キリストの遺体を包んだ「聖骸布」、偽物説を唱えた最古の文書発見 14世紀の仏哲学者が執筆

聖骸布の前で祈りを捧げる司教ら=2010年、イタリア・トリノ/Vincenzo Pinto/AFP/Getty Images

(CNN) イエス・キリストの処刑後に遺体を包んだとされる「聖骸布(せいがいふ)」の真贋(しんがん)をめぐり、偽物だと主張する最古の文書が見つかった。14世紀の仏哲学者、ニコル・オレームの論文にあった記述を、歴史研究者らのチームが発見した。

聖骸布は長さ約4.3メートルの麻の布で、キリストの遺体とされる人物の像が写し出されている。本物かどうかをめぐっては長年、議論が続いてきた。

ベルギーにあるルーベン・カトリック大学の歴史研究者、二コラ・サルゾー氏らがこのほど、中世史研究の専門誌JMHに発表した新たな研究によると、聖骸布が偽物だという説は、従来考えられていたより早い時期から出ていた。

著名な哲学者のオレームが1370年ごろ、聖骸布は教会の利益のために捏造(ねつぞう)されたと主張していたことが分かった。この記述は、オレームによる1355~82年の著作集「Problemata(問題集)」の中にあった。Problemataの内容はこれまで盛んに研究され、一部の文章はインターネット上でも読めるようになっているが、聖骸布に関する記述は長年、見落とされてきた。未公開論文を編集していたサルゾー氏の同僚がその重要性に気づき、同氏に連絡したという。

「この件で新たな証拠が出てきたことは極めて重要だ」と、サルゾー氏は語る。オレームは教会関連の話題などで偏りのない意見を述べていた人物。ある事象を論じる前にそれが真実であることを確認しようと努め、「信じるとは何か。私たちが何かを信じるのはなぜか」と問い続けていた。

聖骸布の記録としては今まで、1389~90年に著名人らが書いた文書が最古とされてきた。仏北部シャンパーニュ地方のトロワ司教だったピエール・ダルシはこの中で、聖骸布は芸術家の創作だと言明していた。

サルゾー氏らは、聖骸布が偽物だという科学的、歴史的根拠がまたひとつ加わったとの見方を示すが、まだ断定できないという意見もある。

オレームと聖骸布

1389年の文書によると、聖骸布は1355年ごろ、シャンパーニュ地方に出現した。布には長髪とあごひげのある裸の男性の影が写り、十字架にはりつけられた傷のような赤茶色のしみが付いていた。キリストの遺体を包んだという話、奇跡を起こす布だという話が即座に広がった。

だが当時のトロワ司教がまもなく偽物だと発表し、人物像を描いた芸術家にも会ったと述べた。それから約30年後、トロワ司教の任を引き継いだダルシが、教皇宛ての書簡で創作だと断言。教皇はその直後、聖骸布の展示は模造品としてのみ認めるとの方針を示した。

布は数カ所を転々とした後、1578年にイタリア北部トリノへ移された。今もトリノ大聖堂に収蔵されている。

トリノ大学の教授で聖骸布についての著書もあるアンドレア・ニコロッティ氏によると、1988年に3カ所の研究所で実施された放射性炭素年代測定では、1260~1390年の布と判定された。布の複雑な織り方から、13世紀以降の織機が使われたはずとも指摘されている。

「遺体の像が布に写ることはないので、考えられる可能性は二つ。芸術家による創作か、あるいは奇跡かだ」と、ニコロッティ氏は語る。

オレームはProblemataの中で、奇跡といわれる現象には注意する必要があると主張。教会への寄付を集めるために人々をだます聖職者が多いと述べ、聖骸布を例に挙げていた。オレームは、ダルシの書簡より7年早い1382年に死去した。

今も続く議論

聖骸布をめぐる研究と議論は今も続いている。今年7月には、ブラジルのチームが3Dモデリングのソフトを使った研究で、布の像は人体でなく、彫像から転写されたと結論づけた。

これに対して聖骸布の本物説を唱える人々は、不完全な研究だと主張。1978年に芸術作品説を否定したトリノ聖骸布研究プロジェクト(STURP)の結果が考慮されていないと反論した。STURPでは、着色剤が検出されないことや、血痕の分析結果が否定の根拠とされた。

サルゾー氏らの研究に関与していない米ルイジアナ州立大学シュリーブポート校教授のシェリル・ホワイト氏は、「聖骸布への懐疑論は以前からずっと存在していた」と強調。オレームが「14世紀フランスを代表する知識人の一人だったことは間違いない」としたうえで、その記述は聖骸布自体に関する直接の知識に基づく主張というより、遺物の偽物全般に対する批判の表れだと述べた。

同氏はまた、聖骸布は何世紀も前から説明がつかず、なぞのままになっていると指摘。さらなる歴史的文献や科学的調査が必要だとしたうえで、今後も「決着がつく」ことはないかもしれないが、そのなぞこそが人々の心を引きつけていると述べた。

サルゾー氏も多くの研究者らと同様、聖骸布とその起源への理解を深めるにはさらなる研究が有益だろうと話す。同時に「聖骸布をめぐっては、すでにあらゆる説と、その反対の説が出尽くしていることが問題だ。私たちはこの中から自分の好きな説、気に入らない説を自由に選べるようになっている」との認識を示した。

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