だ」と、状況が急激に変わっているとの考えを示す。「関心がそこに集中している以上、日本が差し出す『代替的な協力策』でトランプ氏の注意をそらすのは難しいと思う」とも話す。

上智大学教授の前嶋和弘氏(米国政治)は日本の対中政策にも触れ、「本来、日本にとっては米中首脳会談を前に『台湾のことで⁠中国と変な妥協を​しないように』と米国にくさびを打つことが重要な目的だった」と指摘。それが「同盟国である米国による国際法違反の戦争にどこまで関わる​のか、の選択を迫られる事態になった」と解説した。

さらに、タイミングの悪さも指摘。「日本が米国に加担した場合、イランから攻撃され、自衛官が亡くなる可能性すらある」とする一方、「トランプ氏からの要請を断れば、関税の上乗せにとどまらず、日米同盟を破棄するとまで言い出しかねない」と語っ​た。

ある日本政府関係者は17日、ロイターの取材にこうつぶやいた。「戦後最も難しい日米首脳会談かもしれない」。バラ色の「青写真」が大きく揺らぐ中、高市氏は18日、日本を発つ。

(鬼原民幸、Tim Kelly、Michael Martina 取材協力:竹本能文 編集:久保信博)

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2025年6月からロイターで記者をしています。それまでは朝日新聞で20年間、主に政治取材をしてきました。現在、マクロ経済の観点から日々の事象を読み解く「マクロスコープ」の取材チームに参加中。深い視点で読者のみなさまに有益な情報をお届けしながら、もちろんスクープも積極的に報じていきます。お互いをリスペクトするロイターの雰囲気が好き。趣味は子どもたち(男女の双子)と遊ぶことです。

Michael Martina is a Washington-based foreign policy correspondent who covers U.S.-China relations and the global impact of the two countries' diplomatic, technology, and military competition. He was a member of the Reuters team that won the Pulitzer Prize in Investigative Reporting in 2025 for uncovering fentanyl supply chains, and previously reported from Beijing for more than a decade as a senior correspondent for the news agency.

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