【社説】国旗損壊罪 必要性そのものに疑問符

 本当に必要な法律なのか。疑問が拭えない。

 日本国旗を傷つける行為を罰する「日本国国章損壊罪」の創設を巡り、自民党が検討を重ねている。

 自民と日本維新の会は昨年10月の連立政権合意書で法整備を掲げた。今国会に法案を提出し成立を目指す構えだ。

 外国の国旗は、現行の刑法に侮辱する目的で損壊した人を罰する規定がある。日本国旗に関する罰則はなく、バランスを欠くとの主張だ。

 外国の国旗で罪に問われるのは、外交関係に悪影響を及ぼさないようにするためだ。同列に論じるべきではないとの指摘がある。

 自民総裁の高市早苗首相は強いこだわりがあるようだ。野党時代の2012年、国旗損壊罪を新設する刑法改正案の国会提出を主導した。衆院解散で廃案になったが、21年にも提出の動きがあった。

 とりわけ危惧されるのは、憲法で保障される表現の自由や思想・良心の自由が脅かされる恐れがある点だ。

 国旗を使って政治に抗議する姿はこれまでも見られた。そうした行為まで罪に問うとすれば、表現や思想を抑え込む萎縮効果を生みかねない。

 懸念の高まりを受けてのことだろう。自民が検討する法案は、表現や思想の自由を侵害しないよう個人の内心に立ち入ることは想定せず、国旗の尊重義務などは課さない方針だ。

 損壊の意図や目的といった主観的な要素は問わず、燃やすなどの行為や状況を客観的に判断する方向だ。罰則は外国旗の損壊罪と同じ2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金を検討している。

 損壊行為に限定するのであれば刑法で十分だ。他人の国旗を損壊する行為は器物損壊罪に問われ、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科せられる。

 なぜ、わざわざ損壊罪を設ける必要があるのか。

 世界ではフランスやドイツなど国旗損壊を罰する国もあれば、英国やカナダなど罰則規定がない国もある。

 米国は罰則があるものの、連邦最高裁は1989年、表現の自由を保障した憲法に反するとの違憲判決を出し、事実上無効化している。

 日の丸を敬う人もいれば、戦前の軍国主義や植民地支配の象徴となった歴史から否定的に捉える人もいる。

 多様な考えがある中で罰則を設ければ価値観の押し付けになり、表現や内心の自由を揺るがすことにつながるのではないか。

 99年に制定された国旗国歌法は国旗を日章旗と定めた。ただ、尊重義務や損壊行為に対する罰則は設けなかった。

 当時の小渕恵三首相は「国家の威信の保護の在り方として刑罰をもって強制することが適当かという根本的な問題がある」と答弁している。

 当時の政府見解を改めて思い起こし、法整備の必要性そのものを問い直すべきだ。

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